黙して語らない騎士に宝石を。17
キラさんが心配して訪ねに来てくれたけど、ガダの方で色々動きがあったらしい。団長さんもバリラの団長さんのヴァンさんやルーシェさんと相談しながら動き回っているらしい。
「‥ライ君やセラ君、大丈夫かな‥」
「事務員がかなり入って執務室を助けているらしい」
思わず呟いた言葉にキラさんもちょっと遠い目になる。
絶対、書類帰ったら山積みになってるよねぇ‥。
仕事が終わらないんだろうなぁ〜と、私とキラさんは思ったさ。キラさんは私の頭をそっと撫でると、キリッと真面目な顔になる。
「‥絶対に仕事を絶対終わらせる」
「決意に滲んだ顔してますね」
「そうして一緒にゆっくりする」
「やっぱり目的はそこか」
キラさんのブレないそういう所、本当好きですよ‥。
お互いに顔を見合わせて小さく笑うと、キラさんはまた仕事へと向かっていった。
シンと静かになった部屋のベッドにコロッと寝転がる。しばらくぼーっとしていると、ドアの向こうからノックする音が聞こえた。
「はい」って返事をして、時計を見るとまだ夜の9時。
ベッドから起き上がって扉を開けると、ネリちゃんが大きな花束を抱えて困った顔をして立っている。
「ネリちゃん、どうしたの?」
「‥ダーナ卿からナルさんへ贈り物だと‥」
「ああもう!ごめんね、ネリちゃん‥」
仕事をしろ!仕事を!!全くキラさんに言いつけてやる!そう思いつつ、ネリちゃんから花束を受け取ろうと手を伸ばす。
と、ふと違和感を感じる。
この花束の中の植物‥、見間違いでなければ前回私達を襲った植物の葉っぱに似てない?ドキッとして、その花の蕾をみる。そう、ここから目が開いて‥、そう思った瞬間、花の香りが強まって、目眩と吐き気に襲われる。
「ナル!!!」
誰かが遠くで叫ぶ声がしたけれど、一瞬で視界が暗転した。
ガラガラ‥と、物音がして目を覚ます。
薄暗い何かに体が揺すられている?
ぼんやりした頭で、目を開けると私の手の甲の上にキラさんの名前がキラキラと光っていて、その光のおかげで自分の体の前で手首がロープで縛られているのに気付く。縛られてる?!一気に覚醒して、ぱちっと目を開ける。
え、ここどこだ?!もしかして連れ去り?!
フランさんの家は、警護されていたはずなのに‥。ネリちゃんは大丈夫かな‥。そう思うと、心臓がドクドクと言い出す。どうか怪我していませんように。小さく深呼吸して、薄目で周囲を見回すと、目の前にネリちゃんが寝ている姿に思わず叫びそうになった。
ね、ネリちゃんまでいる?!
な、なんで??!!あ、そういえばダーナさんがネリちゃん気にしているって言ってた!!あ、あんの野郎〜〜〜!!!こんな年端もいかない乙女を連れ去ろうとしてたってこと!??
そっとネリちゃんの口元に手を当てると、静かに呼吸しているのに気付いてホッとする。多分、同じように毒か何かで気を失っているのかも‥。私の場合は、キラさんの守護魔法で毒の解毒までサクッとできるから目を覚ますの早かったと思うんだよね。
キラさん‥。
名前を呼びたいけれど、足元に人のいる気配に口をぐっと引き結ぶ。
おそらく馬車の中なのだろう。息を殺すように、周囲を見回すけどまだ夜らしい。きっと夜明けまでには解決する。そう思っていると、馬車がだんだんとスピードを緩める。
と、ボソボソと会話が聞こえる。
「ダーナ様は?」
「屋敷にいる」
「よし、このまま計画通り船に乗せるぞ」
「奥方はどうする?こっちは計画にはなかったろ」
「人質として連れて行く。利用できる」
なんつ〜物騒な話をしているんだ!
でも、私よりもネリちゃんがまるで目的のような話に眉を潜める。
だって、ネリちゃんって普通の一般庶民だよね?なんでそんなに拘るんだろ‥。私はキラさんの奥さんだから、利用しようとするのはわかるけど。
と、馬車がガタンと音を立てて、止まる。
波の寄せる音と、潮の香りにサッと青ざめる。まずい!ネリちゃんが連れていかれる!いや、私もまずいんだけど。男の人達が一旦馬車から降りて行ったのを確認して、ガバッと起き上がる。
「ネリちゃん!ネリちゃん、起きて!!」
私が声をかけて体を揺すると、ネリちゃんの目がすっと開く。
良かった‥。そんなに強い毒じゃなかったみたい。とはいえ、ネリちゃんはまだぐったりと横たわっている。
「ここは?」
「港か、どこかの浜かな?ガダに連れて行くって口ぶりだった‥」
そう話した途端、向こうから誰かが歩いてくる音が聞こえた。
ハッとした瞬間、馬車の後ろに掛けられていた布が払われて、私は瞬間ネリちゃんを庇うように立ち塞がった。




