ジョーバン街道攻防戦2
ジョーバン街道二日目。先ほどゴーレムマスター エメルと交代した雷帝グランは、イバール国ギルドマスターのナットとSランクパーティー2組とともに、昨日の戦況と2日目の作戦を話し合っていた。
「昨日は出来るだけ攻めようとしたが、後半は流石に、攻めたと言うよりは攻め込まれるのを必死に抗ったと言う感じだな。今日はヒイロもいない、初めから守り主体で行ったほうが、良いかもしれん。」
「そうじゃな……。わしもヒイロほどの機動力はないものの、出来るだけ広範囲で魔法を使おう。魔法の範囲と威力ならヒイロにも負けんからな。それとSランクパーティーは、わしの補助として、一緒に全体のサポートをしてもらおうか。残りのAランクとBランクは何よりも守りに徹し、相手に攻め込まれないようにするしかないな。」
「ヒイロが話していたが、今日を守り切れるかでこの戦争は大きく変わってくるはずた。苦しい戦いにはなると思うがみんな耐えてくれよ……」
こうしてナット達、イバール国ジョーバン街道防衛軍は決死の覚悟で配置につく。
ジョーバン街道攻略軍大将のシキは、昨日の戦況から、今日の編成を考えていた。
「昨日の戦況では、全体的に見たら、ややこっちが押されていたが、相手は生身……それなりの疲労が蓄積されているはずだ。厄介なのはやはりSSランク冒険者のゴーレムマスターのエメルと神降ろしのヒイロ……。小隊は昨日と同じように乱戦に注意し、敵戦力を各個撃破!戦闘機は全て、SSランク冒険者 《ゴーレム マスターのエメル》及び 《神降ろしのヒイロ》のみを狙え!全軍進軍開始!」
「進軍開始、進めー」
こうして、トキオ文明国軍総司令官シキは切り札を残しつつ、油断なく進軍をする。
グラン達の予想通り、相手は手を緩めることなく全軍で進軍してきた。だが、予想通りであるにも関わらず、グランもナットも内心焦っていた、圧倒的に戦力が足りない。今日一日なんとか持ち堪えたとしても、明日には壊滅してしまう。ヒイロの言葉を信じないわけではないが、希望が持てない。
「耐えるんじゃぞ……若造ども……」
グランはそう呟くしかなかった。グランは出来るだけ最初から飛ばしていた。もはや相手が生身の人族であろうと手加減は出来ない。どうせなら自分が一番、人を殺し、汚れ役になる方がいい。エメルは別として、ヒイロや森のパーティー、他の冒険者達が人殺しの業を背負うにはまだ若すぎる。
「出来れば恐怖で逃げてくれれば良いんじゃがな……神雷魔法《雷霆万鈞》」
グランの頭上に大きな黒い球体が出現する。その球体には凄まじい黒雷が吹き荒れ、周りの空間が歪むほどの熱量を持ち、凄まじい雷が渦のようにうねりながら、戦車や戦闘機、そしてオートマシンと敵兵全てを飲み込むように黒雷の中に引きずり混んでいく。そして、引き摺り込まれた兵器はおもちゃのように次々と爆発していく。もちろん生身の人族など、鎧すら欠片も残らず、塵と化して消えていく。
その凄まじいほどの威力と轟音に、ジョーバン街道にいるすべての人族が静寂に包まれ、オートマシンなどの兵器が動く音のみが響き渡る。
「ひっ…ば…バケモノ!?……」
「まるで魔王じゃないか……」
トキオ文明国の兵士達から悲鳴にも似たグランへの畏怖の言葉が広がる。そして、それは言葉にこそ出ないにし味方であるはずのイバール国軍の冒険者達にも、その恐怖が連鎖するほどだった。
(すまんな……グランじい……)
「おい、貴様ら!!俺たちにはあの魔王も退けた《雷帝グラン》がついている!自身の家族や仲間のためにも、死んでもここを守り切るぞ!」
ナットはグランの覚悟を悟り、仲間達に檄を飛ばし、それに続き、Sランク冒険者達もあえて、強力な魔法やスキルを放ち、仲間達の恐怖心を中和させていく。
グランはそうした仲間達のフォローに感謝しつつも、残り少ない魔力を魔力回復薬で補いながら神雷魔法を連発していく。だがそれも、気休めでしかなかった。魔力回復薬は使えば使うほど回復力が落ちていき、気力や精神力は回復しない。
それからかなりの時間、トキオ文明国の進軍に押されながらも、グランの奮闘により、なんとか耐え切ることができていた。だが、グランはすでに体力も限界になり、魔法を放ちながらも、立っているのがやっとの状態であり、相手の攻撃を避けることもできなくなっていた。
ナットは焦っていた。もう既に日が暮れ始めてからかなりの時が経つが、すでにグランは限界を超えていた。数組のAランクパーティーにグランを守らせているが、それも限界だった。Sランクパーティーの2組も、グランの代わりに最終防衛ラインを死守してくれているものの、ところどころ突破され始めていた。
A、Bランクパーティーも、どのパーティーもいつ崩壊してもおかしくない状態だったが、ついに一つのBランクパーティーが崩れ、それを機に次々と他のパーティーも崩れ始めていく。そして、編隊を組んだ戦闘機がグランとグランを守っていたAランクパーティー達に集中攻撃を始めた。
