黙して語らない騎士は過保護。9
朝早く遠征組は出発だ。
私はキラさんが起こしに来る前に準備して、倉庫の方へ向かって廊下を歩く。フランさんが荷運びの最終確認をすると言ってたので、手伝いに行くと話していたのだ。
階段を下りようと扉の前を通った瞬間、手首を掴まれ、「え、」と、言葉になる前に、部屋へ体が引っ張られる。
「・・・キラさん・・」
ギュウッと抱きしめてきた人を見上げると、キラさんだった・・。
ちょっとびっくりした・・。
「・・昨日、会えなかった」
「・・・すみません・・、仕事が忙しくて」
嘘だけど・・。
なんだか昨日の女の子の様子を見ていたら、どうにも会いたくなくて、避けてたけど・・・。
キラさんは、長めの前髪から私をじっと見つめる。
「キラさん、あの、仕事に行かなくちゃいけなくて・・」
私は、思わず目を逸らす。
もう出発だし、笑顔で送りたい・・と思うのに、ちょっとまだ苦しくて、腕からどうにか抜け出せないかな・・と思ってしまう。キラさんの腕の中はビクともしないけど・・。
「ナル」
キラさんの静かな声が、胸をぎゅっと掴む。
もうやだ。
ただ、昨日の事を聞けばいいだけなのに・・、言葉にできないくせに。一人で勝手に苦しくなってる。
「キラさん、あの、本当に・・」
あ、ダメだ・・。
なんか泣きそうになってる。
せめて笑って見送ろうと思ってたのに・・。
と、走ってくる足音が近づいてきて、扉の方を見る。
「ウルキラ!!魔物が近くの村を襲っている!!すぐ行くぞ!!」
団長さんの焦った声が聞こえて、事態の緊急さを伝えてくる。
私はキラさんを見上げる。
「すぐ行く」
キラさんは、さっと私を離す。
「い、いってらっしゃい・・」
咄嗟にそう言うと、キラさんは振り返って、私の腕を引っ張ると掠めるようにキスをする。
「・・・・!」
私が驚いた顔をすると、水色の瞳が少し寂しそうに見ている。
「・・行ってくる」
キラさんは、扉を開けたまま走って行く。
ポツンと私を部屋に残して。
慌ただしく騎士団の一行は遠征へ向かって行った。
見送った人達も、なんだか心配そうで、私は不安になった・・。
ちゃんと挨拶もできなかったし、顔も見られなかったし、そう思うと後悔ばかりが押し寄せて来て、団長さんの「命は無限じゃないから」・・なんて言葉まで思い出してしまって・・。
つまらない感情で、キラさんと過ごす時間をなくしたのは自分なのに・・・。
仕事があったのは本当に良かった。
沈む気持ちに何かをしていないと、後悔でいっぱいになりそうだったし。
フランさんは私を心配してくれたけど、手元を無心で動かしていると、何も考えなくてよくて・・。
窓の外を見ると、すっかり夕焼け空だった。
明日も晴れるのかな・・。キラさん、大丈夫かな・・。そんな事を考えつつ、早く帰ってこないかな・・と思った。
日が経つにつれ、食堂でご飯を食べていると、他の騎士さん達が
「結構、魔物の数多かったらしい」とか、「村の被害は少なくて済んだ」とか、「もう少し森の奥へ行って、討伐するらしい」とか、話す声が聞こえた。
誰かが怪我したとか・・、そう言う声でなくてホッとする。
宿舎の部屋へ戻ると、キラさんを思い出してしまって・・。そもそも寮で暮らすって言ったんだし・・と、思って、お休みの日に引っ越した。荷物は驚くほど少ないので2往復して終わった。
1週間経ったら、すぐ戻ってくると思っていたけど、
2週間経っても戻ってこなくて・・ため息が思わず出る・・。
フランさんに、荷物を訓練場まで持っていって欲しいと言われて、訓練場へ向かうと見覚えのある茶色の髪をした女性が立っていた。くりっとした瞳で私を見るので、私はドキっとしてしまった。




