現れた魔神
久しぶりの更新です、、。
イバール国での戦争から、すでに一年が経ち、戦争に関わった人達の傷はほんの少しずつだが薄れはじめていた。トキオ文明国も戦争で疲弊した国力も新国王の尽力によって少しずつ回復し、解体した軍隊の代わりに新しく立ち上げたギルドも、ギルドマスターとなったシキを筆頭に目まぐるしく動いていた。
ヒイロはヴァンジャンスと共に、何度も復興への援助に赴き、施設の立ち上げなどを行っていった。特に解体された軍隊に所属していた人達には、希望者を募り、冒険者になったり、ギルドの職員、施設の職員として働く道を作っていった。もちろん全く違う他の職人や道へと進むことも自由だった。
また残った兵器などは冒険者になった者に貸し出したり、取り締まり局やギルド、国の小規模な親衛隊などで利用することになった。
元天王の願いであった神殿での《神の祝福》の廃止は、とりあえずそのまま続けることとし、これからの復興の状況次第で進めていくことになった。もちろんその土台作りとして、元から協力的であった孤児院等の福祉施設はさらに増やし、他にも新しく職業学校という施設も設立していくことになった。さらにはマリアモンテ教育を取り入れ、読み書きや簡単な計算などの一般教養から自分がなりたい天職への知識、技術を選んで学べるようになり、その職業学校には誰でも通えるようにし、国が全面支援のもと、福祉ギルドで運営するようにした。
そうした中でヒイロは、ある程度状況が落ち着くと後は本人達に任せて、世界各国への施設作りと、少しずつ元天王の志しを広めようと、他の国にも同じように職業学校も立ち上げていくことに尽力していた。
その頃、勇者ロイと賢者イスカリオテは世界各地を回り、魔物の討伐を行っていた。基本的に対魔王戦が彼らの役目であるはずの2人だが、戦争後に発足された、二度と国同士での戦争を起こさないために設立された世界国家連合からの要請があったのだ。もちろん、本職である冒険者ギルドが魔物の討伐を積極的に行なっているが、いくつかの理由により、かなり厳しい状況となっていた。
その理由の一つは戦争による冒険者の不足だった。特に戦争に参加していたのは、冒険者大国であるイバール国であり、それも主に高ランクの冒険者達であったため、その余波はかなり大きい。
そして、もう一つの理由は、その戦争が起きたことで発生したと思われる不安や悲しみ、絶望や復讐などの様々な負のエネルギーが、短期間で爆発的に生まれたことが理由と推測される魔物の活性化である。その活性化は、魔物の絶対数が一気に増えただけでなく、Sランクを超える強力な魔物の割り合いが増えていたのだった。
だが戦争によって、そのSランクの魔物に対抗できる高ランクの冒険者が一気に減ったことでこの一年、魔物による被害は六大魔王が復活した時よりも数が増えてきていた。その結果、脅かされる人々の不安がより強くなり、負のエネルギーがさらに増え、魔物もさらに活性化するという、負のスパイラルが起きていたのだ。
もちろん、ヒイロやヴァンジャンス、エメルなどSSランク冒険者も討伐に参加出来ないわけでは無かったが、復興や低ランク冒険者の育成、ギルドやインフラの立て直しなど、やることが多岐に渡っており、魔物の討伐もそこまで手が回らなかったのだ。
そのために国家連合を通してロイとイスカリオテの2人に魔物の討伐が要請されたのだった。要請された2人は、すぐに行動へと移した。2人にとって、戦争に関わることの出来なかった、せめてもの罪滅ぼしと捉えていた。イスカリオテはトキオ文明国によって軟禁され、ロイは戦争を止めようと無理矢理行動しようとした時に、ヒイロに止められていたからだ。
「ロイさんは戦争の時に何をしていたんですか?」
