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ナタリ渓谷攻防戦開始!

 その頃、トキオ文明国のナタリ渓谷攻略軍大将のヤナカは、イバール国が待ち受けていることに気付かず、既に占領した後のことを考えながら進行していた。


「いくらイバール国が大国とはいえ、こっちと違い何年も前から準備をしていたわけではあるまいし。例え冒険者がいるとしても、教養のない一匹狼の集まりなど恐るるに足らん。後はシキ殿とどちらが先に首都ミトを占領するかだな」


 ヤナカは優秀な軍人ではあったが、先の小国との勝利により、自国の圧倒的な強さに酔いしれていた。それだけヤナカは我慢もしてきた。数年も前から他国との戦争を視野に準備を進めてきたトキオ文明国は、ギルドや冒険者を支援するのではなく、ひたすら自国の戦力強化をしてきた。魔王もシキと自身に任せて貰えば、この軍で倒せたと自信もあった。だが、あくまで天王様の願いは魔王ではなく、この世界の統一だったために、冒険者達の活躍に歯痒さを我慢しながら、戦力増強に力を注いできた。


 そして、その結果が今回の武装兵2000、オートマシン250、戦車200、戦闘機100、ビックオートマシン3という、数千の魔物のスタンピードをも、凌駕する大軍となったのである。それも2大隊。ヤナカは早くイバール国軍とぶつかり、戦闘を行いたかった。


「ヤナカ隊長、ナタリ渓谷につきました。予想通り、渓谷の間はこのまま進むにはかなり狭い道となっております。編成はどういたしますか?」


「そうだな。確かに俺が想像していたよりも道が狭いな。もしイバール国が防衛戦に出るならこの場所だが……まぁどうせ大した規模でもあるまい。一度全軍この場で待機。周囲の警戒を行え。まず戦闘機は、そのまま数機をいつでも飛べるように待機、その他は点検に入れ。ビックオートマシンも同様に点検。それと斥候部隊を出す。武装兵200、オートマシン30体、戦車20両発進。同じ編成で第二部隊、第三部隊まで編成する。残りは点検に入れ。斥候部隊第一軍は、編成次第、すぐに進軍する。」


「はっ、わかりました!第一斥候部隊編成用意!」


 ヤナカからしたら、この斥候部隊でも過剰戦力だと感じていた。何せ、この斥候部隊だけでも、Sランクの魔物10匹程度なら、まとめて圧倒出来ると自負していたからだ。


 トキオ文明国がナタリ渓谷に進軍を開始した同時刻、ナタリ渓谷防衛軍第一陣隊長アルト率いる前衛30名、後衛10名、さらにその後ろにイルミ率いる魔法部隊13名が配置につく。アルトは、ヒイロが現地下見の際に、即席で作った物見櫓からスキル《遠視》で、相手の出方を確認する。


 相手にとってはここの地形は、渓谷だけでなく上り坂にもなっており、更にヒイロが作っていた簡単な土豪がいくつも設置されてるため、相手側からの下方からは気付かれにくい。


「よし、相手はまだこっちに気付いていないみたいだ。みんな配置についたか?まずは戦車ってやつが20、その後ろにゴーレムみたいなの20以上。さらに兵隊さんが200前後!規模からして斥候部隊みたいだな。よっしゃ、そしたらイルミー!景気づけに先制の一発でかいの頼む!」


