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ナタリ渓谷攻防戦2

 ナタリ渓谷二日目。まだトキオ文明国は動く気配はなかった。雷帝グラン、Sランクパーティー《森の家》、そして、早朝から合流したヒイロは、現状把握と今後の展開を話し合っていた。


「グランじいさん、昨日の戦況を教えてください」


「正直、ギリギリじゃった。皆がよく戦った。……だが、今日は昨日よりも状況が悪くなるだろう。魔法への対策、特にわしへの対策を万全にしてきておった。」


「やはりそうですか……(確かに雷魔法は強力だが、前世の知識のあるヴァンジャンスなら、避雷針やゴム製などの絶縁体などの素材による対策が簡単に思い浮かぶはず)……きっと、それはこんな形のような物ではありませんか?」


 ヒイロは避雷針をイメージした物をいくつか簡単に地面に書いてみせた。それをグランと一緒に見ていたアルトが答える。


「そう、そんな感じ!!グランさんの雷魔法が相手の頭上に落ちる瞬間、何故が引っ張られるように魔法がそっちに行くんだ!」


「……やっぱり。雷は属性魔法の中でも圧倒的な威力があるけど、雷には通りやすい物質や、逆に全く通らない物質があって、また高い物に落ちやすいと言う特性もあるんだ。これは避雷針と言って、文字通り雷をこの針のような尖った先にわざと落としやすくして、直撃を避ける動画なんだ。多分、グランじいさんも相手が魔物じゃないのと仲間を巻き込まないように、神雷魔法を使わず、極雷魔法……それもかなり威力を落とした範囲魔法を使ってたんじゃないですか?これはあくまで仮説ですが、魔王戦で使っていた神雷魔法なら大丈夫だと思います」


「……なるほどのう。確かにヒイロの言う通りじゃ。避雷針……そんなものがあるのか。さすが文明国と言ったものじゃな。」


「そこで、今思いついたのですが、グランじいさんとエメルさんを交代しませんか。俺がこっちの戦力になると考えると、対空は代わりができます。むしろ俺がいなくなったあっちが対空が必要になりますし、場所も広いので、遠慮なく神雷魔法も使えると思います。」


「確かにの。それにエメルのゴーレム ならこの渓谷を守る前衛に持ってこいじゃな」


「はい、では、今すぐ行きましょう!アルト、お前達はそのまま相手の出方を見ててくれ。すぐに戻る」


「はいよー!」


 ヒイロは転移魔法でグランをジョーバン街道へ連れて行く。ジョーバン街道の方でも同じく作戦会議を行なっており、ヒイロが戻ってきたことと、そこにグランがいることにエメル達は驚いた。


「ヒイロ!?それにグランじい!どうしたのよ?」


「おぉちょうど良かった。エメルよ、ちとお主に相談があるんじゃ!」


「ヒイロとどうした?今日はナタリ渓谷じゃなかったのか?」


「ナットさんとエメルに相談なんですが、昨日の両方の戦況を照らし合わせた結果、グランじいさんとエメルさんを交代した方が噛み合うと思いまして」


 ヒイロは、さっきグラン達と話したことと、2人を交換した上での2ヶ所の作戦をその場にいるメンバーに伝えていく。


「確かに……いい作戦だ。それに相手もお互いの戦況を確認しているだろうから、いい撹乱にもなる」


「エメルさんはどう思います?」


「確かに私のゴーレムは、そっちの方が向いてるわね」


「ナットもそれで良いかの?」


「わかった、じゃあグランじいさん、今のヒイロの作戦を一緒に練り直してくれ!」


「じゃあヒイロ、私をナタリ渓谷に連れて行って!」


「わかりました!それではグランじいさん、ナットさんこっちを頼みます!」


「あぁ任せておけ、こっちは心配するな!」


 こうして、エメルとグランが交代となり、エメルがナタリ渓谷へやってきた。


「あ、エメル姉さん!!」


「アルト達、久しぶりね。グランじいの代わりに私が来たわ。戦況を教えて!」


 エメルはアルト達から昨日の戦況を改めて聞く。その上で、エメルのゴーレムを主体した編成を考えていく。


「とりあえず、グランじいさんの代わりは俺がやります」


「そうね。私は常にゴーレム で最前線を守るから、アルト達はゴーレムの隙間の守りと攻撃に全力を注いで!」


「わかりました!」


「じゃぁ支援、回復職と魔法使いはそのまま。前衛をゴーレム にして、出来るだけ後衛に装備をチェンジ。守りに特化してる者は、ゴーレムのサポート。ゴーレムはいくら破壊されても大丈夫だから、攻撃に専念するように!」


