世界会議と新しい命
グラシャラボラス討伐から一週間後、ナガーサ国首都タウンセンからもたらされた、魔王、魔神の復活、そして《最後の神判》の情報は、すぐにニイガル国、イバール国、トキオ王国など世界各国に流れ、世界中に激震が走る。
それも情報の出所がタウンセンのギルドマスターウォリーと、世界に数人しかいない、最高ランクのSSランク冒険者からの情報ということで信憑性も増し、各国は早急に交易国ナガーサにて世界会議を行うこととなった。
世界会議は、魔法を使ったモニターのような物での通信会議という形で行われた。ナガーサ国からはナガーサ国首相及びギルドマスターのウォリー、ニイガル国からは現獣王、トキオ文明国から国王、そしてイバール国国王等、各国の首脳陣が出席した。
まずは、情報をもたらした当人達であるタウンセンギルドマスターのウォリーから、改めて今回の一連の成り行きと、説明から会議は始まった。それから各国での、それに関連するような情報を共有整理して、今後の対応を話し合って行く。
かなりの時間をかけて話し合った結果、各国からの情報としては、今のところ他の国ではスタンピード及び魔王によるダンジョンの発生は確認されておらず、また魔神や魔王についても、ナガーサ国同様、伝説上の話や物語であり、正確な記録は残っていなかったのだ。さらにそれ以上に《最後の神判》と言われる言葉は、どの歴史上の文献や記録、御伽噺ですらどこにもなかった。
そのため、これからそのような情報はすべて各国共有として、常に情報交換をするよう確約された。またイバール国では成人として認められる18歳まで極秘扱いとなっていた《勇者》の存在が他国に明らかとなった。勇者は、まだ17歳で見習いだが、能力はやはり勇者ならではの能力とのこと。また同じく、トキオ文明国からは《賢者》の天職を授かった者がおり、同じく17歳の見習いであったが、勇者と同様に優れた能力を持っているとのことだった。
そして、最後に魔王出現やスタンピード発生などの有事の際には、各国共有の最高ランク冒険者、SSランクの派遣協力が決定された。ヒイロ達は、世界会議から帰ってきたウォリーから改めて各国の情報や、今後の対応を聞かされる。
今のところ、SSランク冒険者はヒイロ達以外にニイガル国の《天下無双》の二つ名を持つユニーク天職 《侍》の獣人族の男と、イバール国のユニーク属性 《重》を持つ、エルフ族の女魔法使いの計5人とされている。
また今後、冒険者同士の情報交換を、ウォリーからの要請で、転移魔法を持っているヒイロが任せられることとなった。そのため、残り2人のSSランクの冒険者や勇者、賢者とも交流を持つように言われ、また世界各国の首都は、転移魔法で行けるようにとのことだった。
とりあえず故郷でもあるイバール国にいるとされるエルフ族のSSランク冒険者と勇者は、すぐにでも接触できそうだが、ニイガル国やトキオ文明国は、まだ行ったことがなかったため、これから進めて行くしかなかった。ただヒイロにとっても、魔王とは関係なしに、世界各国に孤児院を作る目的があったため、遠からずニイガル国やトキオ文明国など世界各国を周ろうと決めていたため、好都合でもあった。
その後、ウォリー達と解散したヒイロは、ミーナに相談し、タウンセンの《海の家》が落ち着いて軌道に乗ってきたため、次の街に行こうと話しあった。《海の家》も最終目標の一つである海での漁も、地元の漁師の協力も得て、形になりつつあったのだ。
漁と言っても船ではなく、海岸からの投網や浅瀬の海藻や魚介類を採るなどして、干物などの加工物を市場で売るという形である。まだまだ量は少ないものの、漁師から指導や日々工夫しながら、順調に進められている。
もう少ししたら《森の家》同様、ヒイロの資金援助もほとんどなくても、自立出来る施設になるだろう。ヒイロは漁を頑張っている子ども達の姿を見ながら、先のことを考えていた。
