黙して語らない騎士、変わらず騎士。3
団長さんがちゃっかりキラさんからお茶とお菓子を頂いて、仕事のエグさについて話をしていると、玄関のベルが鳴る。
「あ、ルーナさんが来たのかな」
「え!そうなのー?」
「‥団長さん、いつもは冷静なのにやっぱりお子さん相手だと違いますね」
「え〜〜そう??」
と、言いつつソファーでそわそわしている‥。
なんてわかりやすいんだ‥。
ほどなくして、出迎えたキラさんと一緒にルーナさんがティートを抱っこをしてリビングに入ってくると、ちょっと驚いた顔をしたルーナさんが、
「仕事は大丈夫?ラトル‥」
「る、ルーナ‥!?」
「団長さん、ルーナさんにまで心配かけてるじゃないですか‥」
「ちゃんとやってるってば〜!」
団長さんが慌ててルーナさんの方へ駆け寄ると、ルーナさんが可笑しそうに笑ってティート君を手渡す。完全に団長さんがからかわれてるな、これ。だけど団長さんはそんな事構わずティート君を抱っこすると、スマイル全開である。幸せそうで何よりだ。
「ごめんなさいねぇ。まさかラトルまで来てるとは知らなくて‥」
「ああ、書類を届けてくれただけですから、気になさらず。それよりティート君、日に日に大きくなってますね」
「そうなのよ‥。本当に半年前はあんなに小さかったのにねぇ」
と、ルーナさんがしみじみと呟きながらティート君とウルリカを見比べる。
「やっぱりウルキラさん似かしら‥」
「いや、僕はナルさんに似てると思う!特に目元!」
「いいえ、ウルリカはナルに似てます」
「‥キラさんや、そんなに私をプッシュしなくても」
皆にキラさんに似てる、ナルさんに似てるって言われるけれど、男の子って成人すると顔付きも変わるし、それまでどっちに似ててもいいかなって思うようにしてる。
団長さんがウルリカにメロメロのキラさんを見て、
「‥これで女子が生まれたら大変だな」
「やめて、団長さん。考えないようにしてたんでやめて」
「そうだよねぇ。僕もそう思う。なにせ娘が生まれたら僕は一生お嫁になんかやらないし」
キラさんが静かに頷くけれど、その顔は気合いに満ちている。
あの‥、まだウルリカ生まれたばっかりな上に、私は妊娠すらしてませんからね?
「さて、僕はそろそろ仕事に戻るね。ルーナ、迎えは大丈夫?」
「ニルギさんが迎えに来てくれるって‥」
「あいつ〜〜!僕がサボるとすぐに嫌味を言ってくるのに、ルーナやナルさんには激甘だな‥」
「やっぱりサボってるじゃないですか」
「えーとナルさん、今のは言葉のあや!!あやです!!」
「‥あとでニルギに確認しておく」
「やめてウルキラ!!本当にやめて!!」
団長さんがわざとらしく身を震わせて、ティート君の頭を撫でると私とキラさんが書いた書類を受け取り、「じゃあ待たね〜」とそそくさと家を出ていった。‥怪しい。本当に怪しい。
そんな感情がもろに顔に出ていたのか、ルーナさんがクスクス笑って「お世話かけます」なんて言うけれど、とんでもないです。私達夫婦も育休取った為に団長さんってば王都に飛ばされそうな上に、ある意味栄転なんだろうけど団長さんにとってはあんまり歓迎した感じじゃないし。
「ラトルもねぇ、シーヤの騎士団にずっといられる訳じゃないって思ってはいるんだけど、やっぱりここにとても愛着があるみたい」
「そうですか‥。でも確かに団長さんがいたから私もキラさんも会えた訳だし‥、やっぱりここにいて貰わないとなんていうか収まりが悪いかも」
「あら、嬉しいわ。でもそうよねぇ。私も異世界の人を保護してくれていたラトルのおかげでここにいる訳だし‥」
そっか!ルーナさんも異世界から来たんだった。
ルーナさんは私を見て、ニコリと微笑む。
「色々あったけれど、騎士団にラトルやウルキラさん、ナルさんがいてくれて良かったとも思ってるのよ」
「そ、そうですか‥」
ルーナさんの言葉にじんわりと胸が暖かくなる。
そうだよねぇ、お互い異世界から来て不安もいっぱいだったけれど、私達は騎士団の皆に助けられて安心して過ごせているし。そういえば以前キャンプしてた時に、昔は異世界に行ったり来たりができてたって聞いたけど‥。今は一方通行っていってたな‥。
どこか遠くに感じる故郷に思いを寄せていると、ルーナさんが窓の外を見つめて、
「でも、時々手紙だけでも出せたらなぁって思うのよね」
ポツリと呟いて、ティート君の頬を優しく撫でた。
その顔はどこか嬉しそうで、ちょっと寂しそうで‥、でもその気持ちもどこかわかるから、私はただ小さく頷くだけに留めた。