「もうダメなのか……」
ナットが諦めかけたその時だった。
「超重魔法 《メガグラビティフォール》」
グランの周りを飛んでいた複数の戦闘機が、何かに上から叩きつけられたように、地面に落とされ、爆発していく。
「待たせたな!グランじい!……って、ねぇまだ生きてるわよね!?」
ナガーサ国にいたはずのSSランク冒険者のシルフが目の前に現れたのだ。そのシルフの声に気付いたグランは、安心したのかその場で倒れ込み、どうにか片手と顔を上げ、グーサインをしながらシルフに笑顔を見せる。
「良かった。それでこそ、雷帝ね!あとは任せて少し休んでて!それに助っ人は私だけじゃないみたいよ。」
そのシルフの言葉を証明するかのように、最終防衛ラインを突破して進んでいた戦車隊が、弾き返されたようにナットの目の前に次々と飛んできては地面とぶつかり、爆発していく。
「はーはっはっは!!何の鉱石で作られた玩具か知らんが、そんなもの、この私の黒光りが映えるマッスルボディーの前ではただの砲丸投げの球と変わらんぞ!!」
ナットは振り返り、後方を睨む。するとそこにはむさ苦しい筋肉隆々の男たちの中で、一際目立つ存在の男が大きな声で笑っており、何故かその男の周りでは男たちが謎の声援を送っている。
「ナイスバルク!!」
「ナイスカット!!」
「もう肩がメロン!!!」
「そこまで絞るには眠れぬ夜もあっただろー!!」
そう、その男の名は、マッスルン。
「ハッ!」
マッスルンはそのスマイルで全ての者を魅了する。そして、その笑顔のまま、進軍してくる戦車の砲台を無造作に掴み、くるくると自身を軸にして回り出す。
「マッスル砲丸投げだー!!」
そして、駒のように高速回転しながら、戦車を振り回していく。
「んー、やー!!」
と、戦車を次々と宙に舞う。
「ほら、ニイガル国からエングも……ん、あれ?ニイガル国からの助っ人も来るって……あれ、エングじゃないよね……」
何故か、同じ援軍で来てくれたはずのシルフも、マッスルンの見て、混乱している。
「ま、まぁ見るからに頼もしいようだし、いっか!」
シルフは、思考を停止し、次々と戦闘機を撃墜していく。シルフの魔法は魔法の属性上は無属性となり、トキオ文明国の魔法耐性はほとんど効果がなかったため、戦闘機は無抵抗で撃墜されていく。
「なんでだ!?あの謎の男はまだしも、シルフは、国が出してくれなかったはずだ!?」
「そうだったんだけど、2日前にヒイロが突然来て、ナガーサ国に、イバール国が陥落したら、もう世界は終わりですよって脅しをかけて、私だけでも援軍に寄越せと言ってったらしいのよ」
「そして昨日、ナガーサ国にトキオ文明国からの進軍が自国にないと分かったら、渋々だけど援軍に向かわせてくれたの。それにナガーサ国のSランクパーティーも2組、後から援軍にくるわ」
「ヒイロが何かやっていたのは知っていたが、まさか援軍とはな。本当に助かった。あと少しでも遅かったら全滅していた……」
「とりあえず、私はあのうるさい鳥を全て落とすわ。それにあの棒つきも……うん、大丈夫そうね」
シルフは後ろの方で盛り上がっているマッスルンを見て、呆れながらも安心している。そして何故か、さっきまで限界が来ていたイバール国の冒険者達(男限定)は、マッスルンの姿を見て、息を吹き返していく。
こうして、限界だったイバール国ジョーバン防衛軍は、SSランク冒険者シルフと、Sランクパーティー2組、そして謎の男マッスルンという強力な援軍によって、一気に盛り返していく。
トキオ文明国軍総司令官シキは、愕然としていた。勝ったと思った瞬間、一気に現状を覆された。まず昨日の敵主戦力の《ゴーレム マスターエメル》と《神降ろしのヒイロ》の姿が見えなくなり、その代わりに今朝、ナタリ渓谷にいると報告を受けていた《雷帝グラン》の姿があったことは驚きはしたが、むしろそれだけなら良かった。一番厄介なSSランクが一人減ったのだから。
案の定、敵戦力は落ち、かなり粘ってはいたものの崩壊し、勝ったと瞬間、敵援軍が現れたのだ。それもナガーサ国にいたはずのSSランク冒険者の《天空の魔女シルフ》。そして、凄まじい戦闘力を誇る謎の男、高ランクと思われる冒険者パーティーが2組。
一度、総崩れになったトキオ文明国軍だったが、大将シキの檄になんとか持ち直したが、流れが大きく変わった以上、シキは渋々だが、本日の進軍を諦め、撤退する。
「まぁいい、明日は《ガロス》も全てだし、決着をつけてやる。」
シキは、悔しさを噛み締めながら、撤退の指示を出す。
それを見ていたナットは追い討ちをかけようとしたが、少し体力が回復したグランになだめられ、イバール国も撤退の合図をだし、両軍が引き下がり、2日目のジョーバン街道攻防戦が幕を閉じた。




