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混迷する戦争とヒイロのねらい

 ジョーバン街道攻防戦、三日目。トキオ文明国ジョーバン街道攻略軍大将のシキは、かつてないほどの絶望の中にいた。圧倒的な戦力による一方的な進軍になるはずが、初日から出鼻を挫かれてしまい、更には相手を追い詰め、もう少しで勝利というとこまで来ていた昨日もまさかの相手側の援軍により、一気に戦況を覆されてしまったからだ。


 残りの戦力も当初の3分の1になり、相手は昨日の起死回生の大逆転に士気も上がり、勢いづいている。この戦力ではこの場で勝てたとしても、思うような占領は出来ないと諦めてかけていた。それも朝のナタリ渓谷攻略軍との定期連絡ではナタリ渓谷の方も戦力に余裕があるものの、攻めきれずにいるとの報告を受けていたのだ。


 かなり苦しい展開だった。進軍前はヤナカ副司令官とどちらが先にイバール国の首都ミトを戦況するか競おうとしていた自分が恥ずかしかった。でも、このままでは、天王様の想いを形にすることは出来ない。シキは、もう一度、全てを白紙に戻し、現状での一番の策を改めて探し出すことにした。


 長考の末、シキはまず、こっちで勝つことを諦めた。勝ったとしても首都を占領出来なければ、勝つ意味がない。ならば、ギリギリまで敵を引きつけ、ナタリ渓谷攻略軍が勝利し、突破することを信じ、その動きに連動して挟撃の形を取ればいい。昨日、一昨日の戦況を見るに、相手側の最高戦力であるSSランク冒険者達のほとんどがコチラに来ていると考えられる。ならば、こちらはその戦力を出来るだけ引き付けとけばいい。


 三日目となり、物資も兵糧をつきかけてはいたが、ナタリ渓谷が今日中に決着をつければ問題はない。逆にこっちはただ守るだけでなく、攻める姿勢を見せつつ引きつけていなければ、すぐに援軍がナタリ渓谷に行ってしまい、この侵略は失敗で終わってしまう。


 シキは小隊を崩し守り主体の堅陣を作りながら、あえてプレッシャーをかけるように全体で少しずつ進軍していく。


 雷帝グランは形を変えた敵の様子を見て、首を傾げていた。前日まで違い、じわじわと攻めておきながら、明らかに守り主体の陣形になっていたからだ。


「はて、あれはどう言う意図じゃ?昨日はシルフ達のおかげで最終的にはこっちが盛り返したものの、まだ全体的な戦力ではあっちの方が、かなり上のはず……攻めて来るとは思うが……」


「もしかしたら、思っていたよりも損害が大きくて侵略を諦めたのかも」


「そうだといいんだがのぅ……」


「グランじい、とりあえずこちらも無理せずに戦えば大丈夫じゃないのか?」


「まぁ確かにそうじゃな。逆に守り主体でいてくれた方がこっちも守りやすくてすむ。かなりの敵戦力も削れたし、勝ちにいかなくても、このままでいいだろう」


「そうね、昨日と同じグループごとの方が一番守りやすいかな」


「あぁそうしよう!それぞれ今日一日、精一杯耐え切るんだぞ!」


 イバール国防衛軍も防衛ラインギリギリに配置していく。そしてそれからトキオ文明国の攻めを待ち続けたが、ゆっくりと前進するもの大きな攻撃はなく、牽制のみで時間だけが進んでいた。


「やはり攻めてこないのう、物資や兵糧の限りがあるあっちが攻めてこないのは何かを待っているのか?」


「あぁ明らかに不自然だ。何か策でも考えているのかもしれないな」


 それからさらに時間が過ぎ、昼過ぎに入る頃、お互いの陣地に新しい情報が入ってきた。ナタリ渓谷での決着がついたのだ。予想は敵味方両方とも予想外の結果で、午前の段階でトキオ文明国ナタリ渓谷攻略軍が敗退し、撤退したとのことだった。


 その情報を聞き、イバール国ジョーバン街道防衛軍は大歓声が起きた。そしてグラン達もその結果に驚いていたのだ。


「まさか!?こっちより戦力が低いのにやりおるわ!」


「ヒイロとエメルが頑張ったのね!」


「あぁ、これならますます守りを固めても大丈夫そうだな!」


 ナットが安心して油断した直後、トキオ文明国で動きがあった。ナタリ渓谷攻略軍撤退の情報を聞いたシキは耳を疑った。昨日の時点ではまだ戦力に余裕があると聞いていたからだ。それに、敵戦力も確実にこちらの方が多くいるはず、地形上、中々突破出来ずとも負けて撤退はあり得なかった。


