成り行き上の諦念 【月夜譚No.187】
刀を鞘に納める音が静寂に響く。自身の倍はあろうかという巨体が音もなく頽れてから、彼は深く息を吐き出した。
膝を伸ばし、姿勢を正してその場を去る。切れ長の瞳は、決して後ろを振り返ることはなかった。
こんなことが、何度あっただろう。最初は回数も自然と覚えていたが、十回を超えた辺りからもう判らなくなっている。
――一カ月前、酒場で遭遇した喧嘩の仲裁に入ったことに端を発する。彼自身は静観する構えだったのだが、口喧嘩ならまだしも殴り合いに発展しかけたので、見るに堪えなくなったのだ。
その喧嘩をしていた一方が、とある組織の中枢人物だったらしい。ただ喧嘩の仲裁をしただけなのに、恥を掻かされたと因縁をつけられ、以来、こうして刺客を送り込んでくる始末だ。
彼の腕なら大抵の者では太刀打ちできないが、如何せん一々面倒臭い。こちらも予定というものがあるし、刺客に構っていられるばかりではないのだ。
刀の柄に手を添えると、「全くだ」と言わんばかりにカチャリと音が鳴る。この相方にも余計な負担をかけてしまっている。
申し訳なさ半分、諦め半分、今日も彼は着物の裾を翻す。