黙して語らない騎士、父だもん。
そうして慌ただしい日々、終わらない書類!
団長さんへ「あと少し!」「これに判子を押せば今日中には終わります!」と、10日間それは頑張った。
横でライ君やセラ君が卵を交代で抱え、「早く生まれておいで〜」「うちの兄貴の子より先に生まれたらお兄ちゃんになれるぞ〜」と言ってたのはちょっと面白かった。そろそろ出産らしいけど、そっちも楽しみだなぁ。
キラさんは相当忙しいようだ。
ニルギさんがソマニへ報告がてらウルリカを連れて行くと、その瞬間だけ顔が緩んでいるらしい。手紙を一度書いて渡してもらうと、『早く会いたい。帰りたい』と、切実な返信にちょっと泣きそうだった‥。キラさん、頑張れ!
そんなこんなで私とウルリカも卵を愛でたり、仕事を頑張っていたけれど、
11日目にてウルリカ発熱である。
「あう‥‥」
「ウルリカ、熱いねぇ‥」
朝起きた時、いつもだったらニコニコ笑顔で私の方へずり這いするのに今日はぽやーっとしているなぁと思ったら、熱い。熱だ。紛れもなく熱だ。
「びょ、病院と、手帳の準備を‥」
「うぁあああああん!」
「あ、はい。抱っこですね、抱っこしますよ〜」
抱っこ紐の中にウルリカをスポッと入れると、少し安心したのか私の胸に頭をコテッと押し付けた。うう、辛そうだな。仕事、まだ結構あったけど大丈夫‥だと思いたい。申し訳ない気持ちをひとまず飲み込み、騎士団に連絡すれば団長さんがすぐに、
『熱だって?!ナルさん何も心配しなくていいから仕事しっかり休んで、ウルリカ君お大事にしてね!あ、騎士団の医師を迎えに行かせる?こっちが行く?』
私より動揺してないか?
しかしそれよりも仕事だ。そっちを優先してくれ。
「‥団長さん、気持ちは嬉しいけど落ち着いてください。すぐ側にある病院へ連れて行くので大丈夫ですよ。あと机の横の小引き出しにある二段目の書類の訂正箇所の期限は今日までなんでお願いします。締め切り厳守で!」
『ナルさんが今日もナルさんだ‥』
今日も私は私です。
とはいえ、ウルリカの熱は実は初めてなので心臓ばっくばくです。
今日に限ってニルギさんはソマニへお仕事、そしてキラさんは出張中。‥こういう時に限ってトラブルって起こるもんなんだな。
ウルリカを連れて病院へ急いで行けば、赤ちゃんが最初に罹る熱だと言われて、ホッとしたけれど‥、処方された薬が粉薬!
「え‥、これミルクに混ぜたら飲めるかな?」
恐々と薬をミルクに溶かして飲ませてみれば、ウルリカは眉を寄せてプイッと顔を哺乳瓶から背けてしまった。
「う、ウルリカ〜!頼むよ〜〜、熱を下げる為に飲んで〜」
「うぁあああ!」
「‥そんな嫌がらなくても、ほら、お母さんのエプロンだよ」
「うぁああああああ!!」
「くっ!エプロンが効かない!!」
なんてこった。
エプロンから竜の卵にお気に入りがチェンジしてたのか!
ニルギさんと一緒にいると大概卵を抱えていたからなぁ‥。卵が恋しい‥、あ、違う。そうじゃないぞ。
今日はニルギさんもソマニに行くからと、ライ君かセラ君が交代で持っているはず。だけどそれを目当てに熱が出ているウルリカを連れて行くのはおかしい話である。
「うにゃぁあああああ!!!」
「ウルリカ、落ち着いて〜〜。大丈夫、今日はゆっくりしようねぇ」
背中をトントンと叩いて体を揺らすけれど、ウルリカは初の熱に戸惑っているのかずーっとぐずっていた。そりゃ初めての熱で、訳も分からないし泣くしかできないよなぁ。立って抱っこをしていればウトウトするも、また泣いて‥を、繰り返すウルリカ。
「‥‥今度、ニルギさんに抱っこマシーン作って貰おう」
結局、夕方近くまでずっと立って抱っこをしていた私。
立ったまま食べられるパンってなんて有り難いんだ‥。ウニャウニャと胸の中でぐずるウルリカを見てから、外を見ればもう夜が近い。
‥‥一人って、孤独だ。
いや、ウルリカが一緒にいるけど、話ができないし、代わりに抱っこしてくれる人もいないし、部屋は片付けもできないから、テーブルに薬が置きっぱなしだ。哺乳瓶も洗えてない。
薄暗く静かな部屋に、私とウルリカだけ。
「‥‥キラさん、」
ボソッと名前を呼ぶと、寂しさがギュッと胸の奥から飛び出してきて、その衝撃で涙がぼろっと溢れた。
「うう〜〜〜〜っ」
これからだってこんな事、いっぱいあるはずなのに‥。
一人で頑張っていかないといけないのに‥。
泣き言なんて言ってる場合じゃないのに、そう思うのにボロボロと涙が出てきて、疲れて胸の中でスヤスヤ眠っているウルリカを起こさないように涙を堪えていると、
「ナル」
後ろから声がしたと思うと、そっと私の体を背中からキラさんが包み込んで、目を見開いた。
「え、キラさん?!」
「‥遅くなってすまない。ラトルがウルリカが熱が出たと教えてくれて、仕事をニルギに任せてきた」
「え、え?」
そんな事、しちゃっていいの?
ゆっくりとキラさんの方へ体を向けると、優しく微笑んでくれた。無表情だけど。
でも、そんないつものキラさんを見て一気に安心して、涙がまたぼろっと出てくると、キラさんが私をまたウルリカごとそっと抱きしめ、
「‥やっと会えた」
「はい」
「寂しかった」
「‥私も、寂しかったです」
そう素直に言えば、キラさんは水色の瞳を輝かせ私の額にキスをしてくれて‥。ちょっとだけ肩の力が抜けた。
暑くなるので健康第一でいきましょ。
私は塩飴を大阪のおばちゃんのようにポケットに入れてます。
飴ちゃん大事。




