勇者とドラゴン、と規格外
その後ヒイロ達は、ドラゴン族が住む大きな山脈の入り口へとたどり着く。その別名ドラゴン山脈とも言われる大きな山脈には数百を超える数のドラゴン族がいたが、どのドラゴンも暴れる様子はなく、落ち着いて過ごしているように感じられた。
ロイが近くにいた青龍種に話しかけると、そのブルードラゴンは、すぐに反応し、話を聞いてくれる。やはり知能に優れており、尚且つ長命のドラゴン族は、人族達が話す共通語も理解している様子だった。結局、4人は、そのブルードラゴンに案内される形で、山脈で一番高い山の頂上にいる、このイバール国に住むドラゴン族の長老、現在の龍王とされる黒龍種のカイザードラゴンと面会をさせてもらうこととなった。
その一際大きいブラックドラゴンは、龍王と呼ばれるに相応しい迫力と威厳があったが、荒々しさはなく、見るからに知性の高さが感じられた。
「人族の者よ、我に何か用か?」
龍王の問いにヒイロが答える。
「龍王様にお尋ねしたいことがあります。最近、ドラゴンが近隣の森や人族の集落で暴れている姿が確認されています。何か理由をご存知ありませんか?」
ヒイロは《モンスターボックス》から、先ほど気絶させたレッドドラゴンを出した。
「……申し訳ないのですが、ここへ来る途中にも1匹のドラゴンが自我を無くして暴れていたので、無理矢理ですが気絶させていただき、運ばせてもらいました。」
龍王は、気絶をしているレッドドラゴンを見て、少し悩むように話し出す。
「……すまなかった。確かに我らの同胞だ。我ら種族は、己の知識好奇心や強さ、縄張りなどの関心は強いものの、他種族だけでなく同胞への関心も薄い。若いドラゴンがある程度いなくなっても、皆、その者達が旅に出てのだろうとしか思うまい……すまんがもう少し……そのドラゴンを近くで見せてくれ。」
シルフが魔法を使い、気絶しているレッドドラゴンを自分と共に宙に浮かせ、龍王の近くまで寄る。そして、レッドドラゴンの瞼を開けて見せながら、暗く濁っている目を見せる。
「私はエルフ族の者です。ここを縄張りにしているドラゴン族ではないのですか、私が育った集落でも何度かドラゴン族と交流したことがあります。ただ……この若いドラゴンの目は、貴方様やほかのドラゴン族とは違い、目が全体的に暗く濁っており、何者かに操られているように感じます。」
「確かに……我も見たことがないような目をしておる。……だが、ドラゴン族を操れる者など……それこそ魔王かその配下しかおらぬが……」
「魔王……!?龍王様は、魔王と言う存在をご存知なのですか?では、この世界で《最後の神判》という言葉や魔神の存在は?」
「……魔神なら聞いたことがある。その昔、我ら……いや……現在、この世界に生きているほとんどの生物が生まれる前の世界で、この世界を創造した善神と、それに逆らった悪神と悪神に仕える3柱の魔神が戦い、悪神側が破れた。それから新たな世界……この世界が生まれたのだと……原初から代々続く龍王からの言い伝えがある。」
「そうですか……ありがとうございます。龍王様……いま、その魔神の配下と思われる六大魔王が復活しようとしているのです……。」
「……まことか!?……いや、なればこそ我が種族が、操られている可能性が高いか……。すまんが、我ら種族は戦いなら出来るが、調査や犯人探しなどが得意な種族ではない。我が持っている情報は全て渡すから、代わりに調査をしてくれぬか」
「わかりました。大丈夫ですよ、元からそのつもりでしたので!」
「すまない……それに、その操られていた若いレッドドラゴンの意識はもう戻りそうにない……そっちで処分してもらって構わぬ、まだ若いが、腐ってもドラゴン族、高値の素材となろう」
「……わかりました。調査はこちらでしますので、皆さんは、これからさらにお仲間が支配されぬように警戒をなさってください。」
「わかった。……それとお礼としてではないが……そこにいる貴様は勇者か?」
「は、はい!天職 《勇者》を授かりました。」
「昔、友になった勇者が死ぬ直前に、もし次に勇者出会う事があったら、これを渡してくれと頼まれていた物がある。それをお前にくれてやろう。」
「昔の勇者様が?ありがとうございます!」
