間話 〜聖女ウルルの日常〜
ウルルは週に一回、近くの神殿に頼まれて、ボランティアでの治療を行なっていた。本来、光属性の魔法使いであり、天職が《僧侶》のウルルは、冒険者として活動しなくても、働くうえで良い選択肢が幾つかあった。ただ、一番尊敬していた人と一番親しい人達が冒険者になったため、自然にウルルも冒険者への道を進んだ。
この世界の治療には二つの方法がある。一つは薬草などによる服薬治療。主に学者や薬師の天職がある者がなり、怪我よりも病気をメインに治療を行う。
そしてもう一つが、魔法による治療である。主に外傷や毒などの状態異常の治療を行う。そのためウルルのように光属性の適性がある者は、リスクの高い冒険者になるよりも治療院や神殿に勤める者が多い。特に中級以上の魔法が使える者は、かなり重用され、私設治療院を開いて、安全にお金持ちになることもできた。
だが、ウルルは戦闘自体は好きでないものの、冒険者をやめるつもりはなかった。それは冒険者の高額な報酬により、孤児院を支えられることでもあったが、何より自分の大好きな人達と一緒に戦い、みんなを守りたいという思いが強かったからだ。
では何故、神殿でボランティアをするかと言うと、薬師による治療や施設治療院での治療は、ある程度国で補助され、安くなってはいるものの、それでもお金はある程度かかる。そのお金も払えないスラムに住む貧しい人々の多くは神殿に救いを求めるしかなかったのだ。だが神殿にも規模の大小があり、オオタルの神殿では、規模がかなり小さいため、神父と数人のシスターはいるものの、誰もが初級の回復魔法しか使えなかったのだった。その噂を聞いたウルルは、緊急時以外では、1週間に一度神殿に行き、神父達が治療出来ない患者をウルルが上級回復魔法を使い、無料で施していたのだった。
今日も、その週一回のボランティアの日だった。他にもウルルのようにボランティアで治療をする治療院の見習い薬師や、冒険者の者もいるが、綺麗な長い黒髪に豊かな胸、そして優しい澄んだ青い瞳と声をしているウルルは、二つ名の《聖女》がぴったりの美しい娘だったため、ファンも多く、いつもウルルのボランティアの日は、野次馬も含め、人でいっぱいだった。
「お姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして、これからは気をつけてね!」
患者は子ども達から冒険者や職人など、また症状も骨折や切断などの重症なものなど様々だった。珍しい光属性の上に超級の光魔法まで使えるウルルにとってはさほど難しくはないが、それでも人数が多いと、夕方には魔力も切れ、体力も疲れ切ってしまう。それでもウルルはその日来た患者は魔力回復薬を飲んででも全員治療する。だから、いつも夕方にはアルトやイルミ、エイスらが迎えに来てくれていた。
夕方になり、全ての患者の治療を終え、帰ろうとしていた時、瀕死の重症者が運ばれてきた。冒険者のようで、背中から腰にかけ、爪のような物で大きくえぐられており、仲間の冒険者が必死で運んで来たようだった。ブロンズプレートを見る限り、Cランク冒険者のその男は今にも死にそうな重症を負っていた。
お金があっても瀕死の重傷者はオオタルではウルルしか治療出来る者がいなかったため、今回のように瀕死の重傷を負った冒険者達は冒険者ギルドからの案内でウルルの元へと運び込まれることが度々あった。
ウルルは、今にも死にそうな冒険者を見て、的確に周りにいるシスターに指示を出し、ウルル自身も今日の分の魔力回復薬が切れ、魔力も残り少なかったにも関わらず、迷いなくすぐに治療を行う。
「超級魔法 《マキシマムヒール》」
今にも死にそうだった男の傷はたちまち治り、綺麗に完治する。その神のような効果に周りで賞賛の声が上がる。
「おぉー!!ありがとうございます!!本当にありがとう!」
仲間と思われる中年の男は泣きながらウルルに感謝していた。また入り口の方でも、怪我人の同じ仲間と思われる女性に、お礼を言われてるアルトの姿が見つけた。
「あ、アルト兄!迎えに来てくれたの?」
「まぁそれもあるけど、たまたま森の奥で、森の家のご馳走用にほろほろ鳥の狩りをしていたら、そこのパーティーが2匹のハイドベアーに襲われててな、一人が重症で危なそうだったから助けたんだ」
「ハイドベアーか……この辺で珍しいわね、時々は見かけなくもないけど……。」
「あぁ1匹ならまだしも、2匹同時は運が悪かったとしか言いようがないな。でも、間に合ってよかったよ。今日はウルルがこっちにいるってわかってたから、助けた後、こっちに案内したんだ」
「本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません……」
肩を担がれながらさっきまで重症だった男が礼を言ってきた。
「大丈夫ですよ、これからはもう少し気をつけてくださいね、命は一つですから」
「はい……。」
そうして、その4人組のパーティーは頭を下げながら帰っていった。ウルルもその様子を見て帰ろうとした時、ガクッと身体の力が抜け倒れそうになってしまった。完全に魔力が切れると脱力が起きてしまうのだ。アルトはそのウルルの様子を見て笑いながらしゃがんで背中を見せた。
「たくっ、毎回ボランティアなのに動けなくなるまで無茶するんだからな。自分の身体のことも少し考えないと、ヒイロ兄に怒られるぞ!ほらっ!」
ウルルは少し照れながらもアルトの背中に乗った。
「えへへ、なんか懐かしい。森の家に来た頃は、よくこうやってアルト兄やヒイロ兄がおんぶしてくれたね」
「そうだな、特にウルルはドジで、すぐ転んでは泣いていたからな。」
「えー、そうだったかなぁ!でも、イルミとエイスはいつもヒイロ兄の背中を取り合ってた気がする」
「確かにな、あいつらはわざと怪我してまでおんぶしてもらおうとしてたからな!」
「私たちも大きくなったね……魔神だって!魔王でさえあんなに強かったのに……これから世界はどーなっちゃうのかな?」
「バーカ、そんな心配はお前がすることないの!世界には勇者のロイだっているし、何より俺らには最高のヒーローがいるだろ?」
「そうだね!ヒイロ兄がいれば安心か!!」
「あぁ、ヒイロ兄は出会った時から俺らにとって、世界を変えてくれた最高のヒーローだろ!あの人ならきっとこの世界だって、子どもを助けるついで救ってくれるさ!」
「子どものついでにね!そだね!はぁー今日も疲れちゃった!」
「お疲れさん、今日はご馳走のほろほろ鳥だぞ!帰ってみんなで食べよう」
「わーい!」
いつのまにか、ウルルは疲れたのかアルトの背中で眠っていた。
「……お前も貧しい家庭や子ども達からしたら、りっぱなヒーローだよ、ウルル」
アルトは眠ったウルルを起こさないように、家まで優しく運ぶのだった。