「いったい何があったのだ……マヤカは、そこまで切れ者ではないにしろ、たたき上げの軍人。大きな失敗などしない男のはず……」


「総司令、どうなされますか!?」


「これでは考えていた挟撃も出来ず、今回のイバール国侵略が失敗に終わってしまう……ダメだ、この規模の遠征はそう簡単に出来るものじゃない……早くて1年、それでは次までに天王様の命が……全軍に告ぐ!このままでは今回の作戦が失敗してしまう。今から命がけの総攻撃を仕掛ける!必ず成功させるのだ!全軍そのまま突撃!!」


 トキオ文明国は必死の覚悟を決め、全軍突撃してきたのだ。


 まさかの決死の突撃に不意をつかれたイバール国軍は後手に回ってしまった。本来なら乱戦になるようにそれぞれの位置をずらし、配置するのだが、待機がずっと続き、尚且つ守り主体だったところに、友軍の勝利情報。完全に油断をしてなんの戦略的な理由もないただの緩やかな横一直線上になってしまっていたのだ。


 まさに油断した状態だった時、圧力をかけるために距離を最大限まで距離を近づけたいたことで、真正面からの不意打ちと言う形になったのだ。そのため、イバール国軍は敵の初撃をモロに喰らってしまったのだ。その結果、対応に遅れたBランク冒険者パーティーとAランク冒険者パーティーは直撃を受けて脱落。残ったのはSランクパーティー3組とグラン、シルフそしてマッスルのみとだけになってしまったのだった。



 その頃、ナタリ渓谷を後にしたヒイロは、この戦争を終わらせるため、転移魔法でトキオ文明国首都シンジュに来ていた。


 狙いはもちろん、この国のトップ、天王に会うためだ。ヒイロは神獣合体を解き、気配遮断、認識阻害の隠密スキルを発動させ、天王の住む天王城へと侵入する。


 天王城ははっきり言って油断をしていた。兵士の皆がこの戦争に負けるはずがない、攻め込まれるはずがないと決め込んでいるようだった。それにヒイロは隠密スキルによって、相手の目には見えなく、気配や音なども遮断し、存在自体も気付かれにくくなっているため、最大限の警戒体制でなければ、まず気づかれることはなかった。


 ヒイロは天王がいると思われる大きな扉の前へと来る。扉の両端には守兵がおり、扉を開けようすれば、簡単にバレてしまう。どうしようか身を潜め、考えていた所に、大臣なのかはわからないが、かなりの地位がありそうな人物が、ちょうど中に入ろうとして、守兵に扉を開けてもらっていたため、それに便乗し、部屋の中へと入る。


 ヒイロの予想通りそこには、天王らしき人物は立派な椅子に座り、先程入っていった人物と話しをしていた。そして、はじめは気づかなかったがヴァンジャンスも奥の方で腕を組み壁に寄りかかる立っていたのだった。


 次の瞬間、ヴァンジャンスが何かの気配に気付く。


「誰だ!?」


「ど、どうしました?ヴァンジャンス?」


「なんだ、ヴァンジャンスよ、何があった?」


 ヒイロは隠密スキルを解除し、姿を見せる。


「あなたが天王様ですか?」


「お主は誰だ?」


「あ、あれは天王様!SSランク冒険者 《神降ろしのヒイロ》でございます!」


「何しに来たヒイロ!」


 右腕に銃を創造したヴァンジャンスが、ヒイロに銃を向け、天王との間に割って入る。だが、ヒイロはそんなヴァンジャンスを無視し、天王に問う。


「何故だ……こんな馬鹿げたこと……戦争を…始めたんですか?」


 天王の代わりにヴァンジャンスが叫ぶようにヒイロの問いに答える。


「ヒイロ、お前に関係ないと言っただろう!」


「……黙ってろヴァンジャンス……お前じゃない。俺は天王に聞いている」


「……良かろう。ヒイロと言ったな、私は以前から《神降ろしのヒイロ》という人物と話しをしてみたかったのじゃ。ヒイロよ、お主はこの世界がおかしいと思ったことはないか?」


