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社長、まずは現地調査です!

「ヘルムートさまは、何はともあれマーケティングだって言ってました。マーケティングしましょう、マーケティング!」


 ヘルムートが帰ると、アリーナは早速、居眠りしている社長神・ラインハルトのそばでやかましく騒ぎ立てた。

 緩慢に瞼を開けたラインハルトは、ぼんやりとしたまなざしでアリーナを見て「面倒くさい」と聞き取りにくい声でぼそりと呟いた。


「面倒でも、それが社長のお仕事なんですよね? 会社を潰している場合ではないです、やりましょう! 教えてくだされば、私ができるところまでやりますから。まずは現地調査だと聞きました。この迷宮がある場所、気候や国の歴史とか、必要なことを教えてください。価値の出そうなアイテムの開発をしましょう。何か資料……」


 言いながら視線を書棚に向けるも、朽ちかけのファイル数冊にどれほどの情報が詰まっているのか。おそらく、最新の内容でなければあまり意味が無いように思われた。


(外に出て調べたいけど、ここはガードを固くしなければならない迷宮最奥だから周辺のモンスターも強敵揃いのはず……。私の魔法なんて、煮炊きに使う炎程度の火力しかないから、襲われたらひとたまりもない。ひとりで外に出られないなら、どうしたって社長に同行して頂かないと)


 その危機感はラインハルトには届いた様子もなく、くぐもった声で説明される。


「そんなに頑張る必要はない。君を元の世界に戻す方法は、待っていればそのうちヘルムートさまが開発する。多少不便かもしれないが、そこは目を瞑ってしばらくの間、自由に暮らしてくれ」


 わかってない、とアリーナは事務机越しにラインハルトに詰め寄った。


「社長はそう言いますけど、私がここで生活している間、食事をドロップさせたりその他諸々で社長は力を使い続けることになりますよね? 少しでも集客をしておかないと、神通力が尽きて迷宮を踏破され、消滅してしまうのではありませんか?」


「そのときはそのときだ」


「そんなのは嫌です!! 私は現物支給分働きたいですし、社長にも消滅してほしくありません!!」


「君には関係ない」


 そっけなく言い捨て、ラインハルトはそのまま目を閉ざした。


(社員の天使すべてに見捨てられた、やる気のない社長神ってこういうこと……!? ラインハルトさまは、どうして仕事に意欲を持てないの? ご自分が消滅するなんてどうでも良いとお考えみたいだけど、それはあまりにも悲しい……。ラインハルトさまのお心はわからないけれど、私は悲しい)


 アリーナは唇をかみしめて、ラインハルトが再び声をかけてくれるのを待ったが、その気配はない。寝息をたてている様子もないので、本当は寝ていないと思われたが、少なくとももうアリーナとの会話は終わったものとしたらしい。

 それならそれで、とアリーナは覚悟を決めて踵を返す。


(もしかして、社長の神通力はすでにかなり衰えていて、たくさんの休息を必要としているのかも。だとすれば、召喚モンスターの数がそんなに多くないことも十分考えられる。私は、その可能性に賭けるしかない。一番危険なところさえ抜けてしまえば、迷宮を出られたりしないかな。いざというときは「アリアドネの糸」があるから、きっと大丈夫……)


 「アリアドネの糸」は、アリーナが使える数少ない下級魔法のひとつ。アリーナの世界には、この世界の迷宮に似た「ダンジョン」が世界各地に存在していたが、ダンジョンの奥で食料が尽きたり、魔物に襲われて絶体絶命になったときに有効な脱出魔法だ。使えば一瞬でダンジョンの入口まで出られる。どれほど深層まで潜っていても、脱出ポイントはダンジョンに入るときに使った入口のみ。微調整不可。それだけの単純な魔法だった。

 おそらく、アリーナが使用した場合、この世界に召喚されたポイントがスタート地点として認識され、会社の事務室に戻ってくるはず。


 モンスターに襲われて逃げ切れなかったら使おう。


 そう決めて、アリーナは迷宮内部に向かうドアを開けると、その先に進んだ。






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