「僕はヒイロさんに言われてオオタルの街にいました。ヒイロさんが、勇者や賢者は世界平和の象徴だから、人族同士の戦いに参加してはいけないと。どちらかの国に加担して戦争に参加してしまえば、戦争後も勇者を通して、各国に遺恨を残してしまうと……」
「なるほど……もしかしたらトキオ文明国の元天王もそれを考えて私を軟禁していたかも知れません。今思うと人質は、僕を軟禁するために使っていましたが、逆に人質を使って無理矢理にでも戦争に参加させることもできたはずです。でも、一度宰相に誘われただけで、その後はずっと軟禁状態のままでしたから……」
「世界の危機に何も出来ないのはつらかったよ……でも今は、皆さんが少しでも安心して休めるように僕たちの出来ることをしよう。それに戦争で話が出なくなってしまったが、まだ魔神の存在も残ってる……」
「えぇ……確かに……でも魔神は本当に誕生するのでしょうか?」
「この前ヒイロさんにあった時、この戦争がきっかけで誕生するかも知れないと言っていたんだ」
「確かに……この魔物の活性化など影響を考えればおかしくはないですね。魔王達の魂を生贄にして、この戦争の負のエネルギーで誕生するなら、どれだけ強力な魔神が生まれるのでしょう……?」
「僕にもそれは分からない……だから出来るだけ魔神の痕跡も探しながら油断せずに行こう」
今、ロイ達がいる場所はちょうどジョーバン街道とナタリ渓谷の中間地点にある森の奥。強力な魔物を討伐しながら移動していたら、しぜんとここにたどり着いていたのだ。そこは特に変わった様子のない森だったが、突然、あたりに黒い霧が出始め、異様な重苦しい雰囲気が漂ってきていた。
「ロイさん……」
「えぇ、僕も感じます……」
その瞬間、黒い霧が一か所に集まりだす。ロイ達はその現象に驚きながらも最大限に警戒をする。そして、その黒い霧はみるみるうちに丸い球体に変化すると、そこからSSSランクのデーモンキングが現れた。
「デ、デーモンキングです……何故これほど強力な魔物がダンジョンでもないのに!?……ロイさん、デーモンキングは魔王配下に近い強さを持っていると聞きます。気をつけてください!」
「イスカリオテくん、後ろにも!!」
デーモンキングは、さらにロイ達の後ろ側にも2体現れ、計3体のデーモンキングに囲まれてしまった。ダンジョンでもないのに、これほど強力な魔物が同じ箇所に生まれるのはありえないはずだが、実際目の前で起きているのだ。戸惑いを隠せない2人であったが、さらに押しつぶされそうなほどのプレッシャーがロイ達の頭上から感じ、ロイ達が反射的に空を見上げると、そこには黒い龍に跨がる黒い翼が生えた悪魔らしき男がいた。
「こ、このプレッシャーは……」
「ロイさん危険です……あの黒い龍も相当強いですが、あの悪魔は別格です……魔王をも超える強さを感じます……」
その男がロイ達の存在に気付く。
「ん?なんだ貴様らは……ほう……貴様らもしや、勇者という存在だな?我の中の魔王の記憶がそう言っておるぞ?」
「魔王の記憶……やはり魔神!?」
「魔神……?魔の王から生まれた魔の神か……、よし……我は魔神アスタロト。ふむ……だが残念だ。魔王を倒した者達と言うから期待をしてはみたが、所詮は人族レベルか……あまり貴様らには興味はないが……まぁやつの使徒ならば、今消すべきか?」
魔神アスタロトがロイ達を睨むと、さらにプレッシャーが重くなる。
「……!?」
「……いでよ、我がしもべ達よ」
魔神アスタロトの隣に黒いドラゴンが2匹召喚される。
「まぁ我が相手をするのも面倒だ。ここを生き延びられたら、今度は相手をしてやろう」
そう言うと、魔神アスタロトはその場から離れていった。ロイは反射的に追いかけようとしたが、イスカリオテが制止する。ロイ達の頭上にはカラードラゴンのなかでももっとも強い種族の一つであるブラックドラゴンが2匹おり、さらにはデーモンキング3体が2人を囲むように展開していたからだ。
