黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です8
雨は夕方になるにつれ、どんどん強い降り方に変わっていく。
ランプで照らされた部屋は、ほんのり明るいけれど、暗くなっていく様子に、ちょっとドキドキしてしまう。
お風呂に入って、体はホカホカしてるけど。
「・・・明日は晴れますかね?」
「夜には止む」
「そんなことまでわかるんですか?」
「多少は」
「多少でわかるの、凄すぎですよ・・。あ、魔法とか?」
「魔力は持っているが、魔法は苦手だ」
「え、でも魔法が使えるんですね!どういうのを使うんですか?」
「・・・・生活には向いていない。大体吹き飛ばす魔法だ」
「・・・・・吹き飛ばす・・」
キラさんは、剣で狼を追い払っていたけど、かえってよかったかも・・・。魔法で吹き飛ばすのを見たら、相当ビビってたと思う。主に私が。
「そっかぁ・・でもちょっといいなぁ。魔法使えるの、憧れます」
ベッドにごろっと寝転がりつつ話す。
「憧れるものか・・・?」
「だって、私にはできないし・・、魔法って聞くとワクワクしません?」
「・・・・そうか」
あまりワクワクしないようだ。
衝立の向こうのキラさんの表情が、気持ち暗く影が差したように見える。
今日もきっと強行軍できたろうし、疲れたのかもな。
「キラさん、明日も早いですか?」
「ああ」
「明日も起こしてもらってもいいですか?」
「ああ」
「ああ、以外で返事してみて下さい」
「・・・・あ、う、・・ん?」
ぶっと思いっきり吹き出した。
「ちゃんと工夫しようとするし・・・」
気持ちよく笑ってしまった。つっかえながら返事するんだもん!
はー笑った、笑った・・。
キラさんを見ると、じっとこちらを見ているけど、ちょっとわかってきたぞ・・。
こっちを見ている目がちょっと優しい。
「キラさんは、面白いですし、優しいですね」
「そんな事をいうのは、ナルくらいだ」
「そうですかね〜・・、わかってる人はわかってそうだけど・・」
「・・・そうか」
キラさんの顔を見ると、さっきの暗い感じが消えている。よしよし、やっぱり笑うっていいよね。
「・・さて、そろそろ寝ますね。おやすみなさい」
布団をかけて、目を瞑ると
「・・・・おやすみ」
キラさんが、そっと挨拶を返してくれる。
なんだかそれだけですごく嬉しくなった。
翌朝も、日が昇る前に起こされる。
「うぅ・・・おはようございます・・・・」
うつ伏せからの、起き上がるスタイルの私。
朝、本当に苦手・・だ。
「・・・・・おはよう」
ポツリとキラさんが、挨拶してくれて、目がパチっと開く。
挨拶してくれたな・・・?
思わずヘラっと笑うと、キラさんはちょっと驚いたような顔をした。あ、無表情だけどね?
なんか・・段々と表情が読めるようになってきたぞ。
ちょっと面白くなってきた私は、さっさと起きて洗面所に向かう。
支度が整うと、昨日と同じように宿屋さんが用意してくれた朝食をリュックに入れて抱えると、馬を連れてやってきたキラさんが、ひょいっと私を馬に乗せる。よしよし、慣れてきたぞ・・。
「行くぞ」
そう言って、また次の町を目指して馬で駆けて行く。
昨日の朝と同じくらいのスピードだったので、ホッとした。これくらいなら、大分余裕が出てきたぞ・・。
そう思っていたのに・・・
林に入ると、キラさんが急にスピードを上げる。
「キラさん?!」
「魔物がついてきた。突破する。口を閉じろ」
魔物!?口を必死で閉じる。
後ろで何かが叫ぶ声が聞こえて、体が固まり、鞍を掴む手に力がこもる。と、前面に突然大きな口を開けたものが飛んできて、目を見開いた瞬間にキラさんの剣がそれを薙ぎ払う。
「目を閉じていろ」
静かに言われて、何かが聞こえたが私は必死に目を閉じた。
そうして、しばらく走って・・やがて静かになると、ようやくスピードが緩やかになって、やっと私は目を開けた。