黙して語らない騎士は奔走する。
ラフさんが王都にいるお兄さんにそれとなく進言してくれた事もあって、団長さんのお仕事は比較的楽になった。ハラショー!
しかし、事務仕事はなくなるわけではなくて・・、私は掃除係でなく事務員のようにお手伝いをするようになっている。
「・・・おかしい、契約違反では・・?」
「ごめん〜〜〜、ナルさんごめん〜〜〜」
「いや、まぁ、いいんですよ?お給料貰えるなら・・、ただ問題は・・」
チラッと訓練場を見る。
「キラさんですね」
「だよねーーーー!!!僕もわかってるーー」
執務室へ行くたびに、「団長・・」と呟くのだ。怖い。魔法の重ねがけもしなくてよろしい。腕が模様でいっぱいになる。
「ルーナさん、事務員にしません?団長権限で」
「やめて、そんな独裁政権いたしません」
「・・・私にはしてるじゃないですか」
「・・・そこはそれ、察して」
察するのは、キラさんの甘い空気だけで十分である。なぜに、団長さんの空気を察せねばならぬのだ。ラフさんが、事務員も要請を出してくれたらしいし・・、来るまで・・とキラさんにも話してあるけれど・・。いつまでもつか・・。試されるシーヤ騎士団の平和・・・!!!
と、ドアのノックの音が聞こえて、団長さんが返事をすると、ルーナさんが籠にオヤツを入れて持ってきてくれた。団長さん・・・顔、めっちゃキリっとした。早い。
「お疲れ様です。あの、今日もお忙しいでしょうし・・、良ければお茶菓子でも・・と思って・・」
はー!可憐!!癒し!!!
私はソファーから立って、籠を受け取りに行く。
「ありがとうございます!すっっごく嬉しいです。ね!!団長さん!!昨日のも「美味しい!」って言ってましたもんね」
「そうですか?嬉しいです」
あー、可愛い!団長さんのために甘さ控えめのお菓子を作ってくれたルーナさん・・。よしよし、二人をくっつけ作戦はなかなかいい感じである。決め手にかけるのと、デートを遂行させたいんだけど、団長さんは忙しいしなぁ・・。
再びノックの音が聞こえる。
今日は千客万来だな〜。中に入ってきたのはキラさんだった・・・・・・・・・ん?
「キラさん、後ろの少年は?」
赤毛の短いちょっと癖のある髪、そばかすの散った頬・・の、14歳くらいの少年がキラさんの後ろに立っていた。
「ウルクの弟のライだ。家が事務所をやっていて手伝ってたそうだ」
「ライです。兄がお世話になっています」
しっかりした声で挨拶する。
ウルク・・ウルク・・といえば、最近入ってきた新人騎士さんで「まじかっけえっすよ」と、言ってた人・・のような。確かあの人も赤毛だった・・。私がぼんやり思い出していると、団長さんはすぐに理解したらしい。
「そうか・・・、お母さんは元気か?」
「はい、おかげさまで・・。ただ仕事を俺もしないと・・。弟達もいるんで・・、だからこちらで働かせて欲しいんです」
ライ君・・は、団長さんをまっすぐ見つめる。
「ふむ・・・、では、まず試用期間を持たせてもらおうかな・・。その間に給与は払うし、その後の働きが良ければ正式に雇おう・・。どうだ?」
今度は団長さんがライ君を見つめる。
ちょっと緊張していたライ君は、その言葉を聞くと、パッと明るい顔になる。
「ぜひ!!よろしくお願いします!!」
大きくお辞儀して、目をキラキラさせてる。・・・・・・・・・・か、可愛い〜〜〜。私は、そっとキラさんに近寄って、
「キラさん、ライ君の話・・・よく知ってましたね」
「ウルクが推してきた。話を聞いたら、事務仕事ができそうだと思って・・。ナルも楽になるかな・・と」
「お、おう・・・」
事務仕事の理由に、私もいた・・。
「ナルを返して欲しいし」
「キラさん、理由が私すぎる」
ウルクさん家を助ける理由もあるんだろうけど、そこに占める私のパーセンテージが大きい気がする。いや、きっと大きい・・・。
ひとまずキラさんのおかげで、事務員を一人ゲットした!
そしてライ君、めちゃくちゃ仕事ができる!!優秀!!!
執務室一同は、歓喜した!!!
その事を家ですごく褒めたら、キラさんにぎゅうぎゅうに抱きしめられる刑に処された・・・。何故だ。




