黙して語らない騎士は動く。1
団長補佐とやらは、そんなに偉いのだろうか・・。
後ろで食堂へ連れて行こうとする団長さんが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。・・これは、対応に苦労していたようだな・・。
「訓練場は、連れ込む場所じゃないはずだが?」
団長補佐は、面白そうにキラさんを見て言うけど・・、どう見ても悪意のある言い方にムカムカする。
「見学は自由ですし、昼食を取るのも許されている場所ですから・・」
団長さんが、まあまあとばかり宥めて話す。大人だな・・私なんて、さっきから睨みつけないようにするので、必死なのに・・。
「ふん・・、こんな女を連れている男だ。どうだかな」
咄嗟にキラさんの手を握る。
あ、怒ってる。めっちゃ怒ってる。気配とかわからないけど、とりあえず無言の怒りのオーラはわかるぞ。
あと団長補佐、いちいち煽ってくるんじゃない!!!早く食堂へ行け!!!
私はギッと睨んだ。流石に睨んだ。
「女も女だな」
吐き捨てるように言う団長補佐・・・。
怒りの導火線にあっという間に、着火した。
「いきなり来て、そんな口を聞く上司もどうかと思いますけどね」
言った。言ってしまった。
団長補佐は、目を丸くした。
まさか言い返されると思わなかったの?
「・・私に、そんな口を・・」
「そっちが一方的にけなしてきておいて、自分には言うな?!はぁあ??」
「な、ナルさ〜〜〜ん・・」
団長さんの顔に冷や汗が見えるけど、私の腹の虫は収まらない。団長補佐が睨んでくるので、私も睨み返す。よろしい戦争だ!メンチ切ってやる!!
一触即発の雰囲気が広がる。
私は絶対負けない!!!
「おやおや、ミラファ殿じゃないか〜」
・・突然、のんびりした声が聞こえる。
へ?と、団長さんの後ろをみると、ニルギさんが立っている。
「ニルギ殿・・」
団長補佐とやらも、ニルギさんを見る。
どうも顔見知りらしい・・。
「そんなに目くじらを立てるものではないだろう?ほら、腹でも空いているから怒りっぽくなるんだ。ちょうど食堂でお昼を取ろうと思っていたんだ、一緒に行こう」
「・・・しかし・・」
「騎士たるもの、そんなに心を乱してはいけませんよ?」
ニルギさんが諭すように、団長補佐に言うと、ようやくこちらに向けていた体の向きを変えた。団長さんが、早く行け!とばかりに、手で追い払う仕草をしたので、私は急いでキラさんの手を引っ張って行った。
もちろん、腹を立てながら。
なんなの?!あいつ!!!騎士だって言うなら、こう、もっとやりようがあるでしょーが!!!めっちゃ腹立つわ!!キラさんが何も言わないと思って!!!
・・・・あ、そうだキラさん、大丈夫かな?・・はたと、気付く。
あまりに頭に血が上ってしまって、キラさんの事がすっかり頭から抜けていた。手をぐいぐい引っ張って、いつもの場所へ来てしまったけど・・、慌ててキラさんの顔を見る。
「あの、キラさん・・いきなり怒っちゃって・・」
そう言うと、手で顔を覆っているキラさんが震えてるので、驚く。
「え、え、キラさん?ごめんね?なんかやっぱり怒っちゃまずかった??」
あっは!と、声が聞こえて、びっくりしてキラさんを見ると、声を出して笑っていた。え、キラさんって声出して笑うんだ・・・。思わずポカーンと、間抜けなくらい口を開けてキラさんを見てしまう。
ひとしきり笑い終えたキラさんが、芝生にゆっくり座るので、私も一緒に座る。
「ナルは、格好いいな」
「第一声がそれですか」
「悪い・・でも、嬉しかった」
「・・・なんで」
「俺のために怒ってくれた」
「・・まぁ、そうですけど・・」
後半、完全にキレちゃった自分を見られたのが、恥ずかしくて・・ちょっと目を逸らす。いや、いつもはあんな風に怒ったりしないんですよ?今回はちょっとキレちゃいましたけど、普段は温厚ですよ?ちょっと言い訳がましく思っていると、キラさんが、優しく頬を撫でてくる。
「・・キスしたい・・」
嬉しそうに、面白そうに、笑いながら私を見る。
私は、ちょっとふくれつつ・・
「私もしたいです・・」
そう言うと、優しくキスしてくれた。
いつもより甘く感じるキスに・・・やっと、私の気持ちは落ち着いた。




