黙して語らない騎士に宝石を。18
ネリちゃんと連れ去られた私。
咄嗟にネリちゃんを庇うように立ち塞がると、馬車の向こうに立っていた数人の男性が驚いた顔をしている。
「な?!起きてるぞ!!?」
「1日寝てるはず‥」
一番手前にいる男性は驚いていたけれど、すぐ後ろにいた男性はニヤッと笑う。
「どっちにしろ連れて行くのは変わらない。女二人をガダに連れて行くだけだ。ほら、早く船に乗せるぞ。ダーナ様に知られたらまずい」
ダーナさんに知られたらまずい?
一体どういう事?ガダに連れて行こうって事は、きっと貴族側の人間なんだと思ったけど‥。ダーナさんって貴族側の人じゃなかったの?頭が混乱するけれど、ひとまずネリちゃんを守らないと。
男性の一人がサッと馬車に上がってきて、私は両腕を広げると守護魔法が発動したのか、バチン!!!と、大きな音を立てて馬車から男性を弾き飛ばした。
これには私も馬車の外にいる男性も驚いた顔をしている。
な、なんか前より守護魔法強くなってない!??
目を丸くしていると、馬車の外にいる男性達が唸りながら、「剣を持ってこい!」「槍だ!それか魔術師をこっちへ!」と、怒鳴りあっていて私は思わず足がすくんだ。
「最悪、騎士の女だけでも連れていけばこちらのもんだ。あの黒髪の女は殺せ!!」
馬車の外から睨みつけるような視線を受けて、背筋が凍りそうになったその瞬間、
「‥誰が、誰を殺すって?」
後ろからネリちゃんの声が聞こえて、驚いて振り向くと、縛られていたはずの手首からロープが足元に落ちていて、長剣を握っている。
「ね、ネリちゃん?!」
そう私が呼んだ瞬間、私の脇からネリちゃんがものすごい勢いで馬車の外へ飛び出して男性達を蹴り上げた。そしてそのまま剣で男性の脇腹を強く打ち、顎を蹴り上げ、そのまま流れるように男性の足を剣のみねの方で打ち付けると、ボキッと骨の折れる音がする。
ね、ネリちゃん〜〜〜〜!!???
騎士の卵って、こんなに強いの?驚いて体が固まっていると、どこからか馬の蹄の音がする。
誰か来た?!
もしかして敵がもっと来たんじゃ‥。
慌てて馬車の前の方へ駆け寄って前方を見ると、松明を掲げて馬に乗った誰かがこちらへ走ってくるのが見えた。
「ね、ネリちゃん‥、あの馬の蹄の音が‥」
「ああ、あれは大丈夫」
「大丈夫って‥」
「ダーナ卿だ」
「ダーナって!!!それって危険じゃあ‥」
一番会ったらまずい人じゃないの?!落ち着き払っているネリちゃんを不思議に思って、前方から馬に乗ってこちらへやってくる人を見て、目を見開く。
先頭の方に、ダーナさんと、ジェイ君‥、
そしてネリちゃんが馬に乗っている!!?
「ね、ネリちゃんが二人?!!」
「あっちが本物だ」
「え?!本物って‥」
ネリちゃんの小さく笑う姿に、ハッとする。
その笑い方‥。
「き、キラさん?」
私が目の前にいるネリちゃんにそう声を掛けると、クスッと笑う。
いつぞやの変幻の術を使ったの?!
驚いたままの私をおかしそうに笑いながら、キラさんは変幻の術を解いたのだろう。いつもの姿に戻って、私の方へ歩いてくる。
「ナルにはバレるな」
「いや、全然分かりませんでしたよ‥」
「ネリになりきれていたか?」
「バッチリ‥。え、いつから??」
「ナルが来てから」
「ちょーーーーーーっと待って!!!ずっと?!ずっと?!!」
「朝起こすのと、昼と夜に交代してた」
「いや、それ1日中じゃない?!!」
すんごい情報に私は目眩を起こしそうになる。
キラさん、一体いつ寝てるの?!
私を起こしに来たって、確かにネリちゃんでしたね!あれ、キラさんだったんですね!?キラさんはイタズラが見つかってしまった子供のように笑って誤魔化そうとするけど、そうはいくか!!
「キラさん!!ちゃんと休んでないでしょ?!」
「もう大丈夫だから休む」
「絶対ですからね!!もう団長補佐が倒れたら困るでしょうに‥」
「大丈夫だ。ノーツもいる」
「そんな場合じゃない〜〜〜〜!!!」
伝わって!私の心配!!!
そう思っていると、馬車からキラさんが私をヒョイッと持ち上げて下ろしてくれた。頼む、一言もプリーズ!!
「ナルさん!大丈夫でしたか!?」
ネリちゃんやジェイ君が馬から降りて、こちらへ駆け寄る。
うう、若い騎士さん達よ、ありがとう〜〜。私は笑顔で頷くと、ダーナさんが馬から降りて私の前で片膝を地面につけて跪く。
「ダ、ダーナさん!!??」
あ、この場合はダーナ様か?!皇族だし!って思って、「ダーナ様」って言い直すけど、ダーナさんは首をゆっくり横に振る。
「今回も多大なご迷惑をお掛けして申し訳ありません‥」
「い、いえ、私は全然‥。キラさんがいてくれたし無事です」
「今回だけでありません。前回も植物の件だけに飽き足らず、何度もシーヤやティルにご迷惑を‥」
わ、わかった!!
わかったから、体を起こしてくれ〜〜!!!
大の男の人に跪かれて、私は心中穏やかでない!そんな畏まられる人間でもない!助けを求めるようにキラさんを見ると、キラさんは静かに頷く。
「ダーナ卿、体を起こして下さい。まずはナルを休ませたい」
「そうじゃなーーーーーい!!!!!」
私の叫びが夜空に木霊したのは言うまでもない。