「わかりました!!」


「よし、じゃあ配置に着こう!」


こうして、イバール国、ナタリ渓谷防衛軍が配置に着く。


 その頃トキオ文明国ナタリ渓谷攻略軍では、大将ヤナカを中心に今日の展開を出来るだけ想定していた。昨日のうちに全軍の損害の把握を行い、改めて編成をした上で、今日で、ここを突破しようと考えていた。苦戦はしていたものの、2割程度損害しかなかった。相手も損害はそこまでではないにしろ、兵器と生身では、疲労度が全く違う。


「よし、昨日と同様に対グランを第一に想定し、戦闘機は16機編隊で、そのまま崖の上の雷帝グランを狙え!地上部隊第一陣は、オートマシン50その後ろから武装兵500。さらに戦車がその後方から遠距離にて射撃。編成次第、グランの魔法に警戒しつつ、進軍開始!今日で落とすぞ!」


「第一陣すすめー!」


 まだ、戦力に余裕があるナタリ渓谷攻略軍は自信を持って強気の進軍で攻めたきた。ただ誤算があった。それは崖の上にいるのが、雷帝グランではなく、転移魔法を持つヒイロだった事だ。


 ヒイロは先制攻撃を狙っていた。もし相手がジョーバン街道の指揮官と同じような切れ者だったら、崖の上を警戒し、戦車と戦闘機の両方で崖の上にグランに仕事をさせないように先制攻撃を仕掛けてきただろう。だが、それはなく圧倒的な戦力差に余裕を持ち、無造作に進軍をしてきていたのだ。


「……力押しで来たか。こっちの指揮官は、あっちの奴ほど怖くないな。それじゃあ早速行きますか!昨日はグランじいさんがド派手に開幕の挨拶をかましたようだから、俺も負けてられないぞ!神獣召喚、いでよ!《神獣タイタン》《神獣イフリート》」


(おぉーれさま!ド派手に登場ー!!派手に呼んだかヒイロー!!)


(ひさしぶりだな、ヒイロ)


「悪いが、さっそく先制攻撃を仕掛ける!イフリートは空の戦闘機を派手に破壊してくれ!タイタンはあの戦車を殲滅してくれ!いくぞ、転移魔法」


 ヒイロは神獣と共に、転移魔法で進軍直後のトキオ文明国軍の目の前に転移する。そして、状況がつかめず混乱しているトキオ文明国に向けて、神獣達が一気に魔力を解き放つ。


「フハハハ、派手に燃え尽きろ 《極炎乱舞》」


 イフリートが紅蓮の炎を纏い、ヒイロの元から、離陸直後の固まった編隊のままの戦闘機の前へ飛ぶと、その纏っていた炎を大爆発したかのように全身から放ち、空一面を極炎で埋め尽くす。その炎は高い魔法耐性を施してあるはずの戦闘機を、全てが爆散させ、さらにその下を進行していた武装兵達をも、同じく高い魔法耐性を誇る鎧を身につけていたにも関わらず、熱波により重度の熱傷を与え、戦闘不能に陥らせる。


「大地よ、全てを飲み込め 《メガクエイク》」


 そして、地上ではタイタンがその大きな拳を地面に突き立てると、巨大な地震と共に大地が割れ始め、大きな地割れとなり、次々とオートマシンと戦車隊の全てを飲み込んでいく。


 2柱の神獣はそれぞれ、たった一撃でトキオ文明国の第一陣を壊滅させてしまったのである。そして、ヒイロはわざと敵の大将と思われる人物、ヤナカに対して手を振り、笑顔を見せると、神獣を戻し、転移魔法で崖の上へと戻る。そして、仲間の方に見て、少し恥ずかしがりながらも大きく拳を上へと振り上げ、大袈裟にガッツポーズを決める。


 そのヒイロのらしくない行動の意図に気付いたアルト達、森のパーティーは、そのヒイロのガッツポーズに合わせ、自分達も声を張り上げ、ガッツポーズをする。


 すると、ヒイロのグラン以上の先制攻撃に度肝を抜かれ、呆然としていたイバール国の冒険者達も、アルト達の声で目を覚まし、昨日の攻防で下がっていた士気が嘘かのように次々と雄叫びをあげ、息を吹き返す。ヒイロは、その派手な一撃で、敵の第一陣を壊滅させ、さらに味方の士気も昨日以上に高めたのだった。



 ヤナカは一瞬、何が起きたのか理解が追いつかなかった。意気揚々と進軍した直後だった。一人の男が急に第一陣の前に現れたかと思うと、第一陣がまさかの一撃で壊滅させられてしまったのだ。


