寡黙な副団長の独り言。
キラさん視点です。
ナルと会ったのは、森の中だった。
狼の群れの中にいるのに、取り乱すわけでもなく、なんとか静かに逃げようとしていた。
助け出してみると、長い黒髪に、黒い瞳、少し小柄な異界人の少女だった。
じっとこちらを見る瞳が綺麗だな・・と、珍しく思って、近くの町の騎士団に保護してもらう手もあったが、ティルトまで連れて行く事にした。
ナルは、言葉の少ない自分が何を考えているんだろう・・と、思うのか、じっと俺を見つめる。その度、ドキリとするが、ナルは驚いたり、喜んだり、楽しそうに笑うので、俺もずっと見てしまう。
シーヤに近づけば近づくほど、団長のことが頭に浮かぶ。
異界人を保護すると、団長はすぐ結婚し、すぐ離婚する。何かしら理由はあるのだろうが、シーヤに着いたら、ナルも結婚するのだろうか・・。胸が掻き乱されそうになるが、異界人を保護しないと危険なのは百も承知だ。
何も知らないナルを守りたい・・、たった3日一緒にいただけなのに、強く思っていた。
もう・・、その頃に恋に落ちていたんだと思う。
団長の元へ連れて行くと、案の定、結婚すると言い出したが、了承できるはずがなかった。ナルも迷っていたようだし・・、判断は間違っていなかったと思う。
騎士団で働く事になって、制服を着たナルは可愛くて・・
団長が近付くたびにイライラするので、魔法をかけておいた。
誰も触るな。近付くな。
ニルギが魔道具でナルの身を守る道具を作ってくれて、少しホッとした。
一人では守りきれないし、ナルのそばにずっといることは出来なかったから・・。魔力を毎日流すたび、少し恥ずかしそうに目を伏せるナルが愛おしくて仕方なかった。
照れくさそうに弁当を届けてくるナル。
木陰でちょっと目を逸らしながら、俺を待っているナル。
ずっとずっと見ていたくて、あの黒い瞳を覗き込んでしまう。
野菜を食べるついでに指を舐めると、ナルは真っ赤になって叫ぶ。
俺を意識して。
俺を見て。
俺を好きになって。
バカみたいにナルを見て、逃げ回るナルを捕まえたくて、いつも探してしまう。こんな感情があったんだな・・と、自分でも驚いた。
そう思ったら、好きだと・・抑えられない気持ちが口をついた。
真っ赤になりながら、ナルがうなずいてくれた時、嬉しくて、愛おしくて、キスをした。こんなに胸が痛むのも、嬉しくなるのも、ナルだけだった。
団長から状況が悪くなっていると話を聞いたその夜、ナルの気配が消えた時は、一瞬、足元が真っ暗になった。
攫われた可能性が大きいとニルギに言われれば、団長と目星を付けていた所へ馬を走らせる。タチの悪い傭兵団を雇っていたが、すぐに倒し、魔法の気配を辿ってナルを見つけ、剣を振り上げられた姿を見た時・・怒りで頭が真っ白になった。
そのまま斬り倒したかったが、ナルの前だ・・・。
顔に魔物の血が付いているだけで、慌てるナルを怖がらせたくない。
ようやっとナルと騎士団へ帰ってきた時は、ちゃんといるか・・と確認して、夜、同じベッドで眠らないと不安で仕方なかった。叫ばれたけど・・、真っ赤になって照れるナルが可愛かった・・。
その後、遠征前日の夜、会いたかったのに、ろくに会えず・・団長にからかわれた時は、心底蹴っ飛ばしてやろうかと思った・・。
朝、掠めるようなキスしかできなくて・・
少し泣きそうな顔をしているナルから離れるのが辛かった。
笑顔を見るだけで、
拗ねた顔を見るだけで、
ちょっと照れている姿を見るだけで、
こんなにも俺の心を乱してる事をナルは、きっと知らない。
俺は言葉も、表情も少ないから・・。
遠征から一足先に帰ってきた俺は、部屋にいるナルに一瞬驚いた。
会いたかったナルがいて、嬉しくて、触れたくて・・。
会いたかったと気持ちを伝えると、嬉しそうにキスに応えてくれたナルが愛おしい・・、離れていた分を埋めるように、大好きだと、ずっとそばにいたいと、想いを込めるようにキスをした。




