夢への路と現実と
「王様のせいではありません。当たり前のことなのです。誰もがそうなる可能性があり、それぞれの運命でもあるのです。もちろん、国に勤め殉死してしまった兵士や冒険者の家族にはそれなりの補償もしております。ですが、それ以外の事故や親の罪などで生活できなくなってしまった者達は致し方ないのです。そのなってしまった者の命の宿命なのですから!」
ギルドマスターであるナットもその言葉に頷く。ヒイロも同様に頷きながら、言葉を重ねる。
「はい……特にイバール国においては、国王様の賢政のおかげで、他国に比べ孤児は少ないと感じています。ただそれでも、孤児はいます。親の罪故になる子どもも、事故や病気、又は魔物によって親を失った子どもも。仕方ないのかもしれません……その子どもの宿命と言われればそうなのかもしれません……ですが……やはり……子どもに罪は無いのです。……傲慢かとは思いますが、私にとって、罪人の子どもも、貧しい家庭の子どもも、貴族や王族の子も……この国の王子であっても……私にとって、全ての子どもが平等で……皆、最低限の暮らしと幸せを感じ、将来に夢を持って欲しいという願いがあるのです。」
ヒイロの言葉に大臣が顔を真っ赤にし、ナットも焦り、止めようとする。
「ヒイロ!」
「……よい、ナット。ヒイロ、続けてくれ」
ヒイロは王様の顔を見て頷き、さらに言葉を続ける。
「この世界では、どの種族も国も、3歳未満の子どもが一番死亡率が高いです。死ななくても運良く孤児、又は奴隷となることも……また親にとっても当たり前かもしれませんが、その時期の育児が家庭において、一番の負担でもあるため、貧しさから諦める家庭もあるのです……それを補うための乳児院が必要なのです。」
「乳児院の必要性は認める……が、この国で奴隷は認めておらぬ……」
王様は大臣を見る。大臣は顔を下に向ける。
「はい、ですが……この国はもちろん、ほとんどの国で奴隷は認めていないものの、裏の部分では奴隷と言われてもおかしくない子ども達が、確かに存在しているのです。」
王様は、うつむいたままの大臣からナットの方を見る。ナットは、王の目を見て黙って頷く。冒険者ギルドの方でも把握をしていたが、どうすることも出来なかったのだ。里親ならばしつけ、大商人や貴族なら、死ぬだけの孤児を雇用あるいは養ってやっているとも言えるからだ。たとえ解放させても、それからをギルドが全て責任を持って養うことも出来ない。
「……わかった。その件については国の方でも、追々調べて、出来るだけの対処をしよう」
「ありがとうございます……。次に保育施設なるものは、それ以上の3歳から6歳前後までの施設となります。基本的にその年齢の子どもを、日中預かり、遊びを主体とした基本的な身の回りの自立を目指します。これは、孤児院の子どもも、親がいる子どもも両方利用できます。目的の一つは、先ほど述べたこと、そしてもう一つは、この時期が1番色んな感覚を吸収し、これからの人生形成の中で土台となる年齢です。そのためにマリアモンテ教育やシュタイ教育、または自分が興味を持つ、職業訓練などを大人の支援のもと学び経験することをさせてあげたいのです。」
「家庭にある子どもも、それは必要なのか?」
「確かに良い家庭良い環境なら、別に必要はありません。ただそれをすることで、まず親は集中して仕事を行うことが出来、国の生産性が上がります。特に農業や片親、両親2人が忙しい家庭等では尚更です。今の世界では15歳までは、家にいる子どもが多いため、貴族など裕福な家庭の子どもは良い教育を受けられますが、その他は良くて親の手伝い、ほとんどの家庭は放任か無理矢理、幼い頃から働かせられるかなのです。そうなると余計に15歳での《神の祝福》による天職によって、人生が左右されてしまうのです。」
「親の生産性が上がるのは国の国力につながるから納得するが、《神の祝福》は仕方ないのでのはないか?」
「そんなことはないのです。自分の望む天職になれば良いですが、そうでない場合は、生きていくのに辛いことが多くなってしまいます。特に冒険者向きの天職になってしまったのに、争い事が苦手な者は、絶望をしてしまうでしょう。」
「……う、うむ。確かにのう……」
「ですが、幼い頃から自分のなりたい物を見つけそのための練習や努力をしてきた者は、天職で自分のなりたいものになれる可能性がずっと高くなるのです。」
