冒険者養成校
SSランク冒険者 《雷帝グラン》は、人族としてはかなりの高齢に入る。それでも彼は冒険者として、いまだ第一線で活躍し、魔王討伐でも貢献している。
だが、全ての魔王を討伐した後は、現役を退き、冒険者引退を表明。今はヒイロの要望により、イバール国の首都、ミトのギルド本部の近くに出来た冒険者学校という新しくできた、冒険者見習いの為の3年制の養成校の学長に就任する予定となっていた。
まだその養成校も出来たばかりで、半信半疑の冒険者見習いの者が多かったが、15歳以上ならば誰でも入学することが自由であり、授業料なども無料のため、ギルドから勧められ、見習い期間が過ぎても、実力に自信がないもの、パーティーが組めず困っている者がそれなりに集まってきていた。
講師はと言うと、今のところグランのように高齢などを理由に引退したBランク以上の元冒険者達が担っており、またヒイロの強制イベントとして、ここでもアルト達が臨時講師として名前だけは連ねている。ただ一応、年に数回ある集団実戦への参加はしてくれることになっており、その時はパーティーの見本となってもらう予定であった。もちろん、特別顧問のヒイロもその時は参加することになっているが、グラン曰く、
「ヒイロは見本にすべき冒険者ではない。あれは特別じゃ。ヒイロに憧れて冒険者になってしまったら、夢を見たまますぐに死んでしまう」
だ、そうだ。グランは今回、視察と学長就任の説明を兼ねて、ミトのギルドマスター、ナットとともに養成校へと訪問に来ていた。
「ヒイロのやつはやっぱり変わっているのう、こんな物を作って何がしたいんだか」
本当だったら今頃、グランとしては、ナガーサ国に移住し、海が見える別荘で、魚釣りをしながら余生を楽しむつもりでいた。それを世界の為だと、ヒイロに言われてここに来ていた。グランのため息混じりの愚痴にナットが苦笑いしながら説明する。
「まぁ本当なら俺の仕事でもあったんですがね。我々ギルドが長年、悩んでいた問題の一つに見習い冒険者の事故率と死亡率の高さがありました。冒険者は皆、自由がモットーですから弟子入りなども少なく、同郷の者や、親戚、よほど気が合わない限り、見習いのうちからパーティーを組むことが少ないため、この世代はソロでのクエストでのケガや死亡が多いんです」
「まぁ自己責任が冒険者の心構えだからのう。それにそれでこそ、強い者は残り、弱い者は去っていく世界でもある」
「我々もそう思い、今までは見習い冒険者に対し、クエストの調整ぐらいはしますが、それぐらいで後は何もしてこなかったのです」
「まぁ当然じゃな。自分の実力をきちんと把握できない者は生きていけない世界だからな」
「そしたらヒイロが、福祉ギルドの話しをしていた時に、冒険者学校も必要だ!と言いだしたんです」
「理由は?」
「一番、命に関わる職業なのになんで見習いの面倒を見ない!ギルドの怠慢だと怒るんです。俺が大事に育ててきた子ども達をむやみに殺すな!と」
「ハッハッハ、なるほどな。ヒイロの子ども関係に引っかかったのだな。わかったわかった。それでわしにもほぼ強制的に代表をやれと迫ってきたのだな!」
「そうみたいです。あいつは冒険者に福祉ギルド立ち上げに色々な施設の開設に……どこに向かって突っ走っているのやら」
「まぁそれがヒイロの強さなのだろう。子どものことに関しては一切ブレがないからな。」
「そう言うわけで講師の指導や指導内容などは冒険者ギルドが責任を持ってやっていくので、グランさんには時々で良いのでSSランク冒険者の実力や経験話でもしてくれるとありがたいです」
「まぁ引退後のジジイには丁度いい仕事じゃな」
施設内を見学して回っていると、たまたま戸外の訓練場の一つに、生徒らしい若い冒険者が10人ぐらいと講師のベテラン冒険者が魔法の練習を行っていた。ナットの説明では、内容はパーティーとしては後衛にいることが多い魔法使いが標的に対し、遠くから正確に魔法を当てられるかを行なっているとのことだった。距離はだいたい30メートルぐらいである。
「ほう、中々実践向きの練習じゃのう。ただずっと止まってる魔物など、おりゃせんがの」
見習い冒険者達はそれぞれ適性のある属性の初級魔法で練習していた。途中、ベテラン冒険者が見本で中級の《エアロストーム》で金属で出来た的に的確に当てていた。
「おーっ!」
若い見習い冒険者の中には、初めて中級魔法を見た者もいるのか、その威力に歓声をあげ、驚いていた。
「お、グランさん、いらしておられたんですね。おい、お前たち、今度この養成校の学長になられる、あの魔王討伐でもご活躍なされたSSランクの冒険者の《雷帝グラン》さんだ!!」
「なぁ、その恥ずかしい紹介は今後はやめてくれ……」
「ぜひ、若者たちトップランクの実力を見せてください!!」
「仕方ないのう。少し離れておれ。」
グランは見習い冒険者達よりさらに30メートル離れた、的から50メートル離れた所からの魔法を見せた。これは意外と実践でも、なくはない。空中にいる鳥系やドラゴンなどにはありえる距離でもある。
「瞬きするんじゃないぞい……極雷魔法 《迅雷》」
グランが的に向けて人差し指と中指の2本で指差すとそこから超級魔法の雷魔法が一瞬で打ち出される。一瞬、雷鳴がなった瞬間、激しい爆発音とともに、金属で出来た魔法耐性のあるはず的が粉々に壊れてしまった。
「……さ、さすが《雷帝グラン》……。よ、よく見たか!?これがトップランクの実力だ!!お前たちも目標を高く持ち、命を大切にしながら努力するんだぞ!」
見習い冒険者達はまだ度肝を抜かれて呆然としていた。そんな様子を見ながらグランとナットは笑いながらその場所を後にした。
「わしの魔法はユニークスキルだからあまり見本にならんな。ほら、いつかの魔王討伐時にヒイロに連れてこられた若いSランク冒険者パーティーがおったじゃろ?あれなんかバランスも良いし、それぞれ役割がきちんとしておるから良い見本になるぞ。」
「Sランクの《森の家》パーティーですか?それならすでにヒイロから強制的に、臨時講師にさせられているみたいですよ。まぁ年に数回の実戦練習の時のみらしいですが。」
「それなら、ついでに月に一回でもわしのように見本を見せに来いとヒイロの伝えておいてくれ。」
「わかりました。じゃぁ今後はよろしく頼みますよ。何かあったらギルドにお伝えください。出来るだけ協力いたしますのでね。」
「あぁ、了解じゃ」
こうして、イバール国では他国に先駆け、見習い期間の専門学校が建てられた。それから各国では同じように冒険者専門だけでなく、職人ギルドや商業ギルドもそれに準じるように、様々な養成校が建てられるのであった。
それは、この世界の歴史を変える一つの出来事であり、今までは家系や、弟子入りによる技術の伝達であったが、《神の祝福》によって定められた天職が未経験や本人の興味がないだった場合、それでも生きるために、弟子入りする事で、教える側の職人にも相当な負荷であったが、養成校が出来た事で、一から丁寧に基本を教わる事ができ、職人も自分の仕事に集中できるようになるなど、お互いにメリットが出来、数年後には見習い期間は養成校で学ぶ事が一般的となったのだった。