龍王が少し目を閉じると、遠くから光り輝く剣が、ロイの前へと飛んできた。
「《デュランダル》という聖剣じゃ、ドラゴンの鱗でさえも簡単に切ることが出来る。これから魔王と戦うには必要だろう……持っていけ。」
ロイは、目の前に差し出された剣を手に持つ。
「《聖剣デュランダル》……すごい……初めて持ったのに、よく手に馴染む……龍王様ありがとうございます!」
聖剣も持ち主をロイと認めたようで、その輝きがより一層増す。ロイもまた、嬉しそうに時を忘れたかのように聖剣を眺めている。ヒイロは、その様子を微笑ましく見守りながら龍王にお礼を言う。
「……では、この付近を含め、原因の調査をしていきたいと思います。貴重な情報と聖剣をありがとうございました」
ヒイロが頭を下げると、他の3人も丁寧に頭を下げ、龍王に別れを告げる。こうしてヒイロ達は、ドラゴンの山脈を中心に調査を開始した。
途中何度か、自我をなくしたドラゴンが暴れていたが、元々知的に高いドラゴンが、種族スキル等使わず、その身体能力だけで暴れ回るだけだと、厄介ではあるが討伐難易度的にSランクの魔物より、多少強いぐらいでそれほど脅威ではなかった。
4人が調査を続けていると山脈の麓、龍王が住む山頂から遠く離れた山脈の外れに、グラシャラボラスのダンジョンと、似た雰囲気のダンジョンを見つける。
「見つけた……あれだ!あれで間違いない!」
「ヒイロさん、わかるのですか?」
「あぁ、実際に入って攻略したんだ。ただあの時よりも禍々しい気配が少し弱い気もする。」
「たしか情報では……そのダンジョンから魔物が現れ、魔物のスタンピードを作ろうとしていたのだな。」
「そうです。ネビロスという魔王の配下、グラシャラボラスと戦いました。その時のダンジョンは、もっと禍々しい雰囲気がありましたが、同じように自然じゃない作りもののような独特な気配がありました。」
「確かに……私が知る限りでは、初めて感じる気配だ。ではあのダンジョンに魔王……もしくはその配下がいるとみて間違いないか?」
「恐らく……きっと、あそこに自我を失ったドラゴンの元凶があると思います」
「わかった……では、一人が見張り兼連絡役で外に残り、3人でダンジョンの中に入ろう。」
「なら……ナットさんが残ってください。きっと敵も軽くSSランクは超えてくると思います。」
ヒイロは、普段からストレージボックスに入れている一人用のキャンプセットをナットに渡し、さらに少し離れたところに、昔《森の家》の周りに使っていた結界魔法の強化版を展開する。
「これである程度は、Sランクぐらいまでの魔獣の攻撃なら耐えられますし、隠蔽も施してあるので、かなりの知能がある魔獣でなければ気付きもしません」
「……あ、あぁ」
ヒイロが何気なく説明している姿に他の3人は、ただただ呆然としていた。ヒイロの規格外に今更気付いたロイは、シルフに一応確認する。
「……あのシルフさん、SSランクの皆さんて、みんなこんなレベルなんですか……?」
「……勘違いするなロイ……他の者たちは知らぬが、少なくとも私は先程からヒイロが使っている特殊な魔法はほとんど出来ん……いや、たぶんコイツがおかしい……」
「そうだぞ……俺はある程度他のSSランク冒険者を事も知っているが、誰もがそのずば抜けた戦闘能力が認められSSランクの称号を得ている……転移魔法に収納魔法、そして今の結界魔法……どれもがかなりのユニークレアスキルで、聞いたことがあっても実際に持っている者など見たことがない……それを1人で使ってるコイツが規格外でおかしい……」
「……ですよね……良かったです……」
何が良かったかは分からないが、ヒイロはその3人の反応に気付かず、せっせとキャンプを張っていく。
「……すまんなヒイロ……お前達も無理をするなよ。命の危険を感じたらすぐにでも戻ってこい。特にロイ、お前はまだ見習い勇者だ。無理はせず、2人の最高ランク冒険者の戦い方を学んでこい」
ナットのその言葉を飲み込むようにロイは真剣な眼差しで大きく頷く。
「わかりました。お二人の足は絶対に引っ張らないようにします。」
「よし、それじゃあ行きましょう。俺が先頭で、ロイが中、シルフさんが後ろを頼みます。」
「はい!」
「わかったわ。」




