龍騎士セトの思い
マッキーとコルの助言に従い、
輝龍王は、王国を通じ公示した。
我はフロレンティアを統べる輝龍である。
我の天空界(王国内)では、
日に5名迄の女神としか、交わらぬ!
そして、予約とする。
尚、我は誰をも愛する事は無い。
故に、誰とも子を持つ事も無い。
あるのは快楽のみじゃ。
それを承知の上、来られたい方は来られよ!
「なんとまぁ、これを本当に、この文面で
こ・こ・公示されるのですか?
輝龍さまぁ。これは、余りにも明け透けで
そして、上から目線過ぎませぬかぁ?」
「何が言いたいのだ、セトよ。
おまえが限定するよう、
俺に進言したのではないか!」
「そうですが・・。
これでは、各所より苦言が参るのでは無いかと」
「何が苦言だ。誰が何の文句を言う。
俺は素直な気持ちを、
嘘偽り無く伝えておるだけじゃ。
さっさと、公示せよ!」
「・・畏まりました。」
とは言ったものの、やはり、こんな公示は
前代未聞。
それも 尊厳級の神の出される公示では無い。
迷いに迷ったセトは、アル様に相談する事にした。
「アル様、お忙しい所、申し訳」
「セトか。お前から連絡とは珍しいのう。
なんだ、また虹輝が何かしでかしたか?
おまえ達には、苦労をかけるのう。
で、何をしでかした?」
「アル様、もったいない御言葉です。」
「よいよい、早急に話せ。急いでおるのだろ。
前降りは良い」
「はぁ。アル様、輝龍様のお噂は
お耳に入っておられるますか?」
「アハハ、あの女神ハーレムとか、女神の入れ食いの話か。」
「そんな大層な・・」
「嘘の話なのか?」
「いえ、私の口からは・・」
「その通りの奇行をしておるのじゃろうが。」
「はぁ。奇行と申しますか、
輝龍様からアクションを起こされる事は無く、
あちら様方が押し寄せていらして、
輝龍様は、
遠くからわざわざ来る者を拒むのは気の毒だと、
お相手されていらっしゃるだけでして。」
「ふむ。物は言いようと、言うか、
まぁ、我の聞いておる話と合致しておるの。
で、それに苦言を申せと言うのか?
それは
おまえら軍団で、特におまえセトの役目だろ?
「はい。輝龍様の快楽については、
ホトホト呆れてはおりますが、
それよりいらっしゃる方々による迷惑が、その・・」
「来る奴らの?なるほど
虹輝の取り合いの、後始末が大変と言うことか。
アハハハ。おまえらは、大変な主に仕えておるのぉ。我の元に鞍替えするか。冗談だよ。で?」
「はい。私も苦言を申しました。
もう少し何とかしてくださいと。このままでは、
王国の皆が倒れます。限定してください。
ゲス輝龍
までは、流石に言えませんでしたが。
考えるように話しました。
一応、輝龍様は、考えられ、ご親友方にご相談された模様で・・」
「マッキーとコルにか(笑)」
「はい。お二方とよくよく話され結論として
来られる方々に嫌われれば良い。となったそうで」
「まぁ、それが良いはなぁ。で、どうなたのじゃ」
「はぁ、で・・・」
セトは輝龍が出すよう指示した公示を
アルに聞かせた。
「・・・」アルは口をあんぐりさせ我に還り
「アホか。ハァ~。
素直な気持ちを言えば良いと言うものでは無い。
それが、あやつは判らんのか。判らんわなぁ。
ウ~ン、はて、どうするかのう。
まさか、父様や母様、レイシャ達に、
こんなふざけた話をわざわざするのもなぁ。
まぁ良いわ。そのまま出せ。出して良い。」
「良いのですか?」
「ああ良い。虹輝の破天荒さ、パワーは
皆が知っておる。
陰で笑われる事もかまわん。
それにより、我等、絶対神の家族が貶められる事も無い。それが虹輝と言う神なのだからな。」
「それをお聞きして、肩の荷が下りました。
アル様。また、お力をお貸しくださいませ。」
「おお、いつでも。切る」
アル様に話して許可を貰えてひと安心したセトだったが、
「セト、どこにおる」輝龍の怒鳴り声がする。
「はい。ここに」
「おまえ、公示を出してないのか!」
「はい。これから出そうかと・・」
「バカ。何故すぐに出してないのだ。
もう、十数人来ておるではないか!
俺は今日から、5人迄のつもりで趣味を見つけるつもりでおったのに。」
「はい?趣味ですか?趣味は女神と快楽を・・」
「おまえ、何言ってんだ。バカか!
