六大魔王、最後の戦い
その様子を見ていたヒイロは安堵する。仲間を無傷に拘束するのは難しい。それもシルフレベルの相手は、場合によっては二人がかりでも難しいのだ。だが、相手の支配スキルではどうやら100%の実力は出せないようだった。そこをイスカリオテがうまくやってくれたようだった。
ロイとエングの方は、魔王ルキフゲロフォカレによって、闇の空間に2人を引き込まれ、どうなっているかわからない状態だった。目の前に魔王サタナキアがいる限り、助けに行くことが難しく、ヒイロは信じるしかなかった。
「ロイ、エングさん……死なないでくれよ……」
ヒイロはようやく覚悟を決め、目の前の魔王サタナキアに集中する。またサタナキアもその様子を待っていたかのように話し出す。
「ヒイロと言ったな。すまぬが場所を移させてもらう。ここでは思い切り戦うには少々狭い……。」
「別にいいが、おかげ様で外も魔物でいっぱいだが?」
「ハッハッハ、そうみたいだな。だが心配するな、今から行くのはこの魔王城の地下だ。他の部屋より広くて相当頑丈だからな。」
サタナキアの後をついて行くと、奥に小部屋があり、その真ん中に魔法陣があった。その上に乗ると一瞬で、地下らしき、違う小部屋へと転移していた。それから長い通路を歩き、かなり広い空間へとたどり着いた。その途中、魔王サタナキアは敵であるはずのヒイロに対し、平然と背中を向けていた。ヒイロは思うところもあり、サタナキアに思っていたことを伝える。
「……お前といい、魔王ネビロスと言い、あまり魔王らしくないな。」
「そうか……まぁお互い、魔王という存在になってからは同時期に復活したことはないが……こうなる前はよくグラシャラボラス、アモン、ネビロスと俺は、彼の方に憧れてよく後を追い、よく修行しあった仲だからな……。消滅する前もわざわざネビロスは、俺のところに来て、別れの言葉じゃなく強いヤツがいるぞと、お前のことを教えてったぐらいだしな。ハッハッハッ」
その笑う姿を見て、やはりヒイロはどうしても悪魔や魔王が、ただ倒すべきだけの魔物とは思えなかった。確かに悪魔……いや、悪魔族は人族の魂を糧とする存在と言われている。2人は目的の場所につく。
「なぁお前自体は死んだら魔神に吸収されることについてどう思ってるんだ?」
「ん……なんだ?早く戦わないのか?まぁいい、最後かも知れんしな……それには特に興味はない。ついでに言うと俺は……いやさっき言った他のヤツらもだろうが、人の魂自体もあまり興味はない。それで強くなるならまだしも……特別うまいとも感じないしな。腹を満たすならその辺の魂がある存在ならでもいい。」
「なんだと!?なら、俺たちは戦わなくていいはずだ!それなら魔神だって誕生しなくて済む。もしかしたら《最後の神判》さえも起こらないかもしれないんだ!」
「だから……そんなことには興味がないと言ってるだろう。俺はただ、強い奴と死ぬまで戦えればそれでいい。ただ魔神と言われた存在が何者なのかは少々気になるがな。」
「そ、そんな……。なぁ戦うだけならいくらでも俺が付き合うから!」
「俺は命をかけた戦いをしたいんだ。お前は勇者よりも強いんだろう?俺はいつも勇者に最後はわざとやられていた。何故だかわかるか?自分よりも強い存在がいない世界など興味はないからだ。死ねば、いずれまた復活し、次の勇者と戦える。そうすればもっと強い勇者と戦えると。」
「倒すしかないのか……?」
「あぁ、どっちみち強者がいない世界など興味はない。お前を倒したら、勇者や他の者、それでダメだった死ぬのみだ。」
「今度は魔神に吸収され、2度と復活出来ないかもしれないんだぞ!」
「強い奴と戦えないなら今後復活しても同じことだ。さぁそろそろ覚悟を決めろ。でないと、お前の仲間同士も自滅するぞ。俺の支配は100%の実力は出せないが俺がいる限り、永遠に戦い続けるぞ」
「くっ……わかった……残念だよ、サタナキア。神獣召喚 《神獣アスラ》力を貸してくれ……《神獣合体》」
(ヒイロよ、今のお前なら我アスラの奥義 《神の息吹》を常に使い続けることができるだろう……」
「ありがとうアスラさん……サタナキア……最初から全力で行ってやる。後悔するなよ……奥義 《神の息吹》」
ヒイロは、右手に《神具・ダグザの棍棒》そして、身体にはアスラが具現化した《女神の羽衣》を羽織り、ヒイロの周りの空気が歪むほどの闘気を放つ。
「面白い、面白いぞ、ヒイロ!!今までに感じたことものないほどのプレッシャーだ。我が愛刀 《天喰い》も唸っているぞ!」
ヒイロはサタナキアが動き始める前に全力で動き、追い抜きざまに棍棒を振るう。今までの魔王ならこの一撃で、倒せなくとも確実に吹き飛ばし、致命傷を与えただろう。だが、サタナキアは笑いながら、平然と剣で受け止める。
「いいぞ!いいぞヒイロ!これが俺が求めていた戦い、命のやり取りだ!今度はお前が受け止めてみろ!」
今度はサタナキアが猛スピードで上からヒイロに斬りかかる。ヒイロは反応し棍棒で受け止めるが、その威力は凄まじく、ヒイロの両足にまで衝撃がひびき、地面が割れる。
「よく受け止めた!さすがだ!!さらに行くぞ!ヒイロ!」