「……言っている意味がわからない」


「そうか?《神降ろしのヒイロ》がしていることは、ずっと……私と同じことを目指しているのだと思っていたがな。だから、我が国にも孤児院なるものや天職の学舎、マリアモンテという教育法を認め、広めることを許可したのじゃが」


「その件については僕も驚きました……この世界で一番理解を示してくれたのはトキオ文明国でしたから……だから……だからこそ今回の件は信じたくなかった……」


「この世界の矛盾な平和……矛盾なシステム……お主は天職と言うものをどう感じている?少なくとも私は一度もありがたいと思ったことはない」


「……。」


「お主にはわかっているのだろう……この《神の祝福》による天職を受ける行為がこの世界を狂わせていることを。だからお主は独自の教育法を作り、孤児院や教育機関なるものを作り、天職を神から一方的に授かるのではなく、自分がなりたい天職を選べるようにしたのではないか?」


 天王が言ってることは、ヒイロにはよくわかった。そうなのだ。神からただ授けられた天職は一見わかりやすく生きやすいシステムに見えるが、実は自由な意思がない不自由な強制なのだ。


「だからと言って、何故戦争につながるのです……」


「それはただの手段だ。もし私がこの世界の全てを統べれば神殿を廃止し、15歳で天職を授かる儀式をなくす。必要ないのだ、人は自分で自分の好きな職を選び、努力し、好きな人生を歩んでいいのだ。もし、それができない、見つからない者は、その時祝福を受ければいい。神殿……いや、《神の祝福》など、それぐらいの存在でいいのだ」


「……正直驚いています。極端ではありますが、あなたの考えと似たようなことを俺も感じていました。ですが……だからって人同士で殺し合う……戦争をしていいって理由には断じてありません!」


「そうかもしれん……だが、ワシは何度もこの世界に語りかけてきた。何度もじゃ。でも、世界は認めなかった……認めてくれなかった。分かろうともしなかったのだ」


「……それでも俺は理解出来る!そこにいるヴァンジャンスだってあなたが言っていることを理解しているはずだ。……そして何より……これから先の子ども達は、きっと自分でなりたいと思う職を選び、そのために努力することが出来る、俺はそう信じてる!」


「なるほど……だから孤児院なる施設や学校というもの、そして教育法なのだな……お主はすごいな」


「あんただって時間をかければ出来たはずだ!」


「その時間が我にはもう残ってないのだ……もうこの身体は病に侵され、いつ死んでもおかしくないのだ」


「……!?」


「自分の無力さを呪って、今にも死にそうだったワシの前に現れたのがヴァンジャンスだった。そしてヴァンジャンスは私に最後のチャンスをくれたのじゃ」


 確かによく観察すると天王は顔はどす黒く辛そうな顔をしていた。


「そういうことだヒイロ。諦めろ、天王の意思は固い。そして俺は天王と一緒にこのクソッタレな世界をリセットする」


「お願いだ!天王よ、今なら間に合う!戦争を終わらせよう、終わらせて一緒に歩む道を探そう!」


「だから、それが無理だと言っている!この世界は一度滅ぼす。俺の邪魔をするな!ヒイロ!マテリアライズマジック《ウェッポンズ タンク》!!」


 ヴァンジャンスが戦車を召喚し、ヒイロに突撃させる。いきなりの魔法にヒイロは避けることもできず、かろうじて防御体制をとり、戦車の突撃に耐えるが、強烈な一撃にそのまま王城の壁に激突し、戦車ごと城外へと弾き出される。


「マテリアライズマジック《ウェッポンズ ファイター5》スタンバイ・オールファイア!!」


 王城から落下していくヒイロに、さらにヴァンジャンスは追い討ちをかける。


「くそっ、お前もだ!ヴァンジャンス!俺が知っているヴァンジャンスは復讐を乗り越え、俺と同じ、新しい未来を信じていたはずだ!」


「だから、そんな記憶は知らないと言っている!《ハイウェッポンズ・マシンナリーアーマー》」


「俺が力づくで思い出させてやる!神獣召喚 《神獣オーディン》!《神獣合体》」


 落下しながら神獣合体したヒイロは、向かってくる戦闘機をそのまま空中で切り伏せ撃破し、王城の広い庭に降り立つ。そして、同様に降り立ったヴァンジャンスとヒイロは向き合い、そして今、魔王をも凌駕する二人の転生者がぶつかり合う。

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