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ヴァンジャンスの過去

 ヴァンジャンスは、六大魔王との戦いの後、原因不明の頭痛に悩まされていた。老人福祉をヒイロに無理矢理作らせ、ある程度の形が出来たところで、後遺症と疲れを理由にしばし休むことにした。


 今思えば、SSランクの冒険者になる前はのんびりと暮らしていたが、SSランクの冒険者になり、さらにヒイロと出会ってからは急激に変化しすぎたのだろう。少しぐらい休んでも、バチが当たらないと思ったのだ。


(それにしてもヒイロのやつ、俺の家に突然来たかと思うと「お前は鋼鉄○ークかロボ○ップのファンか?」とバカにしてきやがったな。その時は頭も痛かったから、言い返すことも出来ず、無言で中指を立てたが、うっかり心の中では「アイ○ンマンだ、バカやろー」と不覚にも突っ込んでしまった……)


 頭痛のせいで、身体が怠いため、ベットに横になっていたヴァンジャンスは昔のことを思い出していた。ヴァンジャンスの前世はあまりいいものでなかった。それなりに裕福な家庭に生まれたが、家庭内はDVとネグレクトで幼い頃に離婚。ヴァンジャンス自身もその代償からか、他人とのコミュニケーションがうまく出来ず、中学を入ってすぐ、引きこもりまでは行かないものの、仲の良い友人も作れず、パソコンやネットのゲームに逃げていた。今の魔法のモデルもその時の知識による物だ。


 高校を出てからは、運良くIT系に勤め、実家から逃げるように一人暮らしをしていた。だが、その会社が運の尽きだった。休みはほとんどなく、待遇も悪く、下手したら死人も出るほどのブラック企業だったのだ。ヴァンジャンスも、やめられることならやめたかったが、高卒でコミュ障には他で働く選択肢はなかった。


 その頃は特に将来に希望や夢もなく、疲労感からの絶望と、なんの楽しみもなかった青春時代に恨みを持ち、「世界が滅びればいい」とさえ、常につぶやいていた。そんな日々が10年も続いたある日、いつのまにかヴァンジャンスは自ら会社の屋上から飛び降りていた。


 その時、ある声が聞こえた。最近の頭痛で少しずつその時の記憶が戻りつつあった。


「……復讐だ……その絶望に感謝しろ……オレがいた世界とつながった……新しい人生をやろう……」


 ヴァンジャンスは転生をしていた。ヒイロと違い、生まれた頃の記憶はない。気がついたら5、6歳で、頭から血を流していた。周りの同じような子どもからヴァンジャンスと呼ばれていたことで、そのまま自分の名前と認識した。頭のケガはどうやら物を盗もうとして失敗し、頭を思い切り殴られ、瀕死の状態だったらしい。


 なんとか、命を取り止めたが、前世の記憶も戻っためか頭が混乱し、思えばその頃もずっと頭痛に悩まされていた。ヴァンジャンスは、物乞いで日々を過ごし、その空腹感からの絶望感が復讐心に代わり、前世と同じように世界を呪った。


 それから8年近く経ち、身体が大きくなったヴァンジャンスは物乞いや盗みから、成り行きで盗賊となっていた。生きる為には無実の人も殺したこともあった。それは、ヴァンジャンスが入っていた盗賊団が、たまたま移動の途中で見つけた、ある山の奥にある小さな村を襲った時だった。


 ヴァンジャは前世の平和な世界での記憶から、命のやり取りは好きではなかったが、生きるためにはやむ得ないと言う気持ちはあった。村のどこを見ても老人しかいないこの村は10人程度の盗賊相手にも、なす術がなかった。相手が抵抗しない老人のためか、盗賊達もむやみに殺さないものの、食料や金目の物をほとんど奪っていっ出いた。


