黙して語らない騎士は過保護。3
ようやく落ち着いた生活ができるようになった私・・。
「消える」という力は黙っておくように・・と、ニルギさんに強めに言われたので、もちろん守ります。団長さんはすぐ約束する私を見て、扱いが違う〜と言ってたが、聞かないふりをした。
さて、そんな訳で・・
体もすっかり治った事だし、早速お掃除の仕事を始める事にした。
キラさんはよっぽど心配だったのか、朝食後に、魔法をかけてくれた手首に、もう一度魔法をかけてくれた。銀色の模様が2重になって、キラキラ光っていて結構気に入った。
「そういえば、これ守護魔法の他になんの魔法なんですか?」
「悪意を持って近付いたら、呪われる」
「え、怖すぎるんですけど」
「冗談だ」
「・・・・本当ですね?」
すっと視線を逸らすキラさん・・・。
おい、本当に怖いんですけど??・・でも、まぁ、そんな人はいないであろう・・と思い直して、そのままにする事にした。キラさん心配性だし。
食器を片付けるため、一緒に食堂へ向かおうと部屋のドアを私が開けようとすると、キラさんがこっちをじっと見る視線に気が付いた。私はヘラっと笑って、
「キラさん、心配しすぎです。大丈夫ですよ」
そういうと、水色の瞳が少し困ったように揺れ、
私の目を覗きこむ。
「き・・」
名前を呼ぼうとする前に、静かにキスされて、思わず固まる。
キラさんは静かにこちらを見て、
「・・昼、一緒に食べたい」
「・・・・き、今日、訓練場・・・ですか?」
「ああ」
「・・・・・ご飯、持って行きます・・・」
「ああ」
キラさんは、優しく笑う。無表情だけど・・。
私はなんともいえない気恥ずかしさと、キラさんの放つ甘い空気にいたたまれなくて、落ち着かない気分になってしまう。・・うう、キラさん・・もう少し控えめで!!
一緒に食器を片付けて食堂で別れると、私は早速、寮の掃除に取り掛かる。
大分慣れてきた事もあって、掃除は結構手早くできるようになって、私は綺麗になっていく部屋を見て、充実感に満たされていた。うん、働いてる!
そういえば、食堂で働いている女の子が、もう少しでお給料日だね!って、話してたけど・・私も貰えるんだよね?もし貰えたら、町に行ってみたいな。
そうだ!こっちの世界の住人になったんだから、外出できる!!
今更ながら、自由になんでも出来る・・!と、いう事に気付いた私。
それなら、キラさんに助けてもらったお礼に何かしたいな・・。
騎士さんが使うものとかの方が、いいよね。
誰に聞こうかな・・、そう思っていると、
「あ、ナルさ〜ん!お疲れ〜!!」
あまりあてにしない方がいい人の声が聞こえた。
・・いつも思うけど、団長さん・・タイミング良すぎない???
「・・・お疲れ様です。って、書類すごすぎません?!」
嫌々振り返ったら、山盛りの書類を持って立っている団長さんがいた。
「団長さん、少し持ちますよ・・。執務室に行くんですか?」
「あ、持ってくれる?優しいね〜、ありがと!」
「・・・不本意ですが、そこまで非道ではないので」
ははっ!と団長さんは笑って、私が持っても差し障りない書類を渡す。
寮から詰所まで、話しながら移動する。
「・・・団長さん、仕事してるんですね」
「そりゃしますよ〜。ここは、この国の国防も担当してるからね。ニルギもこっちに住んでくれるといいんだけど、騎士団の寮はむさ苦しいって言って、住宅借りて住んでるんだよね」
「あ、そっか・・。賃貸もあるんですね」
「何?ウルキラと住むの〜?」
「・・あのですね!まだ付き合って3日ですからね!あとナチュラルにセクハラです!!」
「セクハラ・・って、よくわかんないけど、僕達、命の保証がない仕事だからね〜。一緒にいられる時は大事にしておいた方がいいよ〜」
思わず、体が強張る。
「・・・遠征って、危ないんですか?」
団長さんを見ると、首を横に振るので、ちょっとホッとする。
「でもね、命は無限じゃないからね」
人の生き死にに関わっている団長さんの言葉は、ずしっと重みがあった。普段はふざけてばっかりなのに・・。でも、それは私も流石にわかる。こっちに来て、2回は確実に死を覚悟した。
「・・・ちょっとだけ覚えておきます」
「ナルさんらしい」
笑って言う団長さんを見ると、いつものちょっとふざけた笑みになっていた。




