黙して語らない騎士、呼んで欲しい。3
お茶休憩したら、早速団長さんがヴァンさんとルーシュさんを見学に連れていく。
クリスさんと、ノーツさんも騎士団の訓練場を見学する為に足早に支度をしに行った。‥キラさんは、今回団長さんが案内するので、執務室へ残って団長さんに代わって書類仕事だ。
私はフランさんとカップを片付けて、執務室へ戻るとキラさんが何か言いたげな顔をしているのに気付く。わかる、わかるぞ〜〜。その顔は名前を呼んで欲しいという顔だな?
しかし仕事中の手前、言うべきか悩んでいるな?
流石に結婚して一年だし、分かるぞ。
ちょっと笑ってキラさんを見て、書類を持っていく。
「‥キラさん、書類お願いします」
私がそう言うと、キラさんの顔がパッと明るくなる。
もちろん無表情だけど、私には明るくなったように見える。ちょっとおかしくて小さく笑うと、キラさんも小さく微笑んだ。‥ま、今はフランさんとキラさんという限られた人数ですしね。
騎士団の見学と、周辺の案内を団長さんとクリスさんで行く事になっていたけど‥、団長さん達のお昼を食堂へ取りに行く途中、クリスさんに呼び止められて‥、
「‥団長が、ルーシュさんは女性なので、何かあった際にすぐ話ができるナルさんにも同行して欲しいそうです」
「「えっ…」」
あの厳しそうなルーシュさんとかぁ〜〜。
ちょっと腰が引けるけど、仕事だ‥。
クリスさんは私の表情を見て、申し訳なさそうな顔をする。いいのよ、クリスさんは悪くない。悪いのは団長さんです。
キラさんが怖い顔をしそうだな‥って思いつつ、お昼をキラさんに渡して午後は出かける旨を伝えたら、案の定、怖い顔になった‥。
お昼を執務室に届けて、私も手早くお昼を済ませると身支度して、急いで騎士団の玄関前に行く。
思ったよりも忙しくなりそうだな〜。
団長さんは、すでにヴァン団長さんやルーシュさんと話をしていて、他の竜騎士さんや、クリスさんなんかも集まっていた。
「すみません、遅くなりました」
私が騎士さん達の元へ走っていくと、ルーシュさんが私をキッと見て、
「「時間厳守!!10分前行動だ!!」」
「は、はい、すみません!」
ひ〜〜〜!!
いきなり怒鳴られたけど、私さっき貴女様のお昼を片付けてましてね???シーヤの騎士さん達が私を心配そうに見ているけど、すみません‥、大丈夫ですから。
ヴァン団長さんがニコニコ笑って、私を見て‥
「ルーシュ、ここはうちの騎士団じゃないんだから、キリキリしなさんな。ごめんな〜」
「「その緩みが大事になる事もあります!!」」
うん、分かった。
分かったから、お願い、私を挟んで話さないでくれ。
遠い目をしていると、ニルギさんが手招きしてくれたので、速攻で逃げた。そそっとニルギさんの横に並ぶと、
「ウルキラが心配してた」
「‥ありがとうございます〜」
ニヤニヤ笑うニルギさんにお礼を言って、ポケットの中の飴を一つ渡しておいた。
街の周辺を案内するけど、バリラとシーヤは随分と違うらしい。
なんでも湖や滝が多い国だそうだ。
水が豊富なので、竜が棲みつき、竜と共存しながら生活しているらしい。そうなんだ〜〜!
ルーシュさんは、海を見て、
「シーヤは、ガダと海を隔ててはいるものの、距離は近いので油断はできないな」
厳しい顔で、そう話す。確かに‥。ソマニにいる時、まんまと誘拐されたけど、ガダの側だったらどうしよう!なんて思ったもんな〜。
そんなことを思い出していると、ルーシュさんは私を見るので思わずドキッとする。な、何でしょうか!?
「貴方、シーヤの住人なの?」
「あ、いえ、元は違う国でして‥、キラさんに‥」
「「愛称呼び!!」」
「はいぃいい!!ウルキラ団長補佐に助けて頂きまして、それ以来こちらに住んでおります!!」
わぁあああ、こ、怖いよぉおお!!
言ってる事は真っ当なんだけどね‥、怒鳴るんじゃなくて、出来れば優しく注意して欲しい‥って、ダメかな?
ヴァン団長さんが、ヒョコッと私とルーシュさんの間に入って、
「ルーシュは、そんなに強く言わないようにな〜」
って言うけど、もうちょい強めに言って欲しい。
とりあえずこの状況をキラさんに見られなくて良かった。きっと、顔をしかめそうだ‥。ニルギさんは私の横で、
「恐怖を感じたら弾く‥という魔術の付与も考えるかな〜」
‥ボソッと守護魔法の追加検討しなくていいから‥。これは帰ったら、絶対ニルギさん‥キラさんに報告しそうだなぁ。ちょっと国交問題に関わるので、やめて頂きたいかも‥。




