残された者達
ヒイロはSSランク冒険者やナット達ギルドマスターと共に、それぞれ戦後の処理を出来るだけ手伝っていた。その中でも忙しいかったヒイロは、イバール国軍側にも関わらず、ヴァンジャンスと共にトキオ文明国への支援を最後まで行い、さらには今後に向けての各国の友好への仲介役を担っていたからだ。
イバール国の主な戦後の処理は、戦争に参加した冒険者達への補償であったが、今回は国からギルドへの緊急クエストの発注という形だった為、処理もスムーズに進んだ。基本冒険者がクエストに失敗して死亡や怪我をした場合、自己責任である為、クエストでの補償なども無かったが、今回は協力要請という意味合いが強いクエスト発注であった為、できるだけの補償をギルドを通して国が行うこととなった。
一方、トキオ文明国は国家を賭けた戦争だったため、兵器開発による財源の消費と、戦死者や怪我人が予想以上に多い為に、それに対する遺族や本人への補償の為に、長年にかけて貯蓄してきた財源は底をつき、さらには今ある財源でさえ、底をついてしまったのだ。
特に最近ではインフラよりも兵器開発を優先していたために、本来なら世界侵略、そして世界の統一後に、各国からの財源をあてにしていたインフラの回復が出来なくなってしまったために、国民からの不満も重なり、国としての機能が失いかけてしまっていた。
今回の戦争について、全ての責任を一人で負った天王は、自身の最期の役割として、己の私財を全て投げ出し、この状況を防ごうとした。だが、元から私服を肥やすことのない清廉潔白の天王であったため、私財はそこまで多くなく、国家を立て直すには、ほど遠かった。それでも天王一人だけでの責任ではないと、国軍総司令のシキや副司令のマヤカ、そして宰相のエイカク、さらにはヴァンジャンスでさえも、同様に私財を投げ出したことで、なんとか国の存続が可能となったのだった。
それから、なんとか国として存続が可能となったトキオ文明国は、イバール国と共同で、戦争で犠牲になった兵士や冒険者のために、戦場になったナタリ渓谷とジョーバン街道に大きな慰霊碑を建てた。そこには、2度と同じ過ちを繰り返さぬように両国だけでなく、シャングリラに存在するすべての国の署名も一緒に刻まれた。
そして今回の戦争は、文字通り世界への戒めと教訓となった。なぜならその戦死者は、6大魔王復活の際の犠牲者よりも多かったからだ。最も魔王の被害が少なかったのは他でもないヒイロ達のお陰ではあるものの、その事実は世界に衝撃を与え、天王は魔王以上に歴史上最も最悪な国王として名を刻むことなった。
またトキオ文明国は、その独自の軍隊を解体。そして、イバール国主導の元、冒険者ギルドを設立することになった。そのギルドマスターは本人自身は辞退したものの、宰相のエイカクや副司令のヤナカから押され、後任が決まるまでの臨時的なギルドマスターとして、シキが就任した。
だが、シキはその代わりの条件として、牢獄に幽閉された天王に代わり、エイカク、ヤナカと共に戦死者の遺族一人ひとり全てに謝罪したいと申しでた。そして、国とギルドを通して、負傷者や遺族に、今後の全ての補償を約束し、軍人として働けなくなった兵士をギルド職員として雇うなど、最後まで戦争の責任を天王同様に負っていった。
天王は自身で牢獄に入る際に、国民の前で謝罪し、天王を退位するだけでなく、後任に自分の親族ではなく、宰相のエイカクを次期天王に指名した。新しく天王となったエイカクは、自らを天王と名乗らず、国王と改めて称し、シキとともに、天王の志しを引き継ぎ、天職を自分で決められる自由な世界を目指して、一歩ずつ歩み出した。
