黙して語らない騎士の口を動かすお仕事です3
右側に私、左側にキラさん。
何がって?ベッドの位置ね。
トイレとお風呂は、ちょうど真ん中のドアにあった。
ひとまず私はトイレに駆け込んだ。ありがたい・・!!!私の世界と似ている形状!そして、ちゃんと流れてくれる!!異世界へ行ったら、皆・・まずはトイレチェックだよ!と、一人で寸劇してみた。
手を洗って、鏡もあったので、すかさず産毛チェックだ。
・・よし、乙女の身だしなみは大丈夫だった・・。
安心して部屋へ戻ると、甲冑を脱いだシャツ姿のキラさんと目が合う。
・・・・・・・安心とは、ほど遠かった・・・・。
もう一度、洗面所のトイレのドアを閉めたかったが、そっと出る。
「お、お先にありがとうございます・・」
ベッドにお尻を気遣いながら、そっと座る。
いきなりの乗馬は、お尻に厳しい・・。明日、クッション敷きたい・・。
ベッドに腰掛け、窓から外を見る。
夕陽がすっかり傾いて、ランプに照らされた部屋は少し薄暗いけど停電の時につけたロウソクみたいな明かりで、なんだかホッとする。はぁー・・・と、ようやく一息つく。
「・・夕飯を食べに行くか」
「あ、はい!」
キラさんの声で、ハッとして・・ゆっくり立ち上がる。
すると、目の前に手を差し出してくるキラさん。
「・・・んん?」
「横抱きは、恥ずかしそうだったから・・」
「あ、手を繋いで行く・・と?」
「そうだ」
「ありがとうございます・・」
せっかくのお気遣いですが、言葉が足りません・・。
しかし、大変ありがたいお申し出に感謝しつつ、手を握る。だって、恥ずかしさよりも前に、体が動かない。4月から就職!・・だったけど、この運動不足の体じゃあ大変だったかも・・なんて思った。
ゆっくり手を繋いで、階段を下り、扉を無言で開け、先に通してくれる辺りは、さすが騎士さんやぁ・・と感動した。
宿屋の食堂は、人気なんだろうか人がたくさんいて、美味しそうな匂いがする。・・と、お腹が再び鳴る。クッ・・て笑う声が聞こえて、キラさんを見るけど鉄壁の無表情だった。あれ?
空いているテーブルの椅子を引いて、座らせてくれた。
痛いお尻に染みる優しさよ・・。
テーブルにあるメニュー表をキラさんは見て、
「好き嫌いはあるか?」
「辛くなければ、大体食べられますけど・・量はそんなに多くないと嬉しいです」
私の体をチラリと見て、
「そうか」
と、うなずく。
何を納得した???
ウエイトレスさんらしき人をキラさんが手をあげて呼ぶと、いくつか注文してくれた。やってきた料理は、普通に美味しくて、いつもはあまり量が食べられない私もよく食べた。
でも、その量もキラさんからすれば少ないのだろうか・・
「もういいのか?」
と、流石にこれは心配している顔だな・・とわかるほど、気遣ってくれた。
私は、てんこ盛りにもられたお肉を、綺麗なキラさんがどんどん食べていくのを見る方が面白かった。え?まだ食べられるの??ってくらい食べてた。
キラさんは横に遠慮がち置かれていた添え物の野菜に手をつけないので、
「お野菜・・食べた方がいいですよ?」
肉ばっかでは、体には良くない・・そう思って言ってみる。
キラさんは、無表情で野菜を見つめる。
・・嫌いなのかな・・。
なんだか、狼をあっさり追っ払ったくせに、野菜が苦手・・みたいな様子が面白くて、笑ってしまう。
と、キラさんがこちらをじっと見ている。
あ、お気に障りました??
でも、残しても、勿体無いしな・・。
もう一度、お皿の野菜を見る。・・食べてもいいかって聞いてみようかな。
そう思ったら、キラさんがフォークで野菜を刺して、口に入れる。
・・心なしか、無表情だけど苦悶に満ちている。
そんなに嫌いか。
その表情に笑ってしまうと、キラさんはまた無言で私を見つめる。
な、なんだよーー?




