黙して語らない騎士は宝石を愛する。
明日はガダと和平を祝う式典がある。
なので、今日は大忙し‥なはずなんだけど、執務室で仕事をしているとキラさんが私に書類を渡しつつ‥、
「ナル、今日は外で食べよう」
「あ、仕事大丈夫なんですか?」
「問題ない」
キラさんの横で団長さんが泣きそうな顔で「早めに戻ってきて!!」って叫んでるけど、しれっと無視しているキラさん‥。相変わらずマイペースだなぁ、うちの夫は。
ちょうどお昼の鐘が鳴ったので、心配性のキラさんに手を繋がれたまま食堂へお昼ご飯が入った籠を受け取ると、いつもの訓練場の木の下まで二人で歩いていく。
すっかり秋空になって、季節の流れの早さに驚く。
こっちへ来た時は、まさかこんな風にキラさんと結婚したり、騎士団で仕事をしたり、子供ができるなんて想像もしてなかったな。少しひんやりする風と、高い空を見て感慨深く思っていると、キラさんがどこからかサッと取り出したカーディガンを私の肩に乗せる。あの、いつの間に???
キラさんにお礼を言うと、嬉しそうに小さく微笑む。なんていうか可愛い‥。過保護はすごいけど。
「もうすっかり秋ですね〜。前にニルギさんと、本格的に寒くなる前にソマニの海で遊ぼうって約束してたんですけど、式典が終わったらキラさんも一緒に行きましょうよ。パフェも食べたいし」
「‥それはいいが体調は大丈夫か?」
「元気ですってば〜。それに私もキラさんと行きたいです」
結局、今回妊娠発覚で海で遊ぶこともできずに帰ってきちゃったし。
それに団長さんが育休に入ったら、キラさんも忙しくなるだろう。
赤ちゃんが生まれたら、きっとしばらく慌ただしい日々になるだろうし‥その前にちょっとだけ遊んでおきたいなぁなんて‥。
木漏れ日を受けてキラキラと銀色の髪が光るキラさんを見上げると、キラさんはちょっと複雑な顔をする。あれ?もしかしてお出かけ嫌だったのかな?
「‥キラさん、無理だったら別に」
私がそういうと、キラさんは静かに首を横に振る。
「‥本当は二人、いや、三人が良かった」
キラさんの言葉に目を丸くする。それと同時になんだか胸の中がくすぐったくなる。
そうか、もうちょっとしたら三人になるんだ。
最初は私とキラさんと一緒だったのに、そこに新しい命「ウルリカ」が加わる。不思議な感じはするけど、それが嬉しくてへらっとキラさんに笑いかける。
「大きくなったら、そうしましょうよ」
「‥そうだな」
「あと一緒に馬にも乗りたいです!」
「そうだな」
「キャンプもしましょうよ!」
「それもいいな」
嬉しそうにキラさんは、私の額にサッとキスをすると、ニコッと笑う。
とはいえ無表情なので、ちょっと口の両端が動いたレベルだけど。
言葉が少ないうちの騎士様は、今日もあまり多くは語らないけれど、綺麗な水色の宝石のような瞳は「大好き」「楽しみ」「早く行きたい」「一緒に楽しみたい」と雄弁に沢山の言葉を語っている。
「キラさん、大好きですよ」
私はちょっと照れ臭いけどそう話すと、キラさんは水色の瞳を輝かせる。
その煌めく様が私は本当に大好きだ。
「‥俺も、大好きだ」
低い声が、嬉しそうに言葉にして私の唇にキスを落とす。
「ずっと」と「約束だ」って、言葉がちょっと風に邪魔されたけど、ちゃんと私の耳には届いた。そうして、聞こえたよ!とばかりに私はキラさんの手をぎゅっと握ると、今度こそ表情筋がちゃんと動いて綺麗な微笑みを見せてくれたのだった。
宝石のような瞳を煌めかせて。




