黙して語らない騎士に宝石を。13
商会で仕事をしようと思ったのに、その商会の前には本日フランさんのお屋敷でお話をする予定のガダの皇族であらせられるダーナさんが、何故かにこりと優雅に微笑んで立っている。
えーと、しかも皇族だけど、しょっちゅう攻撃する貴族側の人なんだよね?なんでそんなキラさんがいたら、絶対近付く事も出来ないような人がここに?!冷や汗が出そうな状況に引きつりつつニコッと笑う。
「ええと、ダーナ様はどうしてこちらへ?」
「少し散歩をしていまして、ちょうど昨日お見かけした可憐な花がいらっしゃるので、つい馬を止めてしまいました。貴方はあのウルキラ団長補佐の奥方だそうですね‥。今回の会議の為に警護をして頂いて感謝しております」
も、もったいないお言葉です‥って、なんとか言葉を捻り出したけど、助けてキラさん!!なんかじっとり見つめられて、私は大変怖いです!!
ダーナさんはニコニコ笑いつつ、今度はネリちゃんを見る。
「これはこれは、女性騎士の方ですか?」
ネリちゃんはハッとした顔をして、胸に手を当て頭を下げる。
「今回、こちらの警護を務めさせて頂くネリと申します」
「ふぅん?こちらも可愛いお花ですが‥、ああ、ちょっと失礼?」
「は?」
ダーナさんはネリちゃんの髪に触れようとして、指先を伸ばす。
ネリちゃんの体が不意にビクッと跳ねて、私は思わずネリちゃんを自分の方へ引っ張った。
「何か?」
ジロッとダーナさんを睨むように見つめると、ダーナさんは面白そうにニコッと笑って‥、
「ああ失礼。あまりに綺麗な赤い髪で、燃えるように熱いかちょっと触ってみたくなってしまいまして‥」
それはセクハラです!!!!
声を大にして叫びたかったけど、あっちはこっちに話をしにきた皇族の一人だし、噛み付く訳にもいかない。うまい事、嫌味でも言ってやりたいけどそんな知恵が咄嗟に回る訳でもない。私はダーナさんを睨みつつ、
「私の大事な生徒でもあるので、そんな風に軽々しく触らないで下さい」
「これは失礼。でも、あまりに綺麗な花は触りたいものですよ?」
自制して!!!
そう思うけど、ネリちゃんがどんなに可愛くても貴方結構な年上ですよね?セクハラもセクハラだし、大人としてモラルとかないの?すると、ニルギさんが私とネリちゃんの前に割り込むように入ってくる。
「‥ガダの人間は、もう少し口説き方を勉強するべきでは?」
「おや、手厳しい」
「何、ちょっとした忠告だ。可愛らしい花はそんな言葉では靡かないとな」
お、おお、ニルギさんが格好いいぞ!?
私はニルギさんとダーナさんを交互に見ていると、ジェイ君が剣の柄に手をかけそうだ。やめて!!刃傷沙汰はまずい!ダーナさんのすぐ横に立っている騎士さんも一触即発の雰囲気に即抜刀しそうで、私は目眩を起こしそうだ。
ダーナさんは私のそんな顔を見て、面白そうに笑うとすっと後ろに一歩下がる。
「久々の外出に浮かれてしまいましたな。失礼した‥ニルギ殿」
「名前を知っているとは、光栄です」
「ニルギ殿は稀代の魔術師。知らないなど逆に不敬では?」
「それはそれは‥」
「ふふ、今度は花達のお誘いの言葉でもご教授願いたい。さて、そろそろ時間だ。失礼する」
その言葉にホッとして、小さく息を吐く。
ダーナさんは私を見て、もう一度ニコリと微笑む。
「今度はご一緒にお茶でもしましょう」
「‥‥主人が一緒であれば」
「ふふ、もちろんです」
なんとか出てきた言葉にダーナさんはクスクス笑って、馬車に再び乗る。
そうして、あっという間に馬車は私達の前を通り過ぎていって‥、今度は大きく息を吐いた。
「びっっっくりした!!!な、なんですか、あれ!!!ネリちゃん大丈夫!?」
「‥私は大丈夫です。申し訳ありません。庇って頂くなんて‥。本来は守る者なのに‥」
ネリちゃんが悔しそうに拳を握る。
私もそんなネリちゃんを見て、悔しく思う。女性だからってあんな簡単に触れようとするなんて!失礼すぎる!しかも仕事をしているのにナンパ?ナンパだよね!??私まで両手をグッと握るとニルギさんが私の頭をぽんぽん叩く。
「ニルギさん‥」
「まぁ、そんなに怒るな。だがネリ‥お前は少し気をつけた方がいい」
「は、はい!」
「ジェイもよく我慢したな。ああいう場面は残念ながら何度でもある。だが剣は本当に必要な時に抜け。それを見極めろ」
ジェイ君も悔しそうに小さく「はい」と返事をする。
そうだ、ジェイ君もよく耐えたな‥。私よりずっと若いのに状況を汲んでいて、すごい。そう素直に思って私はジェイ君とネリちゃんを交互に見る。
「騎士さん達、ありがとう。私も一緒に頑張るね!」
そう言うと、ネリちゃんもジェイ君も小さく笑って頷いた。
横にいたニルギさんが「商会の部屋におやつはあるか?」と言うので、カバンに入れておいた飴を渡すと満足げに笑った。うん、ニルギさんもありがとう。