「ロイさん、追うのは危険です!!今は目の前の敵をどうにかしましょう!」
「くっ……そうですね」
目の前の敵も雑魚ではない。魔王配下には劣るがベヒーモスをも超えるSSSランクの強さを持つデーモンキング3体と同じく同等の強さを持つブラックドラゴンが2匹。
「いでよ、ペガサス!《精霊武装》」
ロイの頭上にペガサスが召喚され、閃光がはしると、ロイは白く輝く翼の生えた鎧を装着する。
「それがロイさんの新しい力なんですね。私も役に立つことができなかった魔王との決戦から、何もしてこなかったわけではありませんよ!改造魔法 《ホーリーランス》」
イスカリオテは魔法で光の槍を作る。ヒイロの創造魔法とは違い、一から新しい魔法を作り出すのではなく、イスカリオテはその賢者特有の魔法センスで属性魔法を改造することに成功したのだ。
「イスカリオテくん、以前ヒイロさんに聞いたのですが、デーモンキングはかなりの魔法耐性があるそうです。なので周りのデーモンキングは僕が相手をします!」
「わかりました!お願いします!」
ロイとイスカリオテは背中を合わせ、再び魔物と対峙する……が、その瞬間に魔物は攻撃を仕掛けてくる。ドラゴンは闇のブレスを、デーモンは闇の超級魔法を放つ。
「《マキシマムホーリーフィールド》×2」
イスカリオテが左右両手に聖の超級防御魔法を展開させ、自身とロイを守る。ロイもまた白い翼を大きく広げ、2人を翼で覆う。その2つの防御によって、なんとか集中砲火を防いだ2人はそのまま反撃にでる。
「やっぱり油断できない強さだ……。」
ロイはそう言うと、デーモンの攻撃に合せ、カウンターで、すかさず攻撃を仕掛ける。
「《グランシャイニングストライク》」
勇者の大技を直撃した一体のデーモンキングは、直撃を受け瀕死の状態だが、なんとか耐えていた。
「さすがに一撃でとはいかないか……」
そして、デーモンキングも間髪入れず魔法を展開してくる。ロイは3体のデーモンキングに囲まれないように注意しながら距離を保って戦う。またイスカリオテも同じようにドラゴンに前後を挟まれないように立ち回る。
「《ツヴァイホーリーランス》」
イスカリオテはさらにもう一本の光の槍を展開し、計2本の光の槍を自在に操り、空にいるドラゴンに攻撃を仕掛ける。そして、2本の槍が1匹のドラゴンの羽を串刺し、動き止め捕らえる。
「超級魔法 《マキシマムホーリー》」
動きを止めたドラゴンに直撃を加えるもドラゴンは耐え、さらに光の槍を振り払う。そして同時にもう1匹のドラゴンが再びイスカリオテにブレスを吐く。
「くっ……《マキシマムホーリーフィールド》……これは長期戦になりそうですね……」
そうして、お互いに魔物をどうにか倒す頃には魔神の姿は、気配を感じることが出来ないほど離れてしまっていた。また2人とも瀕死とはいかないものの、かなりのダメージを負い、イスカリオテの光魔法で回復するも体力、魔力は共にかなり消耗していた。
「今からまた探すのは危険ですね。一旦戻り、ヒイロさんや皆さんに報告しましょう」
「はい……」
「ロイさん、どうしました?」
「いや……もう一度魔神と向き合った時に、正面から勝てるイメージがどうしても浮かばなくて……」
「……ロイさんでもですか。私も正直、一人では勝てるイメージが持てません。……ですが、きっとエングさんやヴァンジャンスさん、ヒイロさんとともに戦えば勝てるはずです」
「そうですね……早く皆さんのところへ戻りましょう」
2人は帰りながら、魔神のプレッシャーを思い出していた。思い出せば出すほど、次元の違う強さを感じていた。今までのどの魔王にも感じなかったほど力の違い……ましてや、SSSランクレベルの魔物が簡単に召喚できるとなると、数の有利も保てなくなる。お互いに何も話すことが出来ず、無言のままイバール国のギルドに戻るのであった。




