黙して語らない騎士は動く。4
お待ちかねの、仕事の終わりの鐘が鳴る。
掃除道具を片付けて、今日はエプロンを部屋へ置いて、上着だけ着替える。この間買った籠のバッグを持って、階段を下りて行くと、寮の玄関からキラさんがちょうど扉を開けて入ってくる。
「キラさん、お疲れ様です」
よっ!と、階段を2段くらい飛び越えて下りると、キラさんがちょっと焦った顔になる。無表情だけど。
「・・危ない」
「2段くらい飛び越えて下りられますよ〜」
ちょっとはやる気持ちを抑えられなかったのもあるが・・。
ヘラっと笑うと、キラさんは小さく笑う。
「お腹すいたし、お店が混む前に行きましょっか」
「そうだな」
そう言うと、無言で手を繋ぐキラさん。安定の無言。
「キラさん、たまには手を繋ごうって言ってもいいんですよ?」
寮を出て、騎士団の入り口まで歩きながら話す。
「そうか」
「・・・一言、大事ですよ〜」
「そうか」
聞いてるんかーい!そう思って、キラさんを見ると、無表情なんだけど私を嬉しそうに見ているのが分かる。・・ずるいなぁ、その顔・・。ドキッとするじゃん。
「この間、お昼を食べたお店でお魚料理ありましたよね。あれ、また食べたいんですが、キラさん、食べている間はあまり私を見ないで下さいね」
「・・・・なぜ?」
「・・緊張して味がわかりません」
「俺も同じだ」
ん?なんだって???思わず足が止まる。
「え?キラさんも緊張するんですか?」
「・・・ナルにだけ」
「え、ちょ・・」
急に甘いの来た。
勢いよく顔が赤くなるのが分かる。
キラさんも同じように、ドキドキしたり、苦しくなるって事?緊張して、どうしたらいいかわからない事ってあるの?
同じように、・・・感じてくれているの?
そう思ったら、じわじわと嬉しい気持ちが大きくなっていく。けど、けども・・・!!!!
ちょっと甘い空気が過多で、私は息が苦しい。
「ナル」
「・・・今、ちょっと、話すの無理かもです・・」
「なぜ?」
「嬉しいな・・とも思うんですか、じゃあ、なんでそんな余裕なのかな・・とも」
「ああ」
キラさんが、こちらをじっと見る。
「余裕なんて、いつもない」
水色の瞳が、少し揺れるように私を見るから、ぎゅうって胸が潰れそうなくらい苦しくなる。
きっと顔は真っ赤だし、手は汗でやばい事になってる。
「キラさんは・・・・余裕だと思います」
小さい声で、そう言ってちょっと睨むように見上げると、キラさんはそれはそれは愛おしいものを見るような目で、私を見つめて、
「そうか」
と、いつものように返事する。
そうですよ、どんだけこっちの胸を締め付けたり、潰してくるんですか。私は瀕死です。
ちょっと悔しくて、握った手をぎゅうって握ると、恋人のように手を繋ぎ返されるという反撃に遭い、見事私の心は撃沈した・・・・。
嬉しそうなキラさんと夕飯を一緒に食べたけど、やっぱり視線を感じると、味を感じないマジックがかかる。悔しいので、緊張するって言ったし、じっと見たけど、小さく笑われて終わった・・・。
やっぱりキラさんは緊張してないと思う。余裕しかないじゃん。
まぁ、いいや・・。
今日もなんとか一日終わったし、ご飯も、うん、味がした時は美味しかった。キラさんの緊張する・・は、信じられないけど、まぁ・・その辺も嬉しかったし。
のんびり、夜店を見ながら歩いて帰るのは楽しくて、キラさんとまた夜ご飯食べに行くのもいいねって、話して、私はちょっとふわふわした気分だった。
寮に戻るために、歩いていると・・詰所からフランさんが手を振って歩いてくる。ん?なんか持ってる?
「あ、ナルさん〜!団長が明日から書類仕事お願いって・・」
「え、早いな」
「あと、これ団長補佐のミラファさんからお詫びだそうです」
そういって、お花のブーケを渡される。
「え・・?」
団長さんの事務仕事の手伝いはわかるけど、お詫びでお花?いや、そんな気遣ってもらわなくても・・、そう思っていると、繋いだ手がぎゅっと握られ、黒い圧が隣から一気に流れてくる。
私は、無言の圧にビクッと体が跳ね、そぉっとキラさんを見る。
「・・・・・・・・・・・・・ナル?」
水色の瞳が、目が据わってる。
無表情だけど。