「し、進軍中止!被害状況を確認しろー!」


 その声も虚しく、見るからに第一陣は壊滅し、部隊長達も見たままを報告するしか出来なかった。ヤナカはすぐにその男を部下達調べさせた。《雷帝グラン》ではない。昔からSSランクとして名を馳せたグランの顔は、冒険者が少ないトキオ文明国でさえ、有名なため、ヤナカも理解している。


 《神降ろしのヒイロ》と言う男だと報告をヤナカは受けた。少し前、ヴァンジャンスの前にSSランクと冒険者になった男……ヤナカは混乱する。まさに進軍前に今朝、本国とジョーバン街道侵略軍との情報交換で、ヒイロと呼ばれる男は昨日までジョーバン街道にいたはずだった。ナタリ渓谷とジョーバン街道はかなりの距離がある。トキオ文明国が誇る戦闘機でさえ、どんなにスピードを上げて飛ばしても丸一日はかかる。


「まさかイバール国では我々でも出来なかった転移の技術があるとでも言うのか……クソッ、まぁいい。それならそれでヒイロと言う冒険者を警戒すればいい。それにあんな大規模な魔法、そう何度も一人の人間ができるものではない。それ以外は、雷帝グランと言い、もう敵ではないぞ。皆のもの編成をし直す。油断するなよ、《神降ろしのヒイロ》はどこに現れるかわからんぞ!」


 その言葉と先程の一撃に、トキオ文明国軍は雷帝グランの時と異なり、恐怖に陥っていた。まさに神如きの一撃だったのだ。そしてそれがどこからともなく、急に現れる。トキオ文明国の士気はヒイロの予想以上に下がっていた。


「おい!今、神降ろしはどこにいる!?」


「はっ!雷帝グランとともに崖の上にいるようです。」


「ふっ、それは好都合だ。戦闘機は全機、崖の上にいる神降ろし及び雷帝グランのみに集中しろ!そして、戦車部隊の半分も狙いは適当でいいから、崖の上に集中放火しろ。残り半分は、地上部隊を遠距離砲撃にて援護。オートマシン、武装兵は全て進軍させよ!」


 トキオ文明国軍はヒイロの存在を恐れながらも改めて進軍を開始する。



 ヒイロにとって理想通りの先制攻撃は出来たが、やはり甘くはなかった。今度は徹底的に対ヒイロの戦略で来ていた。ヒイロの神獣は、今のところ物理攻撃に対する有効な防御を持っている者はいなかったのだ。


 さすがに凄まじいほどの集中砲火攻撃が来ると、ヒイロと言えども、先制攻撃と同じようなことが出来なかった。そのため、仕方なくヒイロは妖精魔法でシールド魔法を展開しつつ、ジョーバン街道の時と同じように《神獣カーバンクル》と神獣合体を行い、少しずつ戦闘機を撃墜していくしかなかった。


 ただ地上部隊では、予想通りエメルが攻守において、その力を発揮していた。エメルはゴーレム 《ポーンソルジャーズ》を渓谷の端からは端まで展開し、戦車の遠距離砲撃から冒険者を守り、同時にゴーレム 《パラディン》と《ソードマスター》で、次々とオートマシンと戦車を破壊していく。


 またアルトとエイスは部隊を交互に率いながら、相手の兵を中心に攻撃を仕掛けていく。イルミとウルルも魔法部隊もアルト達の援護をしながら、オートマシンを中心に攻撃していくのだった。


 その結果、傷を負うものは一日目に比べ半減し、疲労が極限まで達していた支援及び回復部隊が余裕を持って対応出来たのだ。ヒイロとエメルの参戦により、攻守にバランスが取れたイバール国ナタリ渓谷防衛軍は無事に2日目を守り切ることが出来た。



 100%ではないものの、ほぼヒイロを封じ込める事に成功したヤナカではあったが、地上でもまさかの出来事に混乱が続く。ヒイロに続き、ジョーバン街道にいたと報告を受けていた《ゴーレムマスターのエメル》の魔法と思われるゴーレム が目の前に展開しているのだ。


 そして、損害は大きく変わらないものの、攻めの部分では一日目に比べたら、全くと言って良いほど進軍することが出来なかった。


「まだだ……まだ戦力には半分以上の余裕はある。今は我慢して持久戦に切り替える。全軍、無理に攻めようとするな、防御を厚くし、相手にプレッシャーをかけ、出来るだけ疲労させるように攻めろ!勝負は明日だ!こちらにも切り札はまだ無傷で残っている!」


 そのヤナカの戦術変更は正解だった。圧倒的に戦力が少ないイバール国軍にとって消耗戦が一番厳しい。ナタリ渓谷防衛戦二日目も両軍とも決定打はなく、お互い消耗戦に終わったのだった。

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