世界大戦の始まり
その時は突然にやってきた。トキオ文明国が世界各国に対し、戦線布告をしたのだ。それはヒイロにとっては予想されていたものの、戦争という言葉の重さを知らない各国の代表達は、どういうことかも理解しようとせず、相手にしない国が多かった。
だが、その各国の油断に乗じ、トキオ文明国はすぐに動きを見せる。最初に攻め込まれたのはトキオ文明国の隣国にある小国、トチギル国とフクール国だった。共に冒険者ギルドの本部を持たない二国はなす術なく、自国が持つ、少数の騎士団を一瞬で蹴散らされ、その日のうちに首都を占拠され降伏となった。
不幸中の幸いだったことは初めから、備えをせず無警戒だった二国がほとんど抵抗もなく、全面降伏したため、大きな戦闘になることもなく、両国の国王が廃嫡となったが、民間人にいたっては死人が出ることもなかったのだ。
この電光石火の進撃に、トキオ文明国の本気であることを理解し、各国の警戒が一気に加速する。ただその中でも一番防衛に対する動きが早かったのは、ヒイロによって警戒を促されていたイバール国であった。地理的にも一番東にあるトキオ文明国が、次に狙うとしたらイバール国であり、最初の宣戦布告に対し、混乱や油断もせず、すぐに自国付近にいるSSランク冒険者の招集要請を出していたのだ。
ただそのイバール国の緊急招集に駆けつけられたSSランク冒険者は、ヒイロとエメル、そして元SSランク冒険者のグランのみであった。エングやシルフにも招集要請が出されたが、直前になってニイガル国がエングを、ナガーサ国がシルフを国防の要として残って欲しいと要請したのだ。
確かにトキオ文明国が、今度も同時に他の国の侵攻を考えたとき、各国はある程度の戦力が必須であり、国家レベルでの人族同士の争闘を、今まで経験していなかったこの世界では、SSランク冒険者以上の戦力はない。
それに勇者ロイもまた、今回の戦争には参加することは許されなかった。勇者の敵は対魔物、対魔王であり、同じ亜人族を含めた人族ではないからだ。それはイスカリオテも同様とされたが、何故か、冒険者であるヴァンジャンスは連絡が途絶えたままだった。
ミトのギルド本部に集まっていたヒイロ、エメル、グラン、ナットは迷っていた。今回の相手は魔物や魔王でなく、同じ人族であり、対応や方法を誤ればかなりの死者を出してしまう。どの国もそうだが、出来るだけ相手の死者も出したくはなかったのだ。
「ナットさん、相手の規模はどれくらいかわかりますか?」
「あぁ、今回フクール国とトチギル国に侵略した規模は、両国とも、兵数が1500、戦闘機と呼ばれる飛行型の大型兵器50、戦車と呼ばれる地上戦用の大型兵器が100、そしてオートマシンと呼ばれた人型兵器が200、そして未確認だが超巨大な兵器もいたらしい。」
「その規模を2隊も……。でも多分本国防衛用にも同じかそれ以上の戦力を残しているはずですよね……。本当に油断していたら、世界は本当にトキオ文明国の手に渡ってしまう」
「その大型兵器とか、人型兵器って言うのは、私のゴーレムとかとはまた違うの?」
「エメルさん、これは俺の想像ではありますが、間違いなく機械……ロボットという物だと思います。土属性魔法のゴーレムとは違い、魔力で形成、動かすのではなく、動力まではわかりませんが、機械……あらゆる部品を組み立てた物……無機質なカラクリ人形をイメージしてもらえれば、わかりやすいと思います。それが大型化、兵器化、そして量産化された物だと思います」
「カラクリ人形……トキオ文明国の名産品の自動で動く人形じゃな……ヒイロや……それはもしやヴァンジャンスの魔法に似ているのではないか?あやつの魔法もエメルのゴーレムとは違い、形は複雑だが、動きは単純で無機質……ワシのイメージが重なるのじゃが……」
「……確かに、私も魔王との戦いの時に、大きな鳥みたいな物が飛んでるを見たわ……」
グラン、エメル、ナットがヒイロを見る。
「どうなんだヒイロ……」
「……たぶん、同じかと……」
「冒険者ギルドの本部を通してもヴァンジャンスとの連絡は取れていない……もしかしたら今回の件、ヴァンジャンスもトキオ文明国側に協力をしてる……もしくはさせられてるかもしれないな……」
「……いえ、ナットさん……アイツはそんなこと……戦争の悲惨さや無意味さを経験が無くても理解してるはずなんです!!」
珍しく感情的になっているヒイロを見て、3人は少し驚き、グランがヒイロの肩を優しく叩く。
「わかっておる。あんまり話したことはないが、一緒に背中を合わせ、魔王と戦った仲じゃ。何か理由があるんじゃろう」
「そうね、ものすごく無愛想な子ではあったけど、悪い子では無さそうだったからね」
「まぁいずれにせよ、会えばわかる。とりあえずは今はトキオ文明国に対して準備をしよう」
「……はい、ありがとうございます……」
それからまた4人は分析に入る。
「じゃぁ結局、その大型兵器は人が操作しなくて良かったり、魔力が無くたっていいの?」
「もしかしたら、その戦闘機や戦車と言われた兵器には操作する人が乗っているかもしれないですし、動力は魔力かもしれません。……ただ、少しの力や人数で大きな威力は確実に出ると思います。それこそ、ヴァンジャンスの魔法並みの質量と威力があれば……戦闘機ならドラゴン族並み、戦車ならSランクの魔物レベルは……」
「!?本当か?それに生身の兵士もいるんだろ?確かトキオ文明国の騎士団、軍隊とか言われる奴らは、特殊な武器を使っていたはず……かなり厄介だぞ……」