「ま、まことか?」
先ほどまでうつむいていた大臣も何か感じたのかし言葉をあげる。
「た、確かに。国王様、よく考えてみると商人の子どもは商人。職人の子どもは職人になる傾向がありました。ただ……一般的には、それは血筋によるものかと判断されておりました。」
「違うのです。天職は、その人間に向いている職業を示してくれるもの。なので、逆に言えば、自分でなりたい職に向いている力を、幼い頃から身につければ、自然にそちらの天職になれるのです。現に、孤児院から巣立った子どもの何人かは15歳になるまでに自分のなりたい職に向けて努力したことで、その天職になった者もおります。」
「な、なるほど……。」
「そうすれば貧富や環境の差に左右されず、子ども達は自分のなりたい天職につける確率がずっと高くなるのです。」
「そうなれば、より生産性が高まり、また道を間違えず、野盗や犯罪を犯す人間も少なくなると言うことだな!」
「その通りです、国王様!」
「素晴らしい!!」
「……そして、最後は障害をもった子どものための施設です。」
「障害を持った子どもとは……事故や病気で、腕や足をなくしたり動けなくなってしまった者のことか?」
「それだけはありません。生まれつき、身体が病弱な者、知能が低い者、目や耳など、身体の機能が欠けている者なども含みます。」
「忌子と称される……者達だな。」
「……はい。その者達のほとんどは例外なく辛く悲しい……短い人生を送ります。」
「……そうだな」
大臣も理解した上で、王様の為なのか、言葉を漏らす
「……生き延びたとしても、一人で生きることも生産性さえも……ありません……。運良く15歳まで生きたとしても天職を授からないと報告を受けています……」
その場にいる誰もが暗い顔をする。それこそ、その子の宿命とも言えるものだからだ。
「……でも、それは絶対に間違いなのです……確かに将来大人になれても一人で生きることは難しい子も……国の発展において……生産性と言えるものが難しい子もいます……ただ……そのように生まれてしまった事に罪は絶対にありません……どのような生まれだったとしても……誰しもが幸せに生きる権利があるはずなのです……ましてや生産性などとは別の問題なはずなのです……」
「確かに……幸せは、誰しも必要なものだ。」
「私はその者達も幸せに生きられる世界を作りたいのです。援助してあげる者が小さなことでもいい、簡単なことでもいい、その者が出来ること、やりがいとなる物、喜び幸せを感じられる事を一緒に見つけて、共感できる施設を作ってあげたいのです。それに生産性というものも……きっと……形や物だけではないはずですから……天職ですら……本来はいらないのです……誰しもやりたいことをする。それで本人が満足出来るなら天職でなくても人は生きていけるのです。」
「……わかった。お主の考えが全て理解したかは難しいが、その気持ちは痛いほどよくわかった。」
「……ありがとうございます。ご支援のほうをいただけますでしょうか?」
「うむ、私が責任を持ってこのイバール国の議会へ通そう。また各国にもこの思想を伝え、お主に協力をするように働きかけようではないか。」
「ありがとうございます!」
「……なに、お主は正しいことを言っておるのじゃ。世界が見て見ぬふりをして、このシャングリラという世界の良い面だけしか見てこなかった我々に気付かせ、問題提起をしてくれた。」
「確かにこの世界は争いも少なく、シャングリラと言う名前の通り幸せな世界だと感じております。」
「そうじゃな……魔王や悪魔の復活の原因は我々にあるとも聞いた。そう思うとやはり、皆がみな、そう幸せに感じているわけではないのじゃ。お主の通り、貧富の差、環境や生まれの差、病気、怪我、出せば出すほど出てくる。」
「はい。だから……出来ることから少しずつして行わなければならないのかもしれません。そうすることで世界はもっと良い方向に向かってくれると信じたいのです。」
「その通りじゃ。ヒイロよ、また何かあれば、知恵を貸してくれ。共に皆が幸せな世界を目指して行こうぞ。」
「ありがとうございます。」
こうしてヒイロはイバール国国王との謁見を終了した。ヒイロの目指す夢、世界にまた一歩進んだのである。そして少しして、不思議なことにその思想に一番共感を示してくれたのは、トキオ文明国であった。




