黙して語らない騎士は出張です。2
食堂へお皿を片付けに行く際、しっかりルーナさんに声をかける。
「ルーナさん、こっちの世界にも慣れましたか?」
「そうですね・・、私の世界と似ている所もあるので・・・」
「へぇ〜、どんな所に住んでたんですか?」
「バシェです。海が綺麗な所で・・、ここも綺麗で嬉しいです」
「あ、わかります〜」
女子トークは話がつきそうになかったので、今度お茶をしましょう!と、約束を取り付けた。うん、普通にいい子だな〜。可愛いな〜。
お昼を取る間もない団長さんに、食堂からお昼を預かって持って行く。・・とはいえ、ラブに発展させるためには、激務である団長さんの仕事時間もどうにかしないとなぁ・・。そんな事を考えつつ、執務室への階段を上がっていく。
と、ドタドタと上から人が下りてくる。
「あ、ラフさん」
「お疲れさん、そっちはどうだ?」
「書類、終わらないんですけど〜〜〜。お願いですから、事務員派遣して下さいよ〜!!」
「ははっ、一応申請はしておいた」
「やった!ありがとうございます!」
私はラフさんを拝んでおいた。
面白そうに笑うと、そのまま下りて行った。
・・・元、王族とはいえ、よく働くよね・・。
ラフさんは、私達が結婚して一ヶ月頃に一度戻って、今度は異動してきたのだ。・・曰く、こっちのが楽だから・・だそうな。まぁ、そうだよね・・。色々言われる場所よりは、こっちのが穏やかだ。
国防の面で言えば、めちゃめちゃシビアな場所らしいが、団長さんがあんな感じだからだろうか・・。なんか常にのんびりしているような気がする。
・・・他の騎士団に行った事ないからわからないけど・・。
執務室に入って、お茶と一緒にお弁当を団長さんに渡すと、「わぁ・・・い、ウルキラ羨ましいだろ〜〜」とか言いつつ、萎びた人参みたいな顔で、もそもそと食べていた・・。哀れ。不憫。
やっぱ、少しでも生活に彩りあげたいかも・・。
団長さんを憐れみの目で見つめると、
「そんな・・・そんな目でこっちを見ないでぇええええ」
って、悲壮感を出していたので、よく見ておいた。
結婚後、私たちを冷やかしまくったの、まだ許してないからな。キラさんは、めっちゃ嬉しそうだったけど・・。
窓の外を見ると、さっきまでいい天気だったのに、また少し曇り空だ。傘・・あったよね。
ひとまず団長さんを放っておいて、仕事をする。
明日も雨が酷いようなら、買いだめしておいた方がいいかな・・。
キラさん元気かな・・。
はっ、なんか流れるようにキラさんを思い出してしまった・・。いかん、いかん、仕事しよ。私は、また書類を振り分け、団長さんに押っ付けておく算段をした。
雨足が強くなってきたので、団長さんが心配して早めに帰るように声をかけてくれた。・・・本当、そういうとこ、すっごくいい所なのになぁ〜。残念が上回るんだよね・・。
「じゃあ、すみませんが、今日は早めに戻らせて頂きます」
「は〜い、気をつけてね」
団長さんに見送られ、少し早い帰宅をする。
雨の中の町並みも、なかなか風情があっていい・・。
簡単に夜食べるものを買い物して、家に戻る。
誰もいない部屋は、シン・・としてて、薄暗かったので、ランプをつけて、荷物をいつもの場所に置く。
赤い金魚が、出迎えるようにヒラっと、ヒレを動かして泳ぐ。
「可愛い〜・・ただいま!」
金魚は、またクルッと向きを変えて泳ぐ。
いいな・・、生き物。やっぱりキラさんに、せめて金魚だけでも飼いたいって言おうかな・・。リルケさんにお世話の仕方を教えてもらえば、いいかも・・。
そんな事を考えていると、キラさんに会いたくなってしまう。
いつも側にいるから・・、いないと違和感あるんだよね。
「早く帰ってこ〜い・・・」
呟くと、赤い金魚はまた返事をするように、ヒラっと向きを変えた。