「魔法ほど応用は効かないですが、その武器も対人族にはかなり有効だと思います。それも遠距離での攻撃が可能で、弓より連発出来て、なおかつ弾数もかなり多く、魔法みたいな魔力の消費も少ないかと……」
「確かに……トキオ文明国の武器は、新人冒険者が使用するだけでC、Dランク……中堅冒険者レベルの戦闘力を出せると聞いたことがある。」
「……本当に厄介ね……」
「仕方ないのう。同じランクの魔物ならまだしも、その兵器にも人が乗っているかもしれんのか……あんまり人族相手に魔法は使いたくないが、こればっかりはな……」
「そうね、これだけの戦力に、私たちが躊躇してたら、それこそ誰も守れないわよ」
「はい、どうにか俺たちで食い止めないと……」
「そうだな。あと、今回考えられるイバール国への侵略経路は2つ、一つはフクール国経由からのジョーバン街道、もう一つは直接国境となるナタリ渓谷。もう一つ、トチギルからのバクツ山だが、これは山を越えるため、難しいと考えた方がよいとだろう。そして規模も、予想でだが全体で、兵数が約4000、戦闘機が200、戦車が400、人型ゴーレム が600、そして巨大なゴーレム が数体……それに対してこっちの兵力は、どれだけ多く見積もっても、冒険者SSランク3名、Sランク10数名、Aランク30弱、Bランクも50弱、CDランク冒険者が200強……。後は数は少ないが国王を守る騎士団が300程度……どうみても圧倒的に不利だな。」
「そうですね。単純に相手の兵の強さは兵器の質にもよりますが、最低でもDランク冒険者と同等だと思っていたほうがいいと思います。マシンゴーレム は分かりませんが、戦車、戦闘機が魔物で言うS、SSランク、謎の巨大ゴーレム がSSSランクと……」
「それでもやるしかないじゃろう。前回と同じならトキオ文明国は、今回も、今の戦力を二手に分けて、2箇所から攻めてくるかもしれんな。こっちもそれに合わせて二手に分かれて迎え討つしかないかの……」
「ヒイロ、どうするの……」
エメルに問われ、ヒイロは前世の記憶を思い出していた。参考になるかわからないが、学生の頃は三国志や戦国時代のゲームが流行り、ヒイロもそこからハマり、三国志などの歴史小説を読み漁っていた。それが上手く当てはまるかわからないが、それしかヒイロには思い当たらなかった。
「まずは二つのうち、一つは囮にしましょう。勝とうとはせず、こっちの戦力を出来るだけ少なくしつつ、敵戦力を食い止める。そしてもう一つの方に戦力を集め、攻める。そうすることで、防衛だけで無く、相手の戦力をかなり削ることができます。ナットさん、ナタリ渓谷とジョーバン街道、守りやすい地形はどっちですか?」
「それならばナタリ渓谷のほうが守りやすいだろう。渓谷で高い崖が両側にあり、一本道。それも相手側の方は断崖絶壁でこちら側からしかがけは登れない。相手は渓谷の谷間のみ、それも坂道のな。だから守るには向いていると思うぞ」
「分かりました、そうしましょう。そこにはグランさんが、向かってください。グランさんなら、その地形の唯一の弱点でもある空、戦闘機にも魔法でカバーすることが出来ます。!」
「仕方ないのう、任せておけ。ワシもその場所は知っておる。S、Aランクはいらんから、体力のあるBランクとC、Dランクの冒険者をくれ。」
「……わかりました。ただ申し訳ないですが、Sランクの《森の家》パーティーをグランさんのサポートにまわしますから、残りはC、Dランク冒険者200のみ守ってください。分かってると思いますが、間違っても勝とうとはしないでください。少し押され気味ぐらいで、相手が勝てると思い、攻めてくるぐらいでちょうどいいです。歴戦のグランさんでしかその駆け引きは出来ないと思います。ここでの戦いは勝っても負けてもいけません……相手戦力の半分の足止めです」
「……じゃろうなぁ……現役を退いた老いぼれに難しいことを言うのう」
「そして、エメルさんはジョーバン街道で残りのSランク冒険者と共に出来るだけ兵器を破壊してください!ナットさんは同じくジョーバン街道で、残りのA、Bランク冒険者を指揮をしてください。エメルさんの攻撃をフォローしながら攻めてください。ただ、くれぐれも敵を殲滅することにこだわらなくていいです。スピードを重視して、敵戦力を叩いたらそのままトキオ文明国に攻め込めるように」
「……わかったわ。ヒイロはどうするの?」
「それとイバール国の騎士団はどうする?俺から要請も出来るが」
「騎士団はそのまま国王と首都の防衛に回ってもらいましょう。暗殺やバクツ山からの奇襲もあり得なくないですから。その方が騎士団も守りやすいでしょうし、何より指揮系統が増えるのは混乱を招くだけですので。俺は転移魔法を使って偵察をしつつ、両方の戦況を見て、バランスを取ります。あと策をいくつか講じておきます。多分、後からその策が重要になってくると思いますので」
「わかった!」
「じゃあ後はよろしく頼みます。俺は先に行って偵察をしてきます。みなさんは敵の動きがあるまでに作戦の共有と地形の確認。地の利を得るには地形の把握が不可欠です!」
こうして、ギルドマスターのナットを中心にして、イバール国のトキオ文明国に対する防衛準備が急速に始まった。そしてヒイロもまた、密かに作戦前に転移魔法であるところに向かっていた。この劣勢な戦いの命運を賭ける一つの鍵だった……。




