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ずっと君を愛してる。

作者: バイニク

 私はホラー小説を主に20年以上書いているしがない男です。


 現在私は39歳で、発達障がい者の認定を受けて障害者作業所で働いております。そんな人間が定期的に書いている愛をテーマに小説を描いてみました。2000字程度の短編です。よければ読んでください。


 読んで頂いた方々に有意義な時間を過ごしていただければ幸いです。また、なにかしら作品に刺激を受けて、元気を与えることができたなら、それが私の何よりの本望であります。


 1


 僕は、しがないただの男だ。もうすぐ40になる。

 でも今、僕は君の胎内にいる。君のお腹の中、赤ん坊として出産の日を待っている。

 疑問に思うかもしれない。なぜ僕に自我があって、僕が君を認識していて、赤ん坊として君の胎内に入ることができたのか。

 そんな不思議を実現きたのはきっと、僕が君をずっと、ずっと愛してきたから。


 

 2


「お母さん」

 僕が8歳の頃、母さんは父のことが好きだった。

 だから僕が帰ると、よく父と濃厚なキスをして見せつけやがったんだ。

 無性に、腹が立たないか? もちろん親だし、愛し合うもの同士が結ばれたのだから体を重ねたくなる気持ちはわかる。

 でも僕は、母さんの息子だし、母の愛を精一杯に享受する権利があるんじゃないか?

 権利だなんて、はっ、理屈っぽくてよくねえや。

 そうだよ、僕はマゾコンなんだ。

 愛していたんだ母さんを。腹のでた乱暴な父に抱かれる姿を見るたび、我慢のならない怒りがこみ上げてきた。

 父が死んだのは僕が10歳になった頃だった。頭から血を流して死んでいたのをよく覚えてる。

 これで僕が、母さんのただ一人の男、愛する一人息子、そうなるはずだった。

 現実は非情だった。母は新しい男を見つけて再婚した。

「新しいパパよ、ご挨拶しなさい」

 母にそう言われたとき、僕は目を真っ赤にして下唇を強くかみしめた。

 許せない。僕が、僕こそが、母さんの愛を独り占めする男だ。


 3


 人は一人では生きていけない。愛し愛され支え合って生きていくものだと、僕はそう思ってる。 

 君を知らなかったとき、僕はいくつかの寄り道をしてしまった。

 最初は母さん、次は高校の同級生、その次にやっと同じスーパーで働くことになった君だ。

 僕の不貞を許して欲しい。もっと早く君と出会っていれば、君が最初の一人だったら、僕の愛がもっとピュアで真実だってことが、わかってもらえたのに。

 きっと、わかってもらえたのに。

 

 4


 君が、僕ではない男を選択したとき、僕の目から止めどない涙があふれた。

 相手はスーパーの精肉コーナーで働く上司だった。腹がでっぷりしていて、昔死んだあいつ、父によく似ていた。

 許せない。君に僕の愛が充分に届かなかったことはわかる。過去に別の女を愛してしまったことは謝る。だから、その男を愛して欲しくなかった。

 どうしても、僕だけの君でいて欲しかった。

 その男が牛刀で刺されて死んだのは、君のお腹の中に子供ができたことが発覚したときだった。



 5

 

 今まで何度も、繰り返し、言ってきたことだが僕は君を愛してる。

 だから、君に復讐の刃を突き立てられたときも、僕は君を愛している。

 愛してる。愛してる。愛してるよ?

 うれしい。涙にうるんだ君の表情、僕に初めて見せてくれた激情、愛する男を奪われた目一杯の恨みを、冷たい刃に乗せてくれたことを。

 君の想いの全てが、僕に対する憎しみが、刃を通して伝わる。

 ありがとう、そして、こんにちは。これで、君も僕と一緒になれたね。



 6


 僕は人一倍寂しがり屋だから、ずっと傍にいてあげてください。

 僕は愛に飢えているから、ずっと抱きしめてあげてください。

 僕は、君を愛してる。だから君も僕を愛してあげてください。精一杯、愛してあげてください。

 僕は君の愛を受けて、この世に生を受けた。君は僕を出産して喜んでくれたし、父の死んだ未亡人として、ただ一人の家族の僕を愛してくれた。

 幸せだった。今まで、何度も、愛する人に裏切られてきた。そのたびに、どす黒い感情がうずまいて、僕を制御できなかったこともあった。

 あはは、幸せ。なんて幸せなんだ。これが愛する人と結ばれるということなのか。君の瞳にはいつも僕が映っている。僕も君の瞳を見つめている。

「愛してるよ、母さん」

「愛してるよ、たける」

 君と僕がお互いを見つめ合って愛をささやく。そして手をつなぎ一緒の道を進む。この道が続く限り、僕と君の愛を邪魔する誰もいない。

「新しいパパよ」

 幸せな日々は突然終わりを告げた。

 君にそう言われたとき、僕はどんな顔をしていただろう。僕は少年の頃に育ててくれた母さんのことを思い出した。

 ああ、そうだったのか。今、やっとわかった。母さんが新しい父を連れてきたのは、僕を愛するがゆえのことなんだって。

 僕を愛してるから、僕を育てるために、新しい父を連れてきたんだって。

「母さん、ありがとう……」

 僕は目に一杯涙を溜めた。僕は君を愛してる。それはずっと変わらない。

 でも、少しだけ違うんだ。僕が望んだ愛の形と、違うんだ。

 僕は、君だけが欲しいんだ。別の男を連れてくることは、違うんだ。

 僕の、僕の考えている愛は、もっと清らかでピュアなもので、それは不貞なんだ。

 だから、ごめんなさい。本当にごめんなさい。生きていてごめんなさい。呼吸をしてごめんなさい。君を愛してごめんなさい。

 冷たい刃から伝わる愛する君の温かい血、涙する僕、恐怖に顔を引きつらせる新しい男。その全てが僕の愛に満ちているような気がした。

 

 7


 人と人とが交わるとき、僕はずっとその人を愛することを考える。

 ほんのちょっとした行き違いで、憎しみが生まれることもある。

 そんなとき、今一度考えてみよう。僕はなぜ君を愛しているのか。

 考えるまでもなかった。君は僕に微笑みかけてくれた。そのときから、僕はずっと君を愛してしまっていた。

 ありがとう、今までたくさん愛してくれて。そして、さようなら。

 僕がいつか死ぬその日まで、僕は君のことを愛してる。

 あは、あはははは。


 

 了


読んでくださりありがとうございます。感想あれば、bainiku@gmail.com @bainiku081 Gメールやツイッターでも受け付けております。

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