そんな趣味は、ないわ!馬鹿セト。
それより、どうするんだ。この始末
おまえがつけろよ!俺は知らん。」
「輝龍さま~」
しばらくして輝龍の元に戻ったセトは
顔面、引っ掻き傷だらけのボロボロだった。
それを見て輝龍は
「セト、おまえ龍人だよな。
俺の最初の10体。王国でなんだっけ?
賢騎士
とか呼ばれているんじゃなかったっけ?
あっ、勘違いだったか。わりぃわりぃ。(笑)」
「輝龍さま、面目ありません。
いやいや、誰のせいで。
しかし、女神様方も、ああも大勢で押し寄せられると、こちらは手出しする訳にもいかず、
怒り暴れられて、お止めするだけで傷だらけに。
受け身のみで、これで済んだのですから、
少しは褒めてくださいよぉ。トホホ」
涙目で訴えるセトに虹輝は
昔のように頭を撫で
「ありがとう、セト。」と呟いたのだった。
なぜ、ありがとうとの言葉になったのか
虹輝にもわからなかった。
無意識に自分の為に、いつも身体を張る
騎士セトの思いを感じたのだろうか。
この日、天空界に降りて初めて
王国に快楽に伴う音が響く事は無かった。
物が壊れる事も。
その静けさの賜物なのか、
輝龍はフロレンティアの1惑星の
ある個所から目が離せないでいた。
魔物から逃げる3つの小さな影
よく見ると、どうやら少年と少女、犬みたいだ。
「フィーネ逃げろ」
「兄さま、怖い。それに足がもう動きません。
兄さまだけでも、助かってください。
フィーネは、ここに置いて行ってください。」
「何を言う。」
走れなくなった少女を庇い魔物に
棒きれと、小さな剣で立ち向かう兄。
兄はもう、傷だらけで肋骨も腕も折れ、
内蔵も傷ついている。
立っているのがやっとの状態に見える。
その兄に襲いかかっている魔物が、
なかなか留めをさせないでいる。
兄の前に・・
魔物と兄の間に、小さな白い犬が
兄を守るように魔物に立ち向かっている。
いや、白い犬だったと言うべきか
自身の体から流れる血で、真赤な犬となって
なんとかこの兄妹を守ろうと
魔物の爪で肉が裂かれようとも、
殴られ骨が折れようとも
命有る限り守るとの意思が眼に宿っている。
犬が倒れれば、兄も簡単に止めを刺されるだろう。
犬は全身の骨が折れ、体の肉は切り刻まれ
今すぐ命尽きてもおかしくない。
もう、時間は僅かもない。
犬にも兄にもそれはわかっていて、
それでも、なんとか妹だけでも助けたいと
立ち続けている。
虹輝とセトは、最初は興味深げに見ていた。
兄が妹を助けたい。
それは自分にも
アル兄やレイシャ姉デュシ様がいるから
解る気がする。
でも、あの小犬は、なぜ兄妹を置いて逃げなかった?逃げれば良いではないか。なぜ逃げなかったのだ?
「システィナ(賢騎士の一人)、二人と犬にバリアを張れ。
セト、魔物に火の矢を放て」
「はっ!」
「(少年、犬臥せろ)」
シュパ~ン
パッキュィ~ン
ゴオオオ~
魔物が射ぬかれ、燃え上がる。
システィナのバリアがどうにか間に合い
二人と1匹は炎を浴びてはいない。
少女は震えているが、少年と犬は動かない。
少女は突然光に包まれ
襲いかかっていた魔物が火に包まれ消滅した事に唖然としていたが、
すぐさま、兄と犬の元に駆け寄った。
その時
「少女よ、我は輝龍。そなたに問う。
そなたは、どうしたい。
このまま、この世に留まるか
そなたらを救った我の元に参るか、選べ。」
(輝龍さま、下界の者を、天空界に置く事は出来ませぬ)
(構うな。)
「あのう、兄さまと、この犬はどうなるのでしょう。動きません。死にそうなんです。
どうか、助けてください。
助けてくださるのなら、私、なんでもします。
命をお望みなら、この命を差し上げます。
どうか助けてください。」
「命を差し上げるだと?そう申すのか!」
「はい。お望みであれば。」
「それらが、そちを、助けるために命をかけた。
その命を捨てると申すのか。
それらが哀れに思う。我にはわからん。」
(セト、善きに。)
セトは、少年の思い、少女の思いに胸が熱くなった。
そして、小犬の意思に感銘した。
それは自分達、龍騎士の思いと通じる。
「主人の為に命尽きるまで闘う。
決して折れぬ心。
命をかけた意味、忠義に答えましょう。」
セトは、二人と1匹を包むバリアを
そのまま、天空界の王国に引き上げさせたのだった。