サタナキアはさらに剣でヒイロに斬りかかる。ヒイロは全ての剣撃を受け止め、かわすがその剣のスピードに周りが暴風のように砂塵が舞う。ヒイロはサタナキアの剣撃の合間を見て、渾身の一撃を放つ。その攻撃がサタナキアの腹部に直撃するが、血を吐きながらもなおも攻撃を仕掛けるサタナキア。今までの魔王やその配下なら即死だったろう。
「き、効いてないのか?」
「いや、凄まじいダメージだ。だが俺はダメージを受ければ受けるほどヒートアップするぞ!さぁまだまだこれからだ!《黒闘気》」
サタナキアの全身が黒い闘気に包まれ、スピードがさらに上がり、あらゆる角度から斬りかかる。ヒイロは受け続けるもスピードだけでなく、威力も上がり、だんだんと受け止められなくなり、防いでいた棍棒が弾かれる。その瞬間、ヒイロの横腹にサタナキアの剣先が近づく。直撃する瞬間、更にヒイロは自身のギアをさらに上げ、身体をくねらせ一回転し、ギリギリで避ける。そしてそのまま、ガラ空きとなったサタナキアの背中を強打する。
「ガハァッ……まだまだぁ!!」
サタナキアは地面に叩きつけられるも、すぐに反転し、ヒイロに斬りかかる。だが、ヒイロはその攻撃すらも油断なく受け止める。
「そろそろ気付いているだろ!お前じゃ俺に勝てない……。諦めるんだ!」
「バカな!これほど楽しいことはないぞ!?全力を出しても、なお届かない相手ほど素晴らしいことはないだろう!さぁヒイロよ、俺の限界を超えた力を受け止めてくれ!《死々気楼》」
さらにサタナキアのパワーとスピードが格段に跳ね上がる。だが、よく見るとサタナキア自身が少しずつ消滅し始めている。かなりの間、激しい攻防を繰り広げていたが、ヒイロはそのことに気付きてからは守りに徹し、黙って全ての攻撃を受け切る。
「どうしたヒイロよ!お前の全力を見せてくれ!」
身体のいたるところが消滅しながらも攻撃をやめないサタナキアを見て、ヒイロも覚悟を決める。
「馬鹿野郎が……《神の息吹》」
ヒイロが奥義を重ね掛けする。神獣合体だから出来る無謀な技だが、その分反動も大きい。動けるのも1分もないだろう。ヒイロが重ね掛けをした瞬間、ヒイロのスピードも力も激増する。サタナキアの剣撃を受け止めるのではなく弾き、粉砕する。そして、そのまま上からサタナキアに強烈な一撃を加える。
「グハッハァ……。」
サタナキアは床に大きくめり込み血を吐く。致命傷だったのか、それ以上は動こうとせず、徐々に消えていく。ヒイロは奥義の重ね掛けを解き、反動で身体を軋ませながらもサタナキアに近づき、話しかける。
「なぁサタナキア。負けるとわかってて、何故続けたんだ?」
ヒイロの問いにサタナキアはどうにか仰向けになり、笑いながら答える。
「当たり前だろう……。こんなに楽しいことはない……。それに他の奴らは知らんが、俺はもう復活することには飽きた……。お前ら人族は負の心を溜めすぎる。お前らの負の心が溜まるたびに復活し、そして消滅する我らのことも考えろ……。俺もネビロスも、この繰り返しに飽きたのだ……。」
「そうか……。ある意味、今までお前らが発散してくれていたから、この世界は保たれていたのかもしれないな……。」
いや、そうだろうとヒイロは確信する。人族同士、さらに亜人種も多くいるこの世界で、今まで、戦争がなかったことが、前世の記憶があるヒイロにとっては不思議で仕方なかったのだ。そして、そのヒイロの思いを感じたのか、サタナキアは続ける。
「魔神などどうでもいいが、我々が魔王なら魔神は彼の方だろう……お前なら彼の方を倒せるかもな……そして……もしまた復活できたなら、もう一度戦え……ヒイロ……。」
「あぁ、俺が生きている間ならいくらでも付き合ってやるよ。」
最後にして、六大魔王最強の魔王サタナキアはこうして、消えていった。そして、サタナキアに支配されていたシルフも解放され、全ての魔王が消滅した。
「!?ヒイロさんが倒したのか……。」
イスカリオテは、支配から解放されて倒れたシルフを抱き抱え、ロイ達と合流する。魔王城の外では、魔王配下を倒した、エメルやヴァンジャンスも魔物討伐に参加していたため、スタンピードのほとんどが倒されていた。
「ヒイロが最後の魔王を倒したのか……。っつう!」
魔王が全て消滅した直後、ヴァンジャンスの頭に痛みが走る。ヴァンジャンスは魔王配下と戦った時のダメージだと思い込んだが、その時すでに魔神誕生の前兆が起きていたのだ。
ヒイロ達は全員が集合すると残りの魔物を討伐した。誰もが全ての魔王を倒したことに安堵していたが、同時にこれで魔神が誕生するということに不安もまた、よぎるのだった。
「最後の魔王をヒイロが倒し、これで全ての魔王を倒すことが出来た……。世界の代表達に代わり俺が礼をいう、ありがとう。ただこれからすぐかはわからんが魔神が誕生するかもしれん……。だが、今だけはゆっくりと休んでくれ。本当にありがとう。」
ライスの言葉に誰も何も言わなかった。皆、魔神の誕生が頭にあったからだ。本当に魔王を倒して良かったのか……。魔神誕生と《最後の神判》は何なのか……。誰も答えを出せずにいた。だが、こうして確かに六大魔王との長く厳しい戦いは終わったのだった。