 ヴァンジャンスは虐げられる老人の様子を見ながらその行為に嫌悪感を抱きつつも、生きるために仕方ない、恨むなら俺と同じようにこの世界を恨めと思っていた。


 そんな中だった。一人の爺さんが、盗賊の頭領にむかい、笑いながら話しかけた。


「そんなに暴れんくてもいい……儂らはもう死ぬ寸前の老人達じゃ。食べ物も金品も必要はない。この集落は、口減らしに捨てられた老人達で作った場所じゃ。皆、いつ死んでも良いと思っておる。見たところ、お前達はまだ若い、罪を犯さなくても、話し合えば、それなりの物をやれる。」


 ヴァンジャンスはその言葉に違和感の原因に気付いた。その老人の言う通り、この村には粗末な建物と本当に老人しかいなかったのだ。そして、その様子から老人達が言っていることも嘘ではないと感じた。


 盗賊の頭領とその周りは、その言葉に耳を貸さず、無理矢理奪えるだけ奪って去っていったが、ヴァンジャンスだけは何故かその村に残ってしまった。そこの村人達も奪われたことに絶望する様子もなく、笑いながら、また木の実やうさぎなどを集め、何事もなかったように暮らし始めた。そして、なんとなくヴァンジャンスもその村で暮らし始めてしまったのだった。


 老人達は、口では「いつ死んでもいい」と、言っているが、生きることへの絶望はしていなかった。生きる知恵を持ち、生きることを楽しんでいた。そして、まだ若かったヴァンジャンスは盗賊の一味だったにも関わらず、老人達は、儂らの孫と言ってヴァンジャンスをなによりも可愛がった。


 その経験は前世から今まで味わったことのない感覚だった。今まで、生きることに絶望し、世界に八つ当たりし、恨んでいたヴァンジャンスにとって、老人達との質素で豊かではないはずの暮らしが、何よりも豊かに幸福に思えた。ヴァンジャンスは、老人達に聞かれ、今までの人生や、前世のことも話したが老人達は頷くばかりだった。そして、


「そうか、そうか」


 と言って、抱きしめてくれた。同情されるのかとも思っていたが、何故かそれだけの言葉と行動にヴァンジャンスは、ひどく安心し、涙が勝手に流れていた。そしてその時、気付いたのだった。生きる希望もなく、自分も、周りからも、存在自体を否定され続けていたヴァンジャンスにとって、何よりも欲しかったものは、自身を認め、受け止めてくれる存在だったのだと。


 同情や惰性とは違う、ただそこにいる、ヴァンジャンスという存在を、ただ認めて欲しかったのだと。それからのヴァンジャンスは、その老人達と、貧しかったが今までにないほどの幸せな日々を過ごせていた。


 そんな生活が5年近く続いた時、ヴァンジャンスの心から復讐や恨み、絶望という気持ちはほとんど無くなっていた。でも、それと同時に30人もいた老人達も、皆ほとんど寿命を迎え、残り僅かとなっていた。


 ヴァンジャンスは残った老人達から半ば追い出されるように、街に行けと言われた。残りの老人も死期が近いと感じていたのだろう。これからの人生を楽しめと言われたが、ヴァンジャンスにとっては、ここでの生活は今までの人生の中で最高だった。


 だが、老人の最後の願いと希望により、渋々ながら村に出ることにした。何をするでもなく、とりあえず老人に言われた通り、天職を聞きに行った。天職は《マシンエンジニア》だった。同時にユニークスキル《マテリアライズ魔法》も持っていることを知った。


 天職は久しぶりの聞いた前世の言葉だった。それは前世での自分の職業。神官も混乱していたが、ヴァンジャンスは逆に安心していた。とりあえず、老人達の聞いた話を頼りにトキオ文明国に行きつき、天職を活かせる場所を探した。魔法も道中試しながら行ったが、前世の記憶も重なりヴァンジャンスには使いやすい魔法だった。


 それからいつのまにかSSランクの冒険者になり、ヒイロに出会った。そんな昔のことを思い出していたら、また頭痛がしてきた。そして、言葉も聞こえた。


「……思い出せ……復讐を……」


 ヴァンジャンスの中で忘れていた気持ちが少しずつ溢れてきていた。老人達との記憶で書き換えられていた気持ちが……。そこから激しい頭痛とともにヴァンジャンスの記憶と意識は途切れたのだった……。

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