3ヶ月後天王は、今回の戦争の全ての責任を取り、自らの公開処刑をシキとエイカクに命じた。もちろん周りは反対したが、国民の不満、遺族や他国の不満も、誰かが責任を取らなければならない、その為には歴史上最も最悪な国王となった天王自身が、全ての人の恨みを受け止めなければいけないと、その意思は固かった。
その日、天王は全ての国民の前で謝罪し、処刑台にて斬首された。
ヒイロをはじめ、ヴァンジャンス、SSランク冒険者、シキ、ヤナカ……戦争の場にいた人、全ての者がその処刑を見ていた。天王は死ぬ直前、ヒイロと目を合わせた、そして「後は任せた」と呟き、ヒイロもそれに黙ってうなづいた……。
天王が処刑される数時間前……処刑台に向かう長い通路の手前、天王は大きな牢屋に一人、手には手錠がされた状態で座ら、静かにその時を待っていた。牢屋の外側には最後までシキ、エイカク、ヤナカが天王に対し、涙ながらに処刑の中止を訴え、一緒にいたヒイロとヴァンジャンスは、その天王と臣下達の姿を黙って見つめていた。処刑の時刻が迫り、今までシキ達に背を向けて座っていた天王は、ゆっくりと立ち上がり、そして振り返ると、穏やかにその場にいる全員に静かに語り出した。
「お前達……もう泣くのはやめよ。これでよかったのだ……これは私の罪、最後まで気付けなかった私の罪。私は自らの命が尽きるからと焦燥し、愚かな戦争を引き起こしたのだ。私が死んでも引き継ぐ者がいれば無駄ではないと……。願いは死なないのだと……先祖はそれを分かり、引き継いできたのに……。礼を言う、シキ、エイカク、ヤナカ……お前達が居てくれるから私はこうして安心して死ねるのだから……そして、ヴァンジャンスよ、自身を恨まないでくれ……お前のおかげで私は諦めていた夢に再び希望が持てたのだから。それが例え愚かな夢だったとしてもな。……それとヒイロよ……もっと若い頃にお主に会えていたら、私も違っていたかも知らぬな。だが、私の願いを誰よりも理解できるお主のおかげで、私はなんの後悔もなく死ぬことが出来る……皆を導いてくれ……」
それから天王は自ら処刑台へとあがる。首が落ちる寸前……ヒイロやヴァンジャンス、シキ達の顔を一人ずつゆっくりと見て、穏やかな笑顔で微笑んだ。誰一人、天王の死に目を背けず、その瞬間を見届けた。
シキは、涙を堪え、死刑執行の号令を発し、エイカクは、最後まで心にもない天王への誹謗と、犯した罪を国民に伝え、世界の極悪人として処刑することを訴えた。ヤナカは天王の人柄や思想を知っている部下達が死刑を止めようと飛び出そうとしているのを血の涙を流しなら止めていた。
その後、ヒイロは新しいトキオ文明国の国王となったエイカクと話し合い、福祉のこと、ギルドのこと、そして元天王の願い、天職システムについても話し合った。そこにはヴァンジャンスが入り、シキが入った。いずれ、決められた転職ではなく、自分達が自由に選択できる天職にするために、天王の願いを正しく引き継ぐために……残された者達の宿命として……。
ある程度のことがおわり、イバール国へと帰る際、ヒイロはヴァンジャンスの記憶が2度も忘れさせないようにと、ヴァンジャンスを無理矢理連れて、自分の実家に住まわせた。きっと自身の両親なら、二度とヴァンジャンスに大切なことを見失わせないようにしてくれるだろうと思ったからだ。案の定、両親はヴァンジャンスを息子のように可愛がり、ヴァンジャンスも最初は嫌がったが、両親の温もりと優しさに次第に素直になり、心地よくなっていったようだった。
他のSSランク冒険者も各国に帰り、思うこともあったようだが、それは自分達で解決していくようだった。そして、森の家パーティーのアルト達もミーナやヒイロの両親に励まされながら、少しずつ戦争の経験を克服していった。
