黙して語らない騎士は動く。3
ニルギさんとからかいに執務室へ行くと、机に顔をベタァ・・とくっつけて、半泣きで書類に埋もれてた。
「もうやだ・・・。書類やだ・・。王族から降格してるとは言え、敬わないとじゃん?なんで僕上司なのに、こんなに気を使わないといけないの・・・。ウルキラ、団長やってよー。ねーナルさん、そう思うよね?」
「・・・わかりやすいくらい参ってますね」
「王都の騎士団からも、色々な事でつつかれてるしなぁ」
私とニルギさんで、ニヤニヤしながら団長さんを見る。
あ、でも朝はお世話になったし・・お茶でも出そう。
お茶を淹れて、机に置くとノロノロと体を起こし、お茶を飲む団長さん。
「あー・・・生き返る・・。しばらくナルさん、書類の手伝いに来てよ、フランに話しておくから。掃除係じゃ勿体無いよ」
「ありがたいお言葉ですが、団長補佐のご帰還の折にまたお誘い下さい」
「・・・ニルギ」
「しばらく通ってやるんだ。これ以上何もしないぞ」
「・・・・冷たい・・・」
目をウルウルさせている団長さんは、ちょっと面白かった。
夕食の時、キラさんに教えよう。
「・・いない時なら手伝いますから」
・・そういう事にしておいてあげよう。武士の国の出身だし。情けをかけてやろうではないか。団長さんが「助かります!」と言って拝んでくるので、ニルギさんと笑ってしまった。
そうして、午後はお仕事に励んだ。
寮の片付けもあるし、遠征の時に壊れた武器の補修をお店に頼むとか、結構あるんだ。薬の補充もしておかないと・・と、医務室にお願いして、いくつか受けとって、倉庫へ急ぐ。
うん、お仕事だいぶ慣れてきたな。
山盛りに持っている荷物に、前がなかなか見えない。いっぺんに持って行こうと欲張ったのまずかったかな・・。
と、ドン!と誰かにぶつかって、私は手に持った荷物から顔をずらして、
「あ、すみません!」
あれ、背中・・?そろ〜っと上を見上げると・・
・・・見覚えのある赤い髪と、濃茶の瞳がこっちを振り返って見ていた・・。
一番会いたくない団長補佐・・・。
「・・・お前か」
「はぁ、失礼しました」
相手をしないのが一番だ、小さくお辞儀して私は横を通り過ぎようとした。
「・・さっきは、悪かった」
小さい声だが、ちゃんと聞こえた。
足を止めて、振り返ると団長補佐が少し目を伏せて
「・・・少し大人気なかった」
お、ちゃんと謝れるんじゃん!ニルギさんにでも諭されたかな・・。
とはいえ、朝からの一連の流れに私はちょっと警戒しつつだけど。
でも、さっきニルギさんから比べられていた・・とか聞いていたし、まぁ、面白くない感情もわかるし、反省してるならいいか・・・。
「・・・ちょっと遅い反省かもですが、謝ってくれたし、もういいです。それに私、負けませんから」
ニヤっと笑ってみせると、団長補佐は少しホッとした顔をした。・・・・なんだ、もっとツンツンしてるかと思ったけど、意外に気を使えるタイプみたいだな。
ちょっと気が抜けて、私はヘラっと笑った。
「・・そうか」
「はい!じゃ、今度こそ失礼します」
そういって私は倉庫へ急いだ。
ちょっと気恥ずかしいし、一応王族だし・・。
あ、そういえば異界人の人権保障を約束してくれた王族なんだから、お礼言っとくべきだった?
そんな事を考えていたら、武器の補修を頼みにきたキラさんが大量の荷物を持っている私に気付いて、荷物を運ぶのを手伝ってくれた。ジェントルマンだな・・。
「随分多いな」
「いやぁ・・、ちょっと無精していっぺんに持っていけないかなぁ・・と思って」
「・・無理をするな」
「はーい」
キラさんを見上げて笑うと、優しく笑ってくれる。
はー・・、早く夕方にならないかな。