「オッケー!いっくよーー」


「待て待てーい!こういうもんは、最初に大将がやるから景気づけになるんじゃろう!まかせておけーい!!」


 崖の上にいるグランの笑い声が、森のパーティー全員が付けているヒイロ特製耳飾り型通信機から耳に入る。


「グランさん!?」

「えー、グランじいずるーい!」

「コラ、イルミ!グランさんでしょ!」

「イェーイ、やっちゃえ雷帝!!」


 グランが崖の上からまだ距離があるトキオ文明国の斥候部隊に向けて杖を構える。そして、通信機ではなく、地声にて、下にいる冒険者達に発破をかける。


「それでは開戦じゃー!若造ども死ぬんじゃないぞー!この雷帝グランがついておる!見ておれ、そして気合を入れろ!極雷魔法 《万雷》」


 グランが放った強力な超広範囲雷魔法がトキオ文明国の斥候部隊に降り注ぐ。


 それは一瞬の出来事だった。ヤナカは、イバール国の防衛軍と思われる少数の目撃情報が入ったと連絡を受け、斥候部隊に対し、戦闘態勢にて進軍を指示を出した直後だった。


 敵軍との接触まで残りあと少し、もうすぐ戦車の主砲の射程距離に入る瞬間だった。急に黒い雷雲が頭上を覆い、天候が悪くなったかと思うと、斥候部隊の頭上に凄まじいほどの雷が降り注ぎ、20輌の戦車と30体のオートマシンに直撃したのだった。そして、そのまま戦車は、その場で大きな爆発音とともに大破し、武装兵もまた直撃ではないにも関わらず、かなりの強度、魔法耐性のある鎧が黒焦げになり、ほとんどが再起不能となった。


「し、進軍やめー!武装兵は一度後退しろー!」


 まさかの光景に、既に祝勝ムードだったトキオ文明国側に大きな衝撃が走った。たった一撃……たった一撃の魔法と思われる攻撃で自軍の斥候部隊が壊滅させられてしまったのだ。


「ふ、副司令!斥候部隊がたっ……たの一撃で壊滅です……」


「バカもの今は大将と呼べ!くっ、見ればわかるわ!くそっ、あれが多分……元SSランク、《雷帝グラン》の雷魔法だ……まさかこれほどとは……まぁいい、俺も油断をしていた。だが、グランがいると分かれば対策はある」


「あ、あれがSSランクの魔法……ですか……ヤナカ大将殿……ど、どうすれば……?」


「ちっ……渓谷の幅といい……なかったはずの土豪など、圧倒的に攻めるこちら側が不利だ……一旦編成をやり直す。それぞれ部隊長クラスは俺の所へこい、それまで進軍は一時停止、相手の反撃に備えておけ!」 


 開始数分で再編成を余儀なくされたトキオ文明国ではあったが、まだ戦力差ではイバール国の軍に対し、圧倒的な優位を誇っていた。


 敵の先行部隊の壊滅にイバール国ナタリ渓谷防衛軍では、大きな歓声が起きていた。


「さすが元だけど、SSランク冒険者!ヒイロ兄並みだね!」


「もしかしたら楽勝なんじゃないか!」


「お前達、気を引き締めるんじゃ!今からが本番じゃぞ!」


「そうね、今度はきっとグランさんの存在に気付いて警戒してくると思うわ!」


「グランさーん!今のうちにこっちから攻めるかー?」


「それはやめておこう。ヒイロとの約束もあるが、この地形を最大限利用するには今の配置がベストじゃ」


「わかった!みんな、これからが本番だ!気を引き締めよう」


 グランをはじめ、アルト達は改めて気を引き締め直すのだった。そしてここから本当に苦しくて長い戦いの始まりだった。


 ナタリ渓谷攻略軍、大将ヤナカは相手を舐めていたことを恥じていた。だが、それと同時に二度と油断はするまいと決心し、一度深く深呼吸し、気持ちを切り替える。


「全機、対雷帝装備。第1~3部隊再編成、武装兵400、戦車40、戦闘機30、オートマシン50!残りは各隊の補充に回すため待機!ビックオートマシンは様子を見て投入する!」


「編隊急げー!」


「戦闘機ははじめから崖の上に潜伏している思われる雷帝グランのみに的を絞れ!戦車隊は敵魔法射程距離外から攻撃!また武装兵及びオートマシンは上空の雷帝の魔法に注意を払いつつ、前進!」


「はっ!第二陣、すすめー!」


 いきなりの壊滅に一時は混乱したが、戦力差から楽勝ムードだった部隊が目を覚まし、気を引き締めるきっかけにもなってしまった。先程とは違い、兵士一人ひとりの気合に2000もの軍の圧力が一気に増し、そのままイバール国防衛軍と正面からぶつかっていくのだった。


 アルトは焦っていた。急にトキオ文明国の雰囲気が変わったのだ。こちらの戦力差は約10分の1にも満たない。ごまかしながら守り切るにも限界があった。アルトは的確な指示で前衛の防御を後押ししつつ、前列の突破されそうな部分を中心に弓を放っていくが、相手の装備はかなり硬く、倒すには装備の隙間を狙わなければいけなかった。


