愛すべき黙して語らない騎士。
お昼を食べ終え仕事をしていると、ラフさんが訓練場を見ながら私に話しかける。
「ナルさん、ウルキラと喧嘩でもしたか?」
「え?なんでわかったんですか?っていうか、私が一方的に怒ってるだけですけど・・」
「騎士たちが死にそうだ」
「えっ!!??」
「さっきから休憩なしで訓練してる」
団長さんが、ほらね・・と言わんばかりにこっちを見る。なんだそのドヤ顏。ちょっとむかつくのでやめて頂きたい。
「え〜・・、割とありません?」
「いや、今日はものすごい事になってるぞ」
一体、どんな訓練をしているのか・・窓の外を見てみると訓練場の騎士さん達は、ヨロヨロ歩いてる・・?走ってる・・・?そして、その前をキラさんが淡々と走っている。
「・・・あれ、一時間前からあれだぞ」
「一時間前!??」
思わずラフさんを振り返って聞く。だって、甲冑とか着てるけど・・あれ、重いよね?
「ウルク兄さん、最近お腹がたるんできたんで、ちょうどいいと思いますよ〜」
ライ君が爽やかに笑って答えつつ、ものすごい勢いで書類を整理している。もはや凄すぎて何も言えねぇ。
「と、ライ君は申しておりますが・・」
「ライ、大事にしていた本、最近ウルクに水をかけられてキレてるから・・」
団長さんが内情を暴露した。あ、そういう理由・・。
「夕方の鐘、一時間前に鳴らすから、ほかの部署に言っておいて〜」
ライ君が心なしか残念そうな顏をしつつ、早速言いに行った。行動が早い!
「ナルさんは、キラさんの気持ちを落ち着けてきてね〜」
「なんですか、その緩いお仕事」
「めちゃめちゃ大事だよ!!明日、騎士の足腰立たなくなったら、ナルさんのせいだからね!」
「大げさですよ〜〜」
思わず笑ったが、ラフさんは静かに首を振る・・あ、マジな感じなんですね。とりあえず返事をしておいた。そうか・・そんなに落ち込むものなのか・・?
仕事を一時間早く終え、帰り支度をして訓練場へ行くと、キラさんの後ろで騎士さん達が倒れている・・。あ、マジでやばい感じだったらしい。実はあと一時間あるって言ったら死にそうだ・・。
キラさんが、こちらへ走ってくる。
珍しい・・。いつも歩いてくるのに・・・。
「・・・・ナル」
「キラさん、ごめんね。なんか仕事前に怒っちゃって・・」
キラさんは、口がはくっと動いたかと思うと、水色の瞳をゆらゆらさせる。
「キラさん?」
「ナル」
「うん?」
「ナル・・・」
「うん?」
あ、これは・・結構ダメージが大きいのでは?
寂しくて、悲しくて、でもどうしたらいいかわからない・・そんな感じなのかも。
私にとってはただの喧嘩だけど・・、キラさんはこういうの、あんまりした事ないのかも?そう思ったら、名前を呼ぶしかできないキラさんの手にそっと触れる。
「・・つまらない事で怒っちゃって、驚きましたよね?ごめんなさい・・。もう怒ってないですし、一緒に帰りたいです」
キラさんが、ちょっと目を大きくして私をじっと見る。
嬉しそうに見る。
こういうやり取り、あんまりした事なかったもんね・・。
キラさんが私の手をそっと握ってくる。
「ナル」
「はい」
「一緒に・・帰りたい」
「はい、帰りましょう」
そうして、二人で一緒に帰ろうとすると、騎士さん達が号泣していた・・・。いや、なぜに?
ライ君は、そんな騎士さん達を呆れた目で見つつ、こっそり事情を話して、しっかり一時間分の仕事を割り振っていた。すごい。
私はというと、一時間早く終えたし・・
どこか散歩しつつ帰ろうとキラさんと話して、町をぶらぶら散歩する事にした。
坂の間から海が見えて、夕日がキラキラ輝いている。
「キラさん、見て見て〜〜綺麗!」
「・・・ナル」
「なんですか?」
まだ何か心配なのだろうか・・、寡黙な騎士ことキラさんに笑って聞くと、なんとも言えない顏でこちらを見てくる。私の額にキラさんの額がくっ付くので、ちょっと驚く。
「喧嘩は嫌だ」
「う、うん・・・」
「辛くて死にそうだった」
「え?!そんなに???」
「それくらい嫌だ」
「そっか・・・」
キラさんが珍しく自分の気持ちを喋ってる・・・。
これは本当に団長さんの言う通りなのかもしれない・・。責任・・・重大ではないか・・。
「じゃあ、今日は仲直りしましょう・・。い、家で・・?」
わ〜〜〜!!!わ〜〜〜〜〜!!!すごい事言ったぞ?!言っちゃったぞ??思わず下を向くと、キラさんの手が頬にかかる。見上げた瞬間、キラさんは、チュッと素早くキスをして、私を満面の笑みで見る。
水色の瞳はいつだって、雄弁だ。
「愛おしい」
「可愛い」
「大好き」
多分、もっとたくさんの感情を私に伝えてくる。その度に、私は胸が締め付けられるというのに・・。
「キラさんは、お喋りだと思います」
「そんな事言うのはナルくらいだぞ」
いつもの言葉でキラさんは私に答えるけど・・、多分みんな知ってると思うな。




