黙して語らない騎士に宝石を。12
キラさんは本当に忙しいらしい。
いつもだったら私を部屋まで送るんだろうけど、本当にお茶を一杯飲んで仕事へ戻るそうだ‥。フランさんとニルギさんと明日の打ち合わせをして、私をちょっと寂しそうに見つめる。
「‥もう行かなければならないが、無理しないように」
「大丈夫ですって‥。キラさんもちゃんと休んで下さいね」
「‥ナル」
キラさんに微笑みかけると、キラさんはぐっと険しい顔になる。
え?何?お腹でも痛い感じ??
「‥これが半年‥」
「オッケー、キラさん。仕事に戻ろうね?」
うん、離れがたいのね‥。
ただ今回は仕事の内容が相当ヘビーだからね?頑張ろうね。
「お仕事ひと段落ついたら、ゆっくりしましょうね」
「‥ああ」
「今日食べた果物のパフェ美味しかったんで、一緒に行きましょう!」
「必ず」
キラさんは小さく微笑むと、私の頭を撫でてから立ち上がる。
う、流れるように撫でたな?
ちょっと顔が赤くなるけど、キラさんはいつも通りの無表情である。‥心なしか背景にお花が飛んでるけど。
「‥ニルギ、フラン、ナルを頼む。ジェイ、ネリ、交代の騎士が来るまで気を緩めないように」
ニルギさんはいつものように「はいはい」と呑気に返答し、ジェイ君とネリちゃんは顔を引き締めるけど、そんなに気を遣わせなくても‥。でも練習だし仕方ないのか?
キラさんは最後にちょっと微笑んでから、また仕事へ戻って行った。やっぱり忙しいんだなぁ‥。
「さて、明日も早いし、そろそろ休んでおくか」
「そうですね。じゃあネリちゃんお部屋までお願いします?」
「はい!お任せ下さい!」
キリッとした顔でネリちゃんが返事をしてくれて、フランさんとセトリさんに挨拶をしてからニルギさんと一緒に部屋まで戻った。それぞれ別れてネリちゃんは、今日は交代で他の騎士さんと扉の前で警護するというのでめっちゃ驚いた。大丈夫なの??
「結構慣れているんで大丈夫ですよ!」
「さすが騎士の卵‥」
力強いネリちゃんの言葉に感心してしまう。
挨拶をしてから、ベッドに潜り込む。明日は起きられるかなぁ〜。ちょっと心配だけど目を閉じるとあっという間に寝てしまった。
そうして翌朝、なんとネリちゃんが朝起こしてくれた。
「ウルキラ団長補佐に一応気にかけて欲しいと言われて‥」
「な、何から何まですみません!」
「いえ、私も練習させて頂いているのでこれくらいは‥」
そうはいっても私より既に仕事をしているのに‥。
もう!キラさんってば、過保護すぎる!!
ちょっと赤い顔になりつつ、急いで起きて支度をして昨夜の豪華な食堂へ行くとフランさんとセトリさん、ニルギさんがもう座っている。うう、朝に弱くてすみません!
「おはようございます!すみません遅くなって‥」
「いやいや、俺も今さっき来た所だ。今日は食べられそうか?」
「健康管理まですみません‥」
ネリちゃんに起こしてもらい、ニルギさんには健康観察までして頂いて申し訳ない‥。美味しい果物の盛り合わせだけでお腹一杯になってしまって、ジェイ君に「肉とか食べないんですか?」って本気で心配された。‥流石騎士の卵。もうお肉が好きなんだんねぇ‥。
フランさんとセトリさんは、このままダーナさんの出迎えをする為、お屋敷に残るそうで‥私とニルギさん、ネリちゃん、ジェイ君で商会の方で用意してもらった部屋で仕事をする事になった。
「‥ダーナ卿とやらが何を考えているか分からんからな。ひとまずナルは会わないようにしておくべきだろう」
と、ニルギさんが言うので頷いた。
だってキラさんなんか、昨日警戒レベルかなり上がってたし‥。
そうして、用意して貰った馬車に揺られて商会へと走っていく。
今日も晴天!青空が綺麗だ。キラさん、晴れ男だもんな〜!今日は会えるかなぁ〜なんて思いつつ、商会へ着いてネリちゃんと一緒に馬車から降りると、そのすぐ後ろに馬車が止まった。
黒塗りの豪華な馬が4頭もいる馬車に、目を見開く。
な、なんかすっごい豪華だな?!
すると、ネリちゃんとジェイ君が私の前にさっと立ち、後ろにニルギさんが控えるように立つので思わず緊張してしまう。えっと、なんでかな?そう思っていると、黒塗りの馬車から御者さんが扉を開けて人が出てくるのが見えた。
茶色の長い髪に緑の瞳。
そうして外国の方だなって一目でわかる衣装を着ているダーナさんは私を見ると、にこりと笑う。
「おはようございます」
「お、おはようございます?」
私の間違いでなければ、確かダーナさんはフランさんのお屋敷を訪ねる予定では??頭に疑問符を出しつつ、微笑んだけど‥多分、いや、絶対口は引きつってたと思う‥。