 イルミもまた敵の雰囲気の変化に戸惑いつつ、魔法部隊に人型のゴーレム を中心に攻撃をかけさせ、イルミ自身は出来るだけ戦車に攻撃を仕掛けるが、かなり強力な魔法耐性が施されているのか、上級魔法では一撃で破壊するまでには至らなかった。


 大将のグランはと言うと、下の戦況を見つつ、指示を出そうとするも、30機もの統率の取れた戦闘機部隊に指示を出せる状況ではなかった。それも戦闘機には、雷魔法に対する対策がしてあるのか、直撃しない限りは雷がすり抜けてしまい、また地上部隊にも傘のような機械が付けられており、雷魔法が相手に直撃する前に、それに引き寄せられてしまっていたのだ。


 イバール防衛軍は初手と打って変わり、かなりの厳しい戦いを強いられた。その後、膠着した戦闘が2時間続き、ヤナカは部隊の交代を指示する。損害は少なくはないものの、補充に余裕があるため、難なく補充していく。相手がどの程度の戦力があるかはわからないが、戦力差は歴然のため、ヤナカは冷静に戦況を分析し、後退した部隊の様子を見ながら、今後の展開を考えていく。まだ切り札は無傷で残っている。


 グランも相手の交代に合わせて、自軍の交代を指示していく。だが、グランにとってはそれぐらいの指示しか出来ないことに苛立ちを感じていた。それに相手は、先程、十数機は落とした戦闘機がまた全て新しい機体に変わって攻撃をしてくるのだ。まだ体力、魔力には余裕があったが、戦闘機と言われる兵器の攻撃はグランでさえ、あたりどころが悪るければ、一発で致命傷になりかねない。


 アルトはエイスに現場の指揮を任せ、第1部隊と共に一時後退する。回復補助部隊に回復をかけてもらいながら、戦況を振り返る。悪くはないと思うようにした。それに損害で言ったら相手の十分の一ぐらいなはずだ。それでも相手の戦力は10倍以上、厳しい戦いが続くと、奮闘するエイスを見守る。


 イルミもまた、交代をするとかなり疲労と魔力消費を感じていた。戦車を中心に攻撃するもやはり上級魔法では容易に破壊できず、状況が危うい時には超級魔法を何度か使用したのだ。またCDランクの魔法使いでは、中級魔法が精一杯のため、部隊の魔法使いにはマシンゴーレム を狙わせるしかなく、それも一撃では、倒せないため、地道に削っていかしかなかった。イルミは魔法回復薬を一気飲みながら、どうにか攻略の糸口を探そうとしていた。


 エイスはアルトと交代し、第ニ部隊の指揮をしていた。どう戦うかはアルト達第一部隊を見ながら考えていた。後方から指示を出すアルトと違い、エイスは、自身が最前線に立ち、皆を引っ張っていく。主に戦車の大砲に警戒し、直撃しそうな弾は出来るだけエイス自身が防いでいく。その威力は凄まじく、CDランク冒険者にも良い装備が支給されていたが、エイス以外は皆、数人で一発を防ぐのがやっとで、恐怖すら感じられていた。それでもエイスは先頭に立って部隊を鼓舞していく。


 ウルルも第一部隊の消耗具合から相手の攻撃力の強さに驚いていた。イルミ同様、出来るだけ上級魔法で戦車を破壊しようと考えていたが、交代時にイルミから上級魔法では一撃で破壊出来ないと伝えられたため、すぐに切り替え上級防御魔法で戦車の攻撃を防いでいた。そうすることで、エイス一人では庇いきれない箇所を補っていたのだ。また更にエイスや他の冒険者達に補助魔法をかけ、ウルルが後衛の魔法部隊の指揮をとっていく。


 両軍はこの後も交代しつつ、戦況は互角のまま夜まで続いたが、夜襲はお互いに不利であることを悟り、次の日のために休んでいくのだった。


 ナタリ渓谷全体としての戦況は、地形的に大規模な戦闘にならず、またトキオ文明国のほうが実質の損害は大きいものの、イバール国のほうが、人中心のため、心身の疲労といつ意味ではかなり消耗が激しい結果となった。

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