ナガーサ国に来てはや2年、ヒイロは20歳になっていた。この2年でヒイロは、冒険者ランクが世界でも5人しかいない、SSランクになり個人の行動というよりは、ギルドや各国と協力しての調査や討伐クエストなどを請け負ってきた。
また故郷のイバール国と現在のナガーサ国では、13歳の時に一人で始めた孤児院が功績とともに認められて、2カ国で次々と同じような孤児院が建てられるようにもなったのだ。他にもヒイロが前世の記憶を元に作った教育、モンテマリア教育とシュタイ教育も徐々に広まり、孤児院以外でも取り入れられるようになり、この世界では今まで無かった子どもへの早期教育。子どもに対する平等かつ、自分がなりたい職業を目指せる技術が自由に学べるという概念が少しずつ広まり、整えられつつあった。
「この2年間は本当に色々あって、目まぐるしかったけど、おかげで昔からの夢が1つ叶った気がするよ。」
「そうね、とくにヒイロがSSランクの冒険者になってからの半年は、私も一生分働いた気がするわ。」
「ありがとう。ミーナのおかげで助かった。本当に一人じゃここまで来れなかったよ。ミーナと出会って、ミーナが俺について来てくれて、ミーナがいてくれたから俺は……」
「お礼を言いたいのは、私も一緒だよ。商人の家に生まれて、そのための教育から逃げようとしていた私が、ヒイロに出会って、こんなに広い世界を知れたのは、全部ヒイロのおかげ。私こそあの日、ヒイロと出会って、ヒイロの側にいれて良かった。」
「ミーナ、ありがとう。そして……これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします!」
ヒイロとミーナは、この日初めて、身体を重ねた。出会ってから約13年、初めての友達が、パートナーとなり、最愛の人となった。周りの家族やアルト達からしたら、「遅い!やっと結ばれたのか!」と言われるかも知れないが、2人はお互いを尊重し、大切に思っていたからこそ、遅くなってしまったのかも知れない。そして、初めて結ばれてから3ヵ月後、ミーナはヒイロとの子どもを身篭った。
ヒイロとミーナは、一度イバール国に戻り、ミーナは里帰り出産のため、実家で安静することした。ヒイロも拠点をイバール国に移し、大工の父に依頼をして、オオタルの街に新居を建て、イバール国から転移魔法を使い、それぞれの孤児院や魔王関連の仕事を行なっていった。
ヒイロは、その合間をぬって、ミーナに会うと前世でも子どもがいなかったため、生まれてくる前から溺愛し、すでに男女両方の名前も決めていた。さすがにその様子を見て、アルト達も呆れて笑っていたが、そろそろ自分達の幸せも大切にしてほしいと思っていたため、アルト達は喜んでいる2人の姿を優しく見守っていた。
そして、ヒイロ自身も孤児院の子ども達だけでなく、生まれてくる自分の子どものためにも、この世界を平和にし、《最後の神判》と言う日を乗り越えて行かなきゃいけないと改めて実感する。
何よりそう思えば思うほど、今まで感じることのなかったヒイロのユニーク天職 《保育士》の能力が、自分の中で強く感じられるようになっていった。
天職 《保育士》を今まであまり意識してこなかったが、最近、ひとつだけ天職の効果であろう能力に気付いた。それは自分の魔力を含めた身体能力の成長が、孤児院を新しく作ったりして、守らなきゃいけない子どもが増えれば増えるほど、能力が上限なく伸びて行くことがわかった。
この世界では、誰もが20歳までは身体能力が伸び、それ以降はほとんど成長は止まり、そのかわり経験値と共にスキルの熟練度が増して行くのが一般的だが、ヒイロの場合、20歳を過ぎてからも身体能力が、今なお成長し続けている。これは天職の影響だと、直感的に気付いた。
ただ他にも天職の特性はあるようで把握出来ていないが、世界や子ども達をこれからの脅威から守るためには、素直にありがたかった。




