黙して語らない騎士、欲しいもの。1
「チョコがない??!」
私がお店に買い物へ行くと、チョコがない!
どこにもない!!
全くもってチョコがないのだ!
バレンタインデー効果なのか、普段チョコを買わない人まであちこちチョコを買い出し、店頭に出したら即完売。未曾有のチョコ恐慌!!
ど、どうしよう!!
キラさんと、ニルギさんのチョコは早めに用意しておこうと思って用意はしてあるけど、騎士団員さんのが全く確保できてない!!これではバレンタインデーが終わった日の夜とか、翌朝…多分、いや、死人続出確定では??
ひとまずお店にチョコが確保できたら、せめて一枚!!
一枚だけでも取り置きして欲しい!ってお願いしておいたけど、お店の人もチョコが全く確保できなくて、ちょっとパニックらしい。今日だけでも何人もの女性に「チョコは!?」「なんでないの!?」と詰め寄られたらしい。
どうしたものか…。
ニルギさんか、フランさんに相談しようと思って、3時のオヤツはチョコはないけどシュークリームを買って帰った。なんかマリーアントワネットの気分だな。
執務室の扉を開けると、ニルギさんが険しい顔をして私をみる。
「ただいま戻りました〜?」
「ナル!!大変だ、チョコがない!!」
「開口一番、ニルギさんですね‥」
「今日、いつものチョコのお菓子を買いに行こうとしたら全部売り切れていた!」
「やっぱり?だから団員さん達の分をどうしようかと思って‥」
「なんで王都まで行ってきた」
行ったの!??王都に??
あ、転移の魔術を使って行ったんですね!?目を丸くしてチョコへの情熱を燃やすニルギさんを見ると、すぐにシュンとした顔になる。
「‥王都でもバレンタインデーの風習が行き渡っていて、有名パティスリーでもチョコの確保に苦戦しているらしい」
「‥フランさんのポテンシャル凄すぎません?」
私が思わず呟くと、執務室の机で仕事をしているフランさんはちょっと照れ臭そうに笑って‥、
「兄と、あとセトリで大々的にイベント告知をしまして‥、チョコを買った人の中にソマニの高級ホテル一週間宿泊!なんて特典もつけたんですよ〜」
「そ、それだ〜〜〜」
私とニルギさんが笑顔のフランさんの前でへなへなと座る。
ソマニの高級ホテルで一週間宿泊かぁ〜。そりゃ買うわ。そして私もソマニにまた行きたいなぁ。
ニルギさんはちょっと考えて‥、
「逆に田舎へ行けばそこまで情報が行き渡っていないから、チョコも確保できるのでは!?」
「あ、じゃあ、ニルギさんチョコ見つけたら買ってきて下さいね!」
「何キロ買う?」
「き、キロ??!でも、確かに食べるしなぁ〜〜」
団長さんがそれを聞いただけで、気持ち悪そうな顔をするのでしょっぱいチーズを渡しておいた。そんな私とニルギさんの話を聞きつつ、ライ君が心配そうに私を見て、
「なんかバレンタインデーって、結構大変なんですね」
「そうなんだよ〜。近年はそういう習慣を廃止しようって動きもあるんだけど‥、やっぱり楽しくてついやっちゃうんだよね…」
「男性は渡さないんですか?」
「あ、私の世界では海外では男性も渡してたよ。お花とか、やっぱりお菓子とか?」
そう話すと、フランさんの目がまた光る。
「ナルさん、その辺り詳しくお聞かせください」
ヒィ!!!これ以上チョコがなくなったら困る!!
ニルギさんが私に「花だ!ナル、花束を渡すとだけ言っておけ!!」と必死である。お菓子大好きだもんね。
まぁ、もう一週間しかないし、男性側も渡すなんて周知の事実にするのは困難じゃない?って思ってたんだけど、甘かった。チョコレートよりも甘かった。翌日の昼過ぎには騎士団員の皆が、練習後の片付けをしつつ、
「バレンタインデーは男性側から渡してもいいらしいぜ!?」
「まじか!!な、何用意する?!」
「花束らしいぜ!」
「うわ、早めに買いに行かないと?!でも切り花は持たないよな?」
‥なんて会話をしているし、なんなら横にいるキラさんが「用意しておく」って、どこかへ戦いに行くの?!ってくらいの決死の覚悟を決めた顔で私に話すけど、ちょっと待ってくれ!!キラさ〜〜〜ん!!?