その他にも、ナットとヒイロは怪我の後遺症により、冒険者家業の引退を余儀なくされた冒険者をギルドや施設、育成校などで雇うなどしていった。きっと、どれだけしようが死んだ者は戻らないし、残された家族の心も癒されないだろう。誰かに感謝されるわけでもない、それでもヒイロはできるだけのことをしたかったのだ。
そして、身体だけでなく心も全てボロボロになったヒイロはようやく家族の元へと帰ったのだった。約半年にもなる長い間、転移魔法で帰ろうと思えば、すぐにでも帰れたヒイロが最後まで家族の元へと帰らなかったのは、ヒイロの中でのけじめだった。
家の前に立ち、久しぶりの家族に少し照れくささもあったが、いつもどおりの姿で帰ろうと気持ちを切り替え、玄関のドアを開ける。
「ただいま、ミーナ、ホープ」
「あっ!!おかえりなさい、ヒイロ!!」
「ぱーぱ、かえりー」
ヒイロはミーナの声を聞いた瞬間、何故か涙が流れ、近づいてきたミーナに倒れ込むように抱きついた。今までずっと気を張っていたものが、全て癒された気がした。
「お疲れ様、大変だったのね。」
ミーナはそう言いながら優しく抱きしめてくれ、背中をさすってくれた。そのミーナの優しさにヒイロはさらに涙を流していた。今回の戦争で初めて、自分の意思で人を殺したのだ。それも大勢。もしかしたら一番、人を殺したのかもしれない……仕方ないことだった。……それでも、殺した相手にもきっと、ミーナやホープのような家族がいたのだ……。
「……辛かったのね。いいのよ、たくさん泣いても。ここはあなたの家で私達はあなたの家族なんだから、ヒイロが誰かのために頑張った分、ここでは甘えていいのよ。」
「ミーナ、俺は初めて人を殺した……それもたくさん……」
ヒイロは懺悔のようにミーナに泣きながら伝える。
「うん……先に帰ってきたアルト達も涙を流していたわ。それにあなたのことだから、もっと責任を感じているのでしょう……相手の家族のことまでも考えて……」
「俺は今回のことで、孤児院に行かなければならない子をたくさん増やしたかも知れない」
「うん……でもねヒイロ……ヒイロは神様じゃないんだよ。いくら強くても、いろんなことが出来るのかも知れないけど、全てを完璧に良い方向に持っていけるわけじゃないわ。それに今回だって、きっと出来るだけのことをして、頑張ったのでしょう?なら、私はヒイロを信じるわ」
「出来るだけのことをした……でも、それでも人をたくさん殺してしまった……」
「それでもヒイロは正しいことをしたんだよ。だから、今日はゆっくり休もう……私はヒイロの全てを受け止めてあげるから……ね。ほら、ホープも心配しちゃうよ……」
いつのまにかホープもヒイロの足にくっついて、涙目でヒイロを見つめていた。
「パーパなく?パーパかなしい?」
ヒイロは涙を拭い、今にも泣きそうなホープを抱き抱える。ミーナはヒイロに抱き抱えられたホープの頭を撫でながら、ヒイロの背中をさする。
「ごめんね、ホープ。大丈夫だよ……パパたくさん頑張ったから疲れちゃったの。一緒にいい子いい子してあげよ」
「うん、パーパ、いいこいいこ」
ヒイロはそのまま寝室に行き、家族に見守られながら、子どものように眠った。ミーナとホープに励まされ、落ち着いたものの、人を殺したという罪悪感は一生背負っていくのだろう。それでも生き残った人には出来るだけのことをしようと眠りながら心で誓った。
ヒイロはその日、夢の中で記憶は定かではないが、あることを眠りながら考えていた。それは、ヴァンジャンスの記憶喪失だった。本人も原因がわからなかったが、ヴァンジャンスの記憶喪失はたまたまだったのか……そして、あの賢明な天王が……この戦争へと踏み切ったのも運命だったのか……誰か……いや、何かが裏で動いているようだった。
負の感情から魔王が生まれる。では、魔王がいなくなった今、その巨大な負のエネルギーはどこへ行くのか……魔王達が言っていた存在……魔神……。




