黙して語らない騎士は動く。2
お昼を食べて籠を片付けると、突然、私は無言でキラさんの足の間に座らされ、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
おおーーーい!!!一言、言ってくれ!!
私の心の臓が、いきなりの事態に破れそうです。
「き、キラさん・・???」
「ちょっとだけ」
「・・・ちょっとだけ・・・?」
「こうしていたい」
あ、そうですか・・。
充電みたいなものか?・・とはいえ、ほのかにいい香りはするわ、お腹に回された腕に、私は大変気恥ずかしい気持ちで一杯でして・・・、目がウロウロ泳ぐし、体はガチガチに緊張してるんですけどね。
とはいえ、午後からまたお仕事もあるし、あの団長補佐とも会わないといけなくなるだろうし・・、大変だろうな。
そっと回された腕を撫でる。
「・・・午後も頑張りましょう」
「・・・ああ」
「夕飯、時間があれば外で食べません?・・なんか、今日はちょっと食堂っていう気分でもなくて・・」
「行こう。終わったら迎えに行く」
結構迷いなく言い切ったキラさんに、思わず笑ってしまった。
夕飯を外で一緒に食べる・・うん、いいな。乗り切れそう!
「はい、私も午後、頑張ります!」
ちょっと背中でキラさんが笑う気配がした。
いや、だって・・・楽しみとかないと、乗り切るの大変そうじゃない?私はそうですけど・・。
キラさんは私の首元に顔を埋めて、ちょっとすり寄せるようにグリグリと動かす。
「くすぐったいです・・」
「好きだ」
うう〜〜〜・・・だからぁ!!!胸がギュウッて苦しくなる。
「・・・・私もですけど、あの、心臓に大変悪いので・・・」
「好き」
「キラさん・・・・、ちょっと面白がってるでしょ!!」
美形がそんな事を言って、乙女の心を乱してはならぬ!!クスクス笑う気配に、ちょっと安心したけど。心臓には悪いんだよね。「ウルキラさん・・?」と、言ったらようやく腕を離してくれた。・・本当に頼むよ〜〜。
訓練場の入り口で別れて、私は籠を食堂に戻しに行く。
・・あ、嫌味団長補佐いるかな・・。さっと周りを見ると、見当たらなくて、ホッと息を吐く。と、入り口の横で笑う気配がするので、振り向くとニルギさんがお茶を飲みつつ、手を振っていた。
「ニルギさーーーーん!!!」
「面白いことになってるな」
「面白くないですよ!なんですか、あの人?キラさんには、なんか聞くに聞けないし・・」
なんか、話をすると・・まぁ、私がムカムカするのもあるけど。ニルギさんは、そんな私の様子をニヤニヤ笑いながらお茶を飲み、向かいの席を勧めてくれたので、とりあえず座った。
「まぁ、そうだろうな・・。団長補佐・・ミラファは、今の王の三番目の息子なんだ。俺はミラファの魔術の教師を小さい頃してたんだ。ウルキラはその頃から優秀だったんで、一緒に練習した事はないが、よく周囲から比べられててな・・」
「あ、ああー・・・」
仮にも王族の息子が、普通の子と比べられたら・・、それは確かに面白くないな。だが、侮辱行為は許せん。
「で、この間、魔物討伐してきたろ」
「あ、はい」
「あれ、もともと王都の騎士団が行く予定だったんだ」
「え?!」
「だけど、こっちが先に現地に着いた上に、ウルキラが誰かさんに会いたいがために、ほぼ一人で魔物を殲滅させたんで、評価がうなぎのぼりでなぁ・・」
「え、それ、完全に八つ当たりですよね?」
気持ちはわかるが、手柄を立てるためにキラさんだって騎士をしてるわけではないと思うし・・。
「まぁ、男の小さなプライドだ。わかってやってくれ。しばらく補佐業務をしつつ、シーヤの周囲の調査をしたら帰るから、ナルも心穏やかに過ごせよ?」
「あっち次第ですね・・」
「ナルは、負けず嫌いだな」
「意外とそうみたいです・・。こっちにきて、初めて知りました」
ヘラっと笑うと、ニルギさんは、また面白そうに笑う。
「団長が、へばってるから・・、からかいに行くか?」
私は二つ返事で了承した。
こんな面白い時を逃す手はない。




