黙して語らない騎士、父にはまだまだ。3
団長さんが育休に入って、初日。
いつもと変わらない朝だけど、団長さんの机にはエリスさんが座っていて、早速仕事をしている。
「ウルキラさん、これはどういう感じでやってました?」
「これは、こんな風に編成してました。こっちを優先しておくと良いです」
キラさんに時折相談しながら仕事をしていると、なんだかあんまり違和感を感じない。ライ君とふと目が合って、同じ事を思っていたのか二人で無言で笑い合ってしまう。
「ナルさん、こっちの書類をチェックお願いします。ライ君、こっちの書類は武器課に持っていって貰えます?」
「「はい!!」」
二人で返事して書類を貰い、それぞれの仕事に取り掛かろうとすると、バタバタと執務室にウルクさんが「失礼します」の挨拶と同時進行で入ってくる。
「馬鹿兄貴落ち着け」
「落ち着いてるわ!ラトル団長の奥さん、産気づいて1日前倒しで出産する事になったって連絡きました!!」
ウルクさんのワクワクしたような、ちょっと心配そうな顔に私とライ君、セラ君が顔を見合わせる。隣にいたフランさんがほんわか笑う。
「やっぱり団長さんと同じでせっかちですね〜」
「そんな話なんですか??え、って事はもう切るの??」
こっちの出産事情をイマイチ知らないので、オロオロしながらウルクさんに聞いてみると、ウルクさんはワクワクした顔のまま頷いて‥、
「あと1・2時間したら、どっちの性別か分かるっす!」
「そっち??!!」
魔術でどっちか分かるらしいんだけど、団長さんとルーナさんはあえて調べずにいたので、シーヤ騎士団密かに男女のどっちかで賭けをしているらしい。いいのかそんなんで。
「ナルさん、どっちだと思います?!」
「え、うーん、ルーナさんの顔つきちょっと変わってたし男の子かな?」
私がそういうと、皆一斉に私を見る。え、何??
キラさんが私をじっと見て、
「ナルは変わらず可愛いが‥」
「なんで私を見る!?今はルーナさんの話だったはず‥」
「顔つきで性別が分かるのか?」
「私のいた世界‥というか国で言われてて、キツそうな顔になっていると男の子。変わらなければ女の子って言われてたんですよ」
と、いっても私の周囲には出産する子はいなかったし、ネットで薄っすら知っている知識だけど。
ウルクさんは「異世界面白れぇ!!」と目をキラキラさせていると、ライ君がすかさず後頭部を引っ叩く。
「アホ兄貴!!団長さんの事は分かったから仕事しろ!!」
「わーったよ。あ、ライはどっちに賭けた?」
「騎士が賭博するな!!!」
「金は賭けてないぞ?肉だ肉」
この兄弟は相変わらずだな‥。
その横でセラ君が「‥ご迷惑お掛けします」と申し訳なさそうに謝る。
この流れもセットになりそうな気配を感じていると、またもバタバタと足音がして、副団長のクリスさんが挨拶と共に執務室に駆け込んで来た。
「街道沿いに、魔物の発生です!!大蜘蛛の魔物と、狼型の魔物の群れが地元の村を襲ってます!」
こ、こんな時に魔物〜〜!!?
しかし、あの大きな大蜘蛛の魔物を思い出すと、ゾゾっとする。
エリスさんはクリスさんとキラさんを見て、
「じゃ、早速仕事ですね。至急応援へ!20人体制で、増援が必要であれば連絡を下さい」
「「はっ!!」」
クリスさんとキラさんが敬礼すると、サッと執務室から走り出す。
チラッとキラさんが私を見て、頭の上に手をポンと置くと颯爽と行ってしまった。
頭ぽんって‥。
なんだか照れくさくて、顔が赤くなってしまうのだが?
まぁいいや仕事、仕事をしよう。
気を取り直して自分の椅子に座ろうとすると、エリスさんが細い目でこちらをじっと見ている?なんだろ?首をかしげると、ちょっと低い声で‥、
「男の子かな、女の子かな‥」
「エリス団長補佐、仕事して下さい」
うん、この人とっても肝が座っていると思う。
ライ君に「早く出動して来い!」と言われて追い出されるウルクさんを横目に私はとりあえず書類に取り掛かることにした。




