魔王の復活
ロイが《森の家》と交流するようになり、数ヶ月が経っていた。その数ヶ月の間は、嵐の前の静けさのように、魔王や魔王配下と思われるの動きは、ギルドには報告されておらず、ヒイロは妊婦となったミーナと穏やかに過ごしていた。何かあるとすれば、この期間を使って時々ヒイロは、世界各国のギルド本部へと向かい、転移魔法の目標地を増やしていた。
そしてロイはと言うと、すっかりアルト達と気が合い、ほとんど毎日のように、こっちにきては修行を一緒に行ったり、合宿と称してアルト達と狩りやクエストを楽しそうにこなしていた。
アルト達も全員が18歳以上の年齢になり、パーティー 《森の家》もいつのまにかCランクとなっていた。実力的には元々才能があり、さらにヒイロによってAランクの魔物。討伐させられるなど、しごかれていたため、その実力は冒険者パーティーのAランク以上となっていた。
ヒイロも時々、ロイやアルト達にクエストや修行に誘われていたが、妊娠しているミーナのお腹もかなり大きくなり、もうすぐ臨月を迎える時期にきていたため、ヒイロは出来るだけミーナを気遣い、その誘いも断り、ヒイロ自身もクエストなどの冒険者活動を控えていた。
そんな時だったミトのギルド本部からの急報が、ヒイロとロイに届いた。内容は、ニイガル国で魔王が復活したとのことだった。そして恐れていた魔物のスタンピードを起こり、ニイガル国の街一つが、すでに飲み込まれてしまったとのことで、勇者ロイ及び、SSランク冒険者《神降ろし》のヒイロは、ニイガル国に至急向かわれたし、と書いてあった。
ミーナのためにここ数ヶ月は冒険者活動を休んでいたが、流石に魔王が復活したとなればヒイロは行かないわけにはいかなかった。
「ミーナ、少しの間一人で頑張れるか?」
「心配症ねぇ、大丈夫よ。その間、実家でゆっくりしているわ。ヒイロは私たちよりも世界のために頑張ってね。そして生まれてくる赤ちゃんの為にも、無事にちゃんと帰ってくださいね。」
「あぁ!それこそ任せろ!魔王がなんだろうがすぐに倒して元気に戻ってくるさ!」
「……無理しないでね。」
「わかってる!」
ロイとヒイロは、すぐに転移魔法でミトの冒険者本部にいき、ギルドマスターのナットから報告書をもらい、そのままニイガル国へと向かった。前に一度、転移魔法が使えるようにと、首都サードにある、ニイガル国のギルド冒険者にも行ったことがあったため、ロイを連れて転移魔法でニイガル国の首都サードへとすぐに移動する。
ニイガル国の首都サードのギルド本部に着くと、サードのギルドマスター、ライスとSSランク冒険者 《天下無双》のエングと《ゴーレムマスター》のエメルが待っていた。
「さすがヒイロ、早いわね。久しぶり。」
「あぁエメルさんか、お久しぶりです。この前は、ドラゴンの装備の件でありがとうございました。一度だけ、こっちまで来たことがあって、そのおかげで転移魔法ですぐに来ることが出来ました。」
ヒイロはエメルと話しながら、隣の獣人の男性に自然と目を向ける。
「あぁ、そういえば初めてだったわね。こっちが私達SSランクのリーダー的存在、《天下無双》のエングよ。」
「初めまして、銀狼族の獣人でエングだ。よろしく。」
「初めまして、勇者のロイです。」
「ヒイロです。よろしく。」
自己紹介が終わるとギルドマスターのライスが口を開く。
「そして俺がサードのギルドマスター、ライスだ。とりあえず、今回はこの5人が討伐体のメインだ。」
「他のSSランクの冒険者はどうしたのですか?」
「本当は出来れば《天空の魔女》と《雷帝》にも来てほしかったんだけど、実はついさっき、トキオ文明国の方でも何かあやしい動きがあったみたいで2人はそのままそっちへと向かって貰ってるわ。」
「そうですか。それでこっちの詳細は?」
「今回、ニイガル国の東の海の方から《魔王サルガタナス》そして配下のゾレイ、ファライーと名乗る悪魔が現れ、大量の魔物と一緒にニイガル国東の街、ユーザが飲みこまれた。」
「スタンピードの規模は?」
「およそ1000を超える魔物だそうよ。」
