黙して語らない騎士、父にはまだまだ。4
大蜘蛛と狼の魔物の出現は、久しぶりの事だったので、地元の警備隊も大慌てだったらしい。
結局あれから15分くらいしたら、地元の村からも救援要請が出て、騎士さん達がまた現地へ向かって行ったけど‥、皆行く前に口々に、
「団長の子供、男女どっちかってちゃんと聞いておいて下さい!」
「ヤベェ気になって討伐できっかな?!」
「んな事言ってると、ウルキラ団長補佐に先に倒されるぞ!」
うちの夫はそんなに狭量ではないはず‥。
きゃあきゃあと盛り上がる騎士さん達を見送ってから、フランさんとセラ君と一緒に救援物資を確認しに倉庫へ行く。こんな生活もあと半年で育児の生活に変わるのかぁ〜。不思議だ‥。
フランさんは倉庫で物資の確認をしつつ、
「それにしても団長さんがお父さんって、不思議な感じですね」
「そうですね〜、でも男女どちらでもデレデレになりそうですね〜」
「ふふ、本当ですね。どちらかというとそっちの顔を見たいです」
「ああ〜〜、わかります!」
そんな話をフランさんとしていると、なるほど確かにどっちが生まれたか気になるかも。男の子でもデレデレになりそうだけど、女の子だったら溶けちゃいそうだな。
セラ君は物資をちょっと動かしつつ、
「ナルさんは男女どちらがいいんですか?」
「え?考えた事ないなぁ〜。キラさんならどっちでも大事にしてくれると思うし、私もどっちでもいいんだ。元気でいてくれたらいいなぁ‥くらいかな」
セラ君は私の話を聞いて、ニコニコして「素敵です!」って言ってくれて‥。いや、本当ライ君といいセラ君といい、可愛い兄弟である。‥ウルクさんはごついけど。
救援物資の確認を終えて、詰め込みは騎士さん達にお願いしたけれど団長さんの事もあって皆そわそわしている。‥仕事〜〜、仕事に集中してくれ〜〜。
「ほらほら救援物資を早く運んで下さ〜い」
「うう!!男女どっちか知りたかった!!ナルさん!戻ってきたら教えて下さいね!」
「はいはい、行ってらっしゃーい」
馬車に救援物資を乗せた騎士さん達も歯がゆい顔で出動していき、私とフランさんが息を吐く。
「‥ふふ、皆お父さんのようになってますね」
「確かに‥。こっちの世界って男女どっちがいいとかあるんですか?」
「いえ特にありませんが、皆男子であれば剣を教えたいとか、騎士はいいぞ!って言いたいのかもしれませんね」
ああ、なるほど〜。
皆騎士の仕事に誇りを持っているもんなぁ。それならキラさんも男子の方がいいのかな?
まだちょっと出てきた?くらいのお腹をそっと撫でる。
(どっちかな?どっちでもキラさんも私も嬉しいよ)
ちょっと話しかけるのは照れ臭くて、あまりできないので‥頭の中で語りかけるくらいで勘弁してくれ。名前はすでにキラさんによって「ウルリカ」って決定はしているけれど、まだ母!!って気持ちにはほど遠いんだよねぇ‥。まだ実物を見ていないから?
そんなことを思いつつ、執務室へ戻ると、魔物はまだ討伐中らしい。
フランさんが書類を確認しながらしみじみ話す。
「しかし、久しぶりの魔物の出現ですね〜」
「周期は終わっているはずなんですが‥、討伐が終わったら現地調査した方がいいですね。そっちの手配はフランさんお願いしてもいいですか?」
エリスさんもちょっと難しい顔をしている。
団長さんがお休みに入った途端、また色々起こるな〜〜。
「あー!それにしてもラトル団長のお子さん、どっちだったかな〜?」
「‥エリスさん、仕事して下さい」
「大丈夫!仕事しながら待ちわびているから!!」
細い目がニコッと笑って、手は書類をざかざかと確かに処理しているしいいか?
と、執務室へニルギさんがお菓子の袋を抱えつつ入ってきた。
「ニルギさん!あれ?討伐は??」
「まぁあらかた終わったんで先にラトルのいる病院へ寄ってきた」
その一言で、皆一斉にニルギさんに詰め寄る。
「どっち!?どっちでした!?」
「ライ、すっごい食いつくね‥」
「セラだって気にしてただろ!?」
「珍しく兄弟揃って気にしてる‥」
「「兄貴が賭けに負けたら奢ってくれるんで!!」」
流石弟達‥、ちゃっかりしてるな。
私もニルギさんを見ると、ニンマリ笑う。
「まだ処置してたからわからんそうだぞ〜。もう少しで知らせが来るだろうし、前祝いにお菓子でも食うか?」
ニルギさんの一言にライ君達がガクッと項垂れる。
何を奢ってもらう気だったんだろう。
後ろでエリスさんが面白そうに笑って「まだ分からないのか〜」って話すけど、いいのだろうか‥。まだ魔物の発生事件が起きている真っ最中にこんな盛り上がっていて‥。
だけど、まぁこれがシーヤ騎士団だしなぁ。
そう思って、ニルギさんが差し出してくれた甘さ控えめのクッキーを一枚もらってかじるのだった。




