黙して語らない騎士、死にそう。
ナルが腹を立ててしまった。
何が理由かはわかっていない・・。
何かしらの手立てを考える事も出来ない・・。
「もういい!」
と、高めに結った髪が勢いよく振られて、執務室へ戻って行くのを呆然として止めることができなかった。
どうしたらいいんだろう・・・。思わず立ち尽くす。
仕事始めの鐘が鳴る音が聞こえて、仕事に取りかからねば・・と思って、振り返ると、後ろでいつの間にか整列していた騎士達が、緊張した顔をしていた。・・・?今日は珍しいな・・。
「演習をする、各自いつものから始めるように」
号令をかけると、一斉に走り出しいつもの風景になる。
・・・お昼の時にでも謝ろう・・理由がわかっていないのが痛手ではあるが、何も対策を取らないのは得策ではないし。
そう考えつつ、訓練を始める。
お昼の時間がこんなに待ち遠しいと思った事はなかった。
ちらっと訓練場の時計を見るが、時間がほとんど進んでいない。
おかしい、壊れてるんじゃないか?
走りこみが終わった騎士達が、打ち合いの練習を始める。
・・・たまには打ち合いに参加するか。
練習を一緒にしていれば、時間が過ぎていくだろう。そう思って、木刀を持って一人ずつ打ち合いをする!と宣言すると、全員真っ青になった。なぜだ。いつもやってるだろうに・・。
結局、全員打ち合いをして、時間が随分経ったかな?と、時計を見るが、大して進んでいない。おかしい。
ウルクが「ウルキラ副団長!き、休憩とかしませんか!?」と、震えながら言ってきた。そういえばしていない・・・?
「休憩しておけ」
そういうと、騎士達は心底安心していた。「・・・怖い」「もう無理」「俺まだ死にたくない」とか話しているが、何なのだ?
ちらっと時計を見ると、時間はやはり経っていない。お昼までまだ一時間もある。
あと一時間したら、訓練場の入り口からナルが来る。
・・早く来ないかな。
しかし、今は仕事だ。あと一時間どうするか・・、走り込みか・・、模擬試合でもするか。最近、祭りの準備でしっかり出来なかったものもあるし・・、全部詰め込んでおくか。
「よし、練習するぞ」
地獄の始まり・・のような顔をした騎士達がいたが、なんでそんな顔なんだ・・?
結局、なかなか進まない時計の針に焦れつつも、やっと昼の鐘が鳴ったので号令をかけて練習を終える。騎士達はなぜか一緒に訓練場の入り口を見ていた。そして、フランがこちらへ来るのを見て、膝から崩れ落ちていた。なぜだ。
フランが、こちらへ申し訳なさそうに籠を持ってきて
「今日は、ちょっと忙しくて来られないそうです」
と、言われて・・
ポッカリと心に穴が空いたようになる。
執務室へ行こうか・・、でも仕事を邪魔するのも悪い・・。
騎士達が、「ウルキラさん!!一緒に、一緒に食べさせて下さい!!!」「俺たちはわかってますから!!!」と涙ながらに昼食を食べようと誘うので一緒に食べた。珍しい。
昼食は味がしなかった。珍しい・・失敗したのか?
午後の練習では、まだ余力がありそうだったし、もう少し詰め込んでおくか・・、そう思って練習内容を言うと、皆、天を仰いでいた・・・。遠い目をナルもするが、そんな顔をしている奴もいた。
「・・・・生き残ろう・・」「生きて、この間仲良くなったあの子に会いに行く」「それ死亡フラグ!」とか呟いていたが、練習ごときで大げさだな・・。
夕方までの練習をこなせば、ナルに会える。
そう思うことにして、時計の針を気にしつつも仕事をした。
そういえば休憩を挟んだろうか・・、そう思った時、夕方の鐘が鳴った。
振り返ると、騎士達が倒れていた。そんなにきつい訓練だったろうか・・、いつも自分はこれくらいしてるのだが。
そう思っていると、訓練場の入り口からやってくる人が見えた。
「ナル・・」
ボソッと呟くと、後ろの騎士達が「もはや神々しい神」「今度像とか作ろうぜ」と言っていた。ナルはナルだと思うが。不思議な事を言うものだ。
「解散するぞ」
そう言うと歓喜に沸いた声が上がった。
・・・まだ余力がありそうだ・・、明日はもう少し打ち込みを増やすか・・、そんな事を考えながら俺はナルの元へ急いだ。




