黙して語らない騎士、変わらず騎士。23
異界の花事件は、シーヤ騎士団や警備隊のお陰で無事に解決した。
‥と、いっても、姿が消えてしまうなんてなかなか大層な事件なので、まだまだ団長さんは報告やその後の情報収集にますます忙しくなりそうだけど。
「あ〜〜!今日はなんだか本当に疲れましたね!」
「そうだな」
ウルリカはミルクも飲んで、お風呂にも入って、ちょっと揺らしたらあっという間に寝てしまった。日中あれだけ寝たのに、もう寝ている‥。赤ちゃんってこんなに寝る生き物なのか‥?わからないから、今度ライ君にでも聞こう。
寝室のベッドの横のベビーベッドで寝ているウルリカを見ていると、キラさんが私の隣にやってきて私の手を握った。
「ナル、ちょっといいか?」
「ん?どうかしました?」
キラさんに手を引っ張られて、一緒にベッドに座ると、キラさんがベッドの横にある小さなキャビネットから一枚の紙を取り出した。真っ白いなんの変哲もない便箋のようだけど‥。
「‥なんですか?これ」
「異界の花をこれに練りこんでみた。これで、自分の世界へ送れる‥かもしれない」
「え?!」
「手紙を送れたら‥と言っていたので、ニルギと相談して試作してみた。俺の元へニルギが魔物の討伐先から送ってくれたら、届いた。理論上はできるかもしれない」
さらっと言ったけど‥、
それってもんのすごい事じゃないの???
だって、この世界じゃなくて、違う異世界へ‥って事でしょ?
私は驚いた顔のままキラさんを見上げると、キラさんは私の手をぎゅっと力強く握った。
「ナルがここにいてくれる事は、信じている。それでも知らない世界で、ここで生きていくことは容易ではないだろう。俺がいつでも助けられるならまだしも‥、騎士として遠く離れる事もある。心細い思いをさせてしまう事を申し訳なく思っている」
「キラさん‥」
「それでも、俺はナルといたい。いや、違う世界でもナルといたい。我ながらワガママだとは思うけれど‥」
真剣なキラさんの言葉に思わず目頭が熱くなる。
こんな風に私をいつだって思いやってくれるキラさん。だから、初めてこの世界へ来て不安だらけだった私はすぐにこの世界に溶け込めたんだろう。キラさんの胸に顔を寄せて、キラさんの大きな手を私もぎゅっと握り返した。
「キラさん、手紙‥色々考えて作ってくれたんですよね。ありがとうございます」
「ちゃんと届くかは、わからないが‥」
「それでも嬉しいです。すごく、嬉しいです」
私の事をいつだって考えてくれるこの優しい人と、どうして離れられる?キラさんの顔を下から見上げると、キラさんが静かに微笑んでいて、その顔を見ただけで胸の奥がぎゅうっと苦しくなる。
「‥キラさんが私の世界に来たら、モテモテで困っちゃうなぁ」
「ナルとウルリカが一番好きだ」
「う‥、あ、あといなくなったら団長さんが泣いちゃうかな?」
「‥それはきっと大丈夫だろう」
「ニルギさんなんてきっと追いかけてきますよ?」
「それは楽しそうだな」
二人でニルギさんがあっさり私の世界へ来る姿を想像して、クスクスと笑い合ってしまう。ああ、そうだ、どこにいたってキラさんはきっと私の側にいてくれる。そう思ったら安心と、嬉しさしかない。
ちらりとキラさんを見上げると、水色の瞳が嬉しそうに見つめている。
‥どうしようかな。
ちょっと照れくさいんだけど、気持ちは伝えておいた方がいいよね。キラさんの手をぎゅっと握ってから、顔を上げてキラさんの頬にキスをした。
「ナル‥」
「約束しましたし」
「唇がいい」
「ううっ!!やっぱりそういうと思った!」
「ナル、もう一度」
キラさんが嬉しそうに私を見つめるから、どんどん照れ臭さが増していく。
一体いつになったら、私はキラさんのこの要求にサラッと応えられるようになるのかな?赤い顔のまま、キラさんの唇にそっと触れるキスをすると、そのままキラさんに追いかけられるようにキスをされた。
と、いうか、どんどんキス深くなってない?
「き、らさん‥ちょっと、ストップ!」
「なぜだ」
「て、手紙、くしゃくしゃになっちゃう!!」
「それはダメだな」
そっとキラさんが私の手から便箋を受け取ると、キャビネットの上に置いた。
「手紙は、明日書く‥でもいいだろうか?」
「‥どう考えてもその空気でしたよね」
「そうか?」
誰が聞いている訳でもないのに、こそこそと小声で話すとキラさんがもう一度私にキスをした。
「大好きですよ、私の騎士さん」
私もそう言ってキラさんにキスをすると、キラさんの握っていた手が解かれて、今度は手をお互い重ねて、強く握った。うん、手紙は明日キラさんと書いて送ってみよう。そう思っただけで心がほんわかと暖かくなった。