「今回は、A、Bランクの冒険者パーティー20組と合同で行う。その20組と俺、そしてエメルはスタンピードをどうにかして止めるから、魔王とその配下をエングとヒイロ、そしてロイの3人にお願いしたい。」
「3人でですか……かなり厳しい状況ですね。これ以上、助っ人は呼べないのですか?」
「これでもギリギリだったんだ。Sランクは他に魔王やスタンピードが発生した時の足止めとなってもらうように、各地に配置されているし、ニイガル国自身が元々、冒険者が中心の国で、国の騎士団のような物は最低限しか持っていないんだ。それに数合わせでCランク冒険者以下を合わせると、かえって足手纏いにもなってしまい、被害が大きくなり危険過ぎる。」
「仕方ないな。となると、我々はそれぞれ一対一で魔王やその配下と戦うことになるが、お主は大丈夫そうか?」
「俺は大丈夫ですが……もし魔王や魔王配下と1対1で戦うとなったら、ロイにはまだ厳しいかもしれません。……それでライスさんに提案なんですが、それなりの実力がある冒険者パーティーを一組知っています。まだランク自体はCランクですが、実力はAランク以上の実力があるし、何よりロイとの連携が取れる。出来れば、そのパーティーにロイの支援を任せて貰えば」
「……そっか!!アルト達ですね!もうかなり連携も取れていますし、何よりあの4人はかなりの実力を持ってます!ぜひお願いします!」
「それは助かるが、Cランクなのだろう?本人達は大丈夫なのか?こっちは来てくれるのならありがたいが。」
「少し待っててください。すぐに連れてきます。」
数分後、案の定オオタルのギルドにいたアルト達が、ヒイロによって無理矢理さらわれ、ライス達のもとへと連れてこられた。急に連れてこられた他国のギルドで、さらに目の前には冒険者新聞などでしか見たことのないSSランク冒険者に混乱と言うよりも、恐怖を感じるアルト達4人であったが、ロイが優しくフォローしてくれ、なんとか落ち着きを取り戻す。
そして、ヒイロに代わってライスがアルト達に要件を話すと、またもやアルト達はパニックを起こす。
「マジで!?どういうこと?俺らCランクよ、それだったらスタンピードの方がまだマシじゃない?魔王の配下って、SSSランクの悪魔でしょ!?」
「出たよ……ヒイロ兄の無茶ぶり……あぁ今度こそ俺の人生もここで終わりか……」
「ヒイロ兄や世界の力にはなりたいけど……可愛いお嫁さんになる為には、と、とりあえず死なないようにしないと……」
「……私はロイと一緒なのは嬉しいけどさ……魔王って……SSSランクって……」
「大丈夫ですよ!皆さんとなら僕も心強いですし、それに何があっても皆さんは僕が命をかけて守ります!!」
その優しい言葉にアルトとエイスは泣いてロイに抱きつく。そしてドサクサに紛れてイルミもロイに抱きついていた。
「大丈夫!流石に今回は無理させちゃうから、俺がお前達を責任持って守るから安心しろな!それにお前らにはこの前、先払いでいい装備あげただろ!」
今度はヒイロが同じようにアルト達に言葉をかけるが、抱きついたのはウルルだけで、アルト達は「ヒイロ兄が巻き込んだ」と言わんばかりに睨みつけていた。だが、確かについ最近、ヒイロからAランクでも、持つことが出来ないドラゴンの素材と、エメルから紹介してもらった腕の良いドワーフ族の職人に作ってもらったドラゴン装備をそれぞれ一式もらっていたのだ。
結局、悲壮感漂うアルト達ではだったが、同じ年齢であり、親友にもなったロイが命を張って戦うのであれば、見捨てるわけにもいかず、アルト達も覚悟を決めるしかなかった。
「まっヒイロ兄がいるし、なんとかなるか。」
アルトの一言により、こうして魔王討伐のメンバーが決まった。その後、すぐに気持ちを切り替えたアルト達はエメルやエングにサインを貰いつつ、ヒイロとライスからかなりの金貨を貰い、そのまま装備の強化や、回復薬などを揃えにロイと街へと向かう。出発は翌日と決まり、ヒイロやエング、そしてエメルは、ライスと共に作戦を練り、それぞれ準備をして翌日の出発へと備えたのだった。




