黙して語らない騎士、成長中!7
フランさんのお店は大変素晴らしかった。
赤ちゃんを連れてきても、隣に託児施設もあるし、作る物もゆっくりでもいいし、早くてもいい。万が一の時は他の場所で働いている人がピンチヒッターとして駆けつけられるようにしてあるとか‥。完璧すぎて口開きっぱなし。
自分だけでは思いつかなかった考えは全部セトリさんや、他の女性や同じように1人で育児をしている男性の意見もあったというから、皆でもう一回拍手した。いや、まじで最高だった。
竜騎士さん達なんて、ずっとメモしている手が止まらなかったし、質問も真剣そのもので、それを見ていたルーシェさんが嬉しそうに見ていて、更に離れた場所で見ていたエリスさんがまたそんなルーシェさんをどこか感慨深く見つめていて‥。
嗚呼〜〜〜〜〜〜!!!!
本当、どうにか出来ないかなぁ???
お互い想い合ってるのに、どうにも出来ない自分に焦れてしまう。
‥私にもちょっとでもフランさんくらいの行動力が欲しい。
と、胸の中のウルリカがフニャッと泣き出した。あ、そろそろミルクか。カバンからミルクを出さないとなぁと思っていると、お店の女性店員さんがさっとやって来て、静かなスペースまで案内してくれた。い、至れり尽くせり〜〜!!
キラさんには仕事をしてねって言ってから、用意された椅子に座って、カバンからミルクを入れた哺乳瓶に水を入れると、あっという間に出来上がりである。魔術めっちゃ助かってますニルギさん。
んくんくとミルクを飲んで、私と目が合うとふんわり笑うウルリカ。
最近は本当に表情豊かになってきて、可愛い。仕事中なのに、育児もできて最高な職場なんだけど、それも皆の理解があってだし、かといってそこにずっと甘えっぱなしも良くないし‥。
「難しいねぇ〜、ウルリカ」
「あう」
「あ、ごめん。飲んでいる途中に‥。いや、お母さんも仕事は好きだし、ウルリカと一緒にいる時間も好きなんだよね。でもどっちしか選べないって言われたら、それはちょっと悲しいよねぇって」
「あう〜」
不思議そうな顔をして返事をしてくれるウルリカを見て、思わず笑ってしまう。
そうなったらウルリカと一緒にいる時間を選ぶ一択なんだけど、改良の余地があればどっちも頑張りたいって欲張りなのかなぁ。でも今の状態だと確かにちょっとしかできないから、職場に迷惑かけちゃうしなぁ‥。
「難しいね、ウルリカ」
「あう」
結局同じ言葉を繰り返すと、ウルリカは返事をしてからミルクをまた飲むのを再開した。‥君、言葉の意味絶対わかってるでしょ?小さく笑いつつミルクを一生懸命飲むウルリカを見ていると、まぁしばらくはこの時間を楽しもうって思えるから育児って面白い。
ミルクを飲み終えたウルリカをゲップさせてから、もう一度抱っこして説明を受けている皆の所へ戻ろうとするとキラさんがすかさず私の側へやってくると、嬉しそうに微笑んだ。あ、外から見たら完全に無表情ですけどね。
「可愛いですねぇ」
「あ、エリスさん」
「赤ちゃんって、いるだけで場を和ませてくれますよね」
ウルリカの顔を見て、微笑んでいるキラさんの横にエリスさんがいつの間にか立っていて、細い目元をますます細めて見つめていた。
「‥確かに気持ちは和みますね。ずーっと泣いていると滅入っちゃう時もありますけど」
「おや、ずっと泣くこともあるんですか?」
「たまにですけど。キラさんと私で遠くを見つめながら交代で揺らしてますよ」
「魔物より大変そうですね‥」
魔物より大変‥か?
キラさんを見上げると、
「ただ切ったり、潰したり、焼けばいい相手じゃないからな」
「‥‥な、なるほど?確かに言葉も話せないですしね」
「言葉が話せれば少しは違うのかもしれないが」
「そうですねぇ‥言葉が話せても齟齬も生まれるし、やはり分かり合えない事もありますし‥」
エリスさんが静かにいうと、遠くの方で熱心に話を聞いているルーシェさんに視線を向け、
「‥‥断られる事もあるし」
「エリスさん、仕事。仕事中だから!!あとで!後でお菓子作ってきたんで、ぜひ食べて下さい!!」
私の言葉にエリスさんがハッとして、すぐに背筋を伸ばした。
「すみません、仕事中に」
「いやぁ、仕事中ですけど色々ありますしね‥」
「そう言って頂けると‥」
「今度ゆっくりお茶にでも来て下さいよ。美味しいの用意しますから」
「ありがとうございます。遠慮なく伺わせて頂きます」
キラさんと私でコクコクと頷くとエリスさんが嬉しそうに口元を緩めた。
「‥ふふ、ただラトル団長の書類次第ですね」
「そこは全力で終わらせましょう!」
そうだった!!
そこ忘れちゃダメだった〜!!
後で騎士団に戻ったら、即チェックだな。そんなことを思っていると、ウルリカが「あう」と返事した。やっぱわかってる?




