黙して語らない騎士、父になる!?11
キラさんにしっかり手を繋がれて食堂へ歩いていくと、なんとリルケさんが炊き出しの前でチャキチャキと取り仕切って、スープやパンを配っている!
「リルケさん??!」
「あ、ナルさん!どーしたの?何かあったの?もうお休みでしょ?」
そう言いつつ、他の騎士さんに「これお願いします!」と言って、空になった大鍋を渡していた。‥たくましい。
「えっと、調理のおじさんが腰痛って聞いてお手伝いに‥」
「ええ?!もう〜〜、そんなお腹大きいのに無理しなくても‥と言っても、無理よね。ナルさんだし!」
ニコッと笑って、私の方へエプロンで手を拭きつつこちらへ駆け寄ってくる。
「まぁ、ナルさんが家で大人しくしてられないとはちょっと思ってた!」
「予想されてた‥」
「ふふ、あ、じゃあウルキラさんナルさんお借りしますね!」
「あ、じゃあ、キラさんまたあとで‥」
キラさんを見上げると、心配そうな顔をして私を見下ろすとギュッと私の手を握る。
「‥あとで迎えに来る。無理はしないように」
「切り物だけだから大丈夫ですって。キラさんも気をつけて下さいね」
なにせあんまり降らない雪だ。怪我をしたら危ないからね。
ヘラッと笑ってキラさんを見上げると、優しく頭を撫でたかと思うと、そっと手を離してちょっと名残惜しそうに執務室の方へ戻っていった。‥心配性と過保護だなぁ。
「ナルさんが来てくれて、ウルキラさん嬉しそうですねぇ!」
「え、そう?」
「昨日は雪の除雪でちょっと忙しかったからね」
「雪で思い出した!リルケさん、養成校の方は大丈夫なんですか?」
「ああ〜、あっちは体力お化けみたいな子供達がいっぱいいるからね!近隣の住民の皆さんのお家へ除雪に駆けつけてるわ」
頼りになるな〜〜。
しみじみと噛み締めつつ、リルケさんと一緒に食堂の調理場へ行くと、おじちゃんやおばちゃんが目を丸くする。
「あれまぁ、そんなお腹大きいのに!」
「いやいや、2日前までいたから大丈夫ですって」
「じゃあナルさん、こっちで座って皮むきとかやってもらっていい?」
「ああ、はいはい」
「まったくこの雪じゃなきゃあ休んでもらうのに、悪いわねぇ〜」
いえいえ、以前もお手伝いしたことありますから。
わざわざ座ってできる作業を用意してもらっちゃって、こちらこそすみません。おばちゃんやおじちゃんは調理しつつ、「こんな雪何十年ぶりかしら〜」と話してて、やっぱりいつもと違うんだなぁ〜なんてしみじみ思う。
「まぁ、さっき晴れてきたし、騎士団で大分雪の除雪も済んだし、今日はみんな帰れるじゃないかしら」
「そうですね〜、さっき晴天でしたよ!」
「良かった〜。もう流石に雪は降らないでしょ!」
確かにしばらくはこんな雪はもう降らないだろうな‥。
リルケさんとそんな話をしながら調理場で炊き出しの手伝いをして、のんびりお茶なんかもしてた。
それなのに夕方頃‥、そろそろキラさんが迎えに来るかな?と思って、リルケさんと一緒に食堂の外へ出ると、またヒンヤリと冷たい空気と共に空の向こうからどんよりとした大きな分厚い灰色の雲が見えた。
「え、あの雲‥」
私がポツリと言ったそばから、チラチラとまた白い雪が降ってきて‥、
騎士さん達がギョッとした顔をする。
「嘘だろ、もうやめてくれ!」
「まじか?マジなのか??」
「もう俺、体力限界なんだけど!!!」
悲痛な叫びが聞こえる。
しかし無情にも空からは雪がチラチラ‥から、ドンドン降ってくる。
リルケさんと私は思わず顔を見合わせて、空を見上げる。
「あー、これミラファまた帰って来られないわねー」
「それ、うちもですねぇ‥」
「ってことはまた明日炊き出しかぁー」
「リルケさん、明日も手伝いますよ」
「ええ〜〜、無理しちゃダメよ?」
なんて会話をしていると、キラさんが迎えに来たけれど‥、その瞳が悲しみに満ちている‥。
「‥キラさん、何かありました?」
「せっかくナルと帰れると思ったのに‥」
「ああ、すごく降ってきちゃいましたね‥」
「燃やし尽くしたい‥雪雲を」
「「雪雲を‥」」
思わずリルケさんと私で声を合わせて言ってしまった‥。
確かに後ろで、騎士さん達が悲しみと疲労の色濃い顔で空を見上げていると、それもわからなくもないな‥。
「明日、またお菓子焼いておきましょうか?」
キラさんにそう言うと、私の手を速攻で握って静かに頷くのであった‥。
うん、今日もお疲れ様です。




