黙して語らない騎士、欲しいもの。5
ギュウギュウと私を抱きしめていたキラさんが、満足するとようやく私を離してくれたけど‥、お陰様で私の顔は真っ赤です。ううう、恥ずかしい。
水色の瞳は嬉しそうに私を見て輝いている。…無表情だけど。
「キラさん、お疲れ様です!」
「ああ」
「えっと、皆さん寒いかなってココアを作っておいたんですけど‥」
「順番に飲むように話しておく」
「あ、じゃあ取りに来て貰ったらお菓子を渡そうかな」
そう言うと、キラさんが私をじっと見つめる。
「も、もちろんありますよ」
あ、あとで!!そう話すとキラさんは嬉しそうに微笑む。
く!!可愛いか!!
お仕事がひと段落ついた騎士さん達がテントへ入ってくるので、カップにココアを注いで渡すのと一緒にお菓子も渡すと、騎士さん達がワッと喜びの歓声を上げる。そ、そんなに嬉しいのね。
「本当に!!チョコがどこにもなくて!!」
「見つけられなかった時は、絶望しかなかったよな‥」
「あったんだ、チョコは本当にあったんだ!!!」
そう、口々に話す騎士さん達。ええと、この為にニルギさんがバリラまで行って買って来たチョコなんで味わって食べてください。
そして、やっぱり用意しておいて良かった。次回は友チョコの文化もフランさんに広めておいて貰おう‥。でないと、確実に死人が出ると思う。私がカバンの中から、お菓子を取り出すと皆に一つずつ手渡しして、最後にキラさん用にと特別に作っておいたのを渡そうとすると‥、
私の手に何かが触れた。
あれ??
思わずもふっとした感触を不思議に思って、カバンの方をもう一度見ると小さな白い子グマみたいのがいる。
「は??」
驚いて目を丸くした途端、キラさんのチョコの入った袋を咥えた子グマが走ってテントから飛び出して行く。
「き、キラさんのチョコ!!!」
そう叫んだ瞬間、すでにキラさんがテントへ飛び出していった。
は、早い!!っていうか、今の何???呆気に取られていると、ニルギさんが横で大爆笑している。
「あ、あれ、この辺に住む獣だ‥」
「ま、魔物ではないんですね?」
「冬に餌がないかってうろついてたんだろうなぁ。大胆だな!」
騎士さん達は私から受け取ったチョコ菓子を持って「ま、まずい!」「よりにもよってウルキラ団長補佐のを!!」「食べられてたらどうする??!」そう話して、
シンと静まると‥、
一斉にチョコ菓子を「団長補佐すみません!!」と言って食べ始めたので、ニルギさんはまたも大爆笑した。そんなにか!そんなにチョコ食べたかったのか!
大丈夫‥。
もし食べられてても、キラさんには何か用意するよ。
思わず苦笑いしたけど、まぁ、チョコを溶かしたココアもあるしね。
少しするとキラさんが、ちょっと雪を被って戻ってきたが、チョコは残念ながら少し食べられてしまったらしい。
緊張の走った騎士さん達だけど、チョコは皆完食済みである。無情だ‥。キラさんは無表情なんだけど、すごく‥、ものすごくしょんぼりしているのが分かって、ニルギさんはまた笑いを堪えるのに必死なのか口元を抑えて体を震わせている。
‥まったくもう‥。
私はキラさんを手招きすると、隣の席に静かに座る。
「‥取り返せなかった‥」
「まぁまぁ、子グマにもバレンタインデーのお裾分けって事で」
そういって、温め直したココアをそっと渡した。
「これ、チョコ入りです」
そう言うとキラさんの顔がパッと輝く。
「あとですね、帰ったらまたチョコ食べましょう。ホワイトデーもありますし‥」
「ホワイトデー?」
「ああ、それはフランさんには言ってなかったんですけど、頂いたお返しにまたお菓子を渡すんです。言うなれば、もう一度ある仲良くなれるきっかけイベント‥敗者復活戦?あるいは、仕切り直し?」
そう言うとキラさんの顔が完全に復活した。
笑顔である。
表情筋が動いて、笑顔である。
騎士さん達も、今回のチャンスに賭けていたクリスさんも後ろでおお!!!とガッツポーズである。‥これはホワイトデーもちゃんとフランさんに告知しておいて貰おう。あと、チョコとかお花とか限定しないで貰おうと強く誓った。




