黙して語らない騎士、父だもん。
団長さんにハッパをかけながら午前の仕事がなんとか終わった。
途中ウルリカが泣き出してどうしようかと思ったけど、私のエプロンを手渡すと、嬉しそうにエプロンを吸いながらコロコロとカーペットで転がってご機嫌になってくれたので大変助かった。
よ、良かった‥。
なんとか今日という日を乗り越えられた。
しかしこれが毎日かぁ‥、なかなか大変だなと、しみじみと思った。うん、キラさんが心配する気持ち、今更ながらにわかった。
一方のキラさんは、卵を抱えながら演習場でめちゃくちゃ騎士さん達と訓練をしようとしていたので、流石に止めた。‥卵の胎教的にまずいと思うんだよね。代わりに団長さんが鞄を抱えて卵を温めつつ書類をやっていたので大変よろしい。
そんなことを思っていると丁度お昼の鐘が鳴った。
「ニルギさん、結局お昼まで戻らなかったですね‥」
私の言葉に団長さんがうんざりした顔をして、
「あっちで色々あったんだろうな‥。うわ〜、こりゃ絶対面倒事起きてそう‥」
「クッキーもう少し増やしておいた方がいいですかね」
「そうだねぇ‥。フランにも用意しておこうかな」
「それは確かに。ソマニの準備も大変でしょうしね」
こりゃ家に帰ったらクッキーでも焼いておいた方がいいな。
団長さんは鞄から卵を取り出し、
「とりあえず、この子も生まれたらソマニに連れて行かないとだな‥」
そう言いつつ卵を撫でると、それを見たウルリカが目をキラキラと輝かせ、
「ぱう〜〜〜!!」
「ウルリカ!?ど、どうしたの?」
「え、竜が好きなの知ってるけど、もしかして卵の状態でもわかるの?」
「うーん、どうなんでしょう‥。ボールと間違っている可能性も否定できない」
「確かに‥。うちのティートもボール大好きだな」
ティート君もそうなんだ。
あっちはもうそろそろ一歳だもんな〜。なんて思っている私の腕の中で、卵を触ろうと手を伸ばして大興奮のウルリカ。割れない魔術をかけてあるから大丈夫かな?一応慎重にそっと触らせてみると、「きゃあぁ〜〜!」と、嬉しそうに笑った。‥なんかすごいテンション高いな?
嬉しそうに笑うウルリカを見て、団長さんまで笑顔になって、
「竜ってわかってる感じするねぇ」
「そう思います?そっか〜、ウルリカ‥弟、いや妹だよ?」
「え、そっち?」
「きゃは〜〜〜!!」
おお、すごい良い反応だ!
割れないとはいえちょっとヒヤヒヤしてしまうので、少しウルリカを離すとキラさんが執務室へやってきて、「ナル?ウルリカ?」と、ちょっと驚いた様子だ。
「あ、キラさん。お仕事お疲れ様です」
「ウルリカ、すごく、良い反応をしているな‥」
「はい。卵を見ただけでこのテンションです」
「やはり将来は竜騎士か」
「早い、何もかも早い」
まだウルリカはこの世に生まれて180日ちょっとしか経ってないからね?
団長さんはそんな私達を見て、うずうずした様子で「僕もティートに触らせてみようかな」なんて言っていた。‥ここにも気の早い親がいた。
「とりあえず卵は俺が午後は預かろう」
「キラさん、午後はなんのお仕事で?」
「団長の書類を迅速させる仕事だ」
「ぜひ!よろしくお願いします!!」
「‥うう、この夫婦。戻ってきた途端に全力だ‥」
当たり前である。
エリスさんに直前まで仕事させてたのをもう忘れたのか?!じとっと睨むと、団長さんはわかりやすく目を横に逸らした。‥キラさんが来たからにはキリキリやって貰いますよ。
「ナル、お昼を食堂で貰ってきた。訓練場の方で三人で食べよう」
「え、」
「‥ウルリカはまだミルクだが、あと半年したら一緒に食べような」
「あう〜〜!」
ニコニコと返事をするウルリカを抱っこしながら、大好きなあの訓練場にある大きな木の下でお昼を食べられる事が嬉しくて、私まで笑顔になってしまう。
あの大好きな場所へ‥いや、この大好きな騎士団という場所へ、私は帰ってきたんだな‥。じわじわと嬉しさで一杯になって、キラさんを見上げると小さく微笑み、
「今日は魚のサンドイッチにして貰った。あとピクルスもある」
「‥‥キラさん、野菜は自分で食べるんですよ」
「果物もある」
「‥‥キラさん???」
団長さんのようにわかりやすく目を横に逸らしたキラさん‥。
普段は無表情なのに、今日は随分とわかりやすいな。
キラさん、野菜だけは相変わらずダメです。




