黙して語らない騎士、父にはまだまだ。1
キラさんと仕事でソマニへ行った際に、妊娠発覚。
それ以降、怒涛のような生活だった。
なにせ団長さん仕事が壊滅的に終わらない。
書類は友達!いつも一緒!‥じゃないんだってば!!
ガダの事もあったから、余計に忙しくて、王都とバリラ、ソマニと協議に決議に会議に、最後は和平の式典もあって‥なんかずっと話し合いに奔走していた気がする。
そうして、明日!ようやく団長さんは育児休暇に入る。
執務室でお茶を飲みつつ、綺麗になった机の上をしみじみと見る団長さん。本当に書類大変だった‥私も感無量の思いである。
「いやぁ〜、まさか書類が終えられるとはなぁ〜」
「そうですね、最後の追い込みようは凄かったです。団長さん、やれば出来るって分かったんで復帰後楽しみにしていますね!」
にっこり笑って、塩っぱいクラッカーと紅茶を出すと、団長さんの目が遠くなる。
「ナルさんも出産の準備大丈夫なの?」
「準備でしたら、もうニルギさんとキラさんとなんならルピスさんまでしてくれてます‥。産むのだけは、ナルよろしく!って、ニルギさんにいい笑顔で言われましたよ‥」
そう。
まさかの父、兄、そして夫が出産に向けて、鋭意準備中なのだ。
家に帰ったら、家の中の構造が変わっていて、完全バリアフリーになっていて、怪我一つしないような仕様に変わっていた‥。毎日、私は魔術師達と騎士の本気をまざまざと見せつけられている。
「医療魔術までニルギさんと、キラさんは極めようとしているから、全力で止めましたよ」
「あ〜、でも麻痺とか回復系の魔術使えると助かるんだけどね」
「多分止めたけど、密かにあの二人会得してますよ」
魔術と医療魔術は、別物らしく‥。
そっちはまた専門的に勉強して会得するものらしい。でも、キラさんとニルギさんは医療魔術の本を読んで「ここなら出来そうだな」「こっちの術は、攻撃の時に使えそうだ」と話していた。一体何を話しているんだ、何を。
ちなみに出産は、こっちの世界は帝王切開で済ませるそうだ。
麻痺の魔術を掛けてバサーっと切って、子供をお腹から出したらすぐ回復魔術を掛けるから、産後の肥立ちは悪くないらしい。そりゃ回復魔術あればなぁ‥。っていうか、出産の痛みを味わうのか?と、ちょっとドキドキしていたので、そこは素直に嬉しい。
「けど、こっちの世界の子育ての常識を全く知らないから、そこがちょっと不安なんですよね〜」
「ああ、そっか。ナルさん忘れてたけど異世界から来たしね〜」
「‥うっかり忘れないで下さいよ、最初は結婚しようとしたくせに‥」
「懐かしい〜!そんな事もあったね!」
あはって笑う団長さんを横目にお茶を飲んでいると、キラさんとライ君、弟のセラ君が書類を抱えて執務室へ入ってきた。
「あ、キラさん、お疲れ様です」
「ナル、体調は?」
「まるでどこかの携帯のように聞いてきますが、至って元気です」
これ、毎回キラさんがどこかへ行って、そして戻ってくると聞いてくるんだ。トイレから戻っても聞かれるんだぜ?シ●やアレ●サより心配性だと思う。
「ライ君とセラ君もお茶飲みましょうか!今、淹れますよ〜」
「あ、ありがとうございます!でも、ナルさん座ってて下さい!」
「いや、それくらいさせて。下手すると1mも歩かせて貰えないんで‥」
「ウルキラ〜〜、心配なのは分かるけど適度な運動大事だぞ」
団長さんに言われて、キラさんは「そうか」と一言話すと、私の手からポットを奪い取り、ライ君とセラ君と自分のお茶を淹れる。お茶くらい淹れさせてくれ。
「もう!キラさん!運動不足だとその後が大変なんですってば!」
「だが、怪我をすると危険だ」
「だ〜〜〜!!!話を聞いて!第一どんだけ魔術を私に掛けているんですか!」
キラさんを見上げてそう話すと、キラさんは少し考えて‥、
「106個くらい?」
「え、そんなに掛けてたんですか!??」
「最近は転ばない魔術をニルギと作って掛けた」
「本人に許可がない〜〜〜〜!!!」
うう!!父と息子の共同魔術!!
仲が良いのは良いけれど、私の自由もプリーズだ!
団長さんはそんな私とキラさんを半ば呆れるように見つつ、小さく笑う。
「まぁ、それだけ掛かってれば大丈夫だろ。僕もお父さんかぁ〜頑張らないとだなぁ」
なんて団長さんがニヤニヤ笑って話す。
そうか、団長さんはお父さんになるのか‥。そう思って、ふとキラさんを見る。
「キラさんがお父さん‥」
「ナルも母になる」
「そ、そうだった!!」
「そこの夫婦、しっかりして〜〜」
団長さんに言われたけれど、自分の事となるとまだまだ実感が湧かないんだよね。




