黙して語らない騎士のお仕事。2
ヒゲのでっぷりおじさんと、黒フードの男は、「なぜだ?」「そんな馬鹿な?!」と、言いながら小さい牢屋の中へ入ってくる。私は、混乱しながらおじさん達を避けて、牢屋からそっと出る。
護衛の人も気付いた様子がない・・。
もしかして・・
私の姿が見えない・・?
ひとまず、ここにいたらまずい・・そう思って、おじさん達が入って来た扉をそっと開いて、出ていく。
よ、よし・・!出られた!!!
扉から出ると、上に続く階段があるので、見えませんように〜、ここに私はいません〜〜、ってテノール歌手が歌った有名な歌詞みたいな言葉を思い浮かべながら、そっと上がっていく。
と、今度は木の扉がある。
木の扉に窓があったので、背伸びして外を見ると、人の気配はない。
そっとドアノブを回して、ゆっくり開けると、誰もいない。
よし!出るぞ・・、すると、後ろから怒鳴り声が近付いてくる。
やばい、戻って来た!!
外へ出ると、林があったので、足早にそこへ身を隠す。
と、扉から出て来たヒゲのおじさんが、
「魔法で連れて来たはずなのに、いないなんて・・、また魔法で連れ帰されたんじゃないのか?!」
「いえ、あそこは魔法が効かないようにしてありまして・・、それよりも、あまり大きなお声を出されない方が・・」
「くそ・・・!せっかくの若い娘だったのに・・!!」
背筋がゾッとするような会話に、私は体を固くする。
・・・電車で会う痴漢も最悪だったけど、はっきりと悪意を持った人間って、こんなにも怖いんだな・・、そう思うと体がすくむが、どうにかここから出ていかないと、また捕まる・・・。
おじさん達が向かっていく方向をみると、どうやらお屋敷の敷地内に向かっているようだ。
私の後ろは林だが、手前には木が等間隔に並んだ芝生の庭がある・・。
庭の向こうに、薄っすら道らしきものが見える。
そ・・・っと、林の周囲を見回すと、人の気配はない。
ゆっくり私の体は見えない、誰にも見えない・・と念じるように、林から出て、道へと注意深く歩く。道へ出ると、すぐに物影を探す。
小さな小屋があったので私は扉を開けて、咄嗟にそこへ隠れると、ようやく・・息を吐いた。こ、怖すぎる・・。ここからどうしよう・・。
と、扉がガバッと開く。驚いて声が出ない。
さっきのごつい感じのおじさんが、こちらを見て、ニヤリ・・と笑う。
「見つけた・・」
「ひっ・・」
私の手首を大きな手が掴んだ瞬間、
バチン!!!!!
物凄く大きな音と共に、ごついおじさんは電撃をモロに食らったように、口から煙を出して倒れた。
き、キラさんの守護魔法すごい・・。
思わずポカン・・と、倒れたおじさんを見ていると、急にお腹が何かに掴まれた感覚になる。
「え?!」
周囲を見ると、黒フードがいるぅうううう!!!
な、なんでお屋敷に戻ったんじゃないの??!!
黒フードは、倒れたごついおじさんの頭を足で小突きながら、私に向かって操るように手を動かす。
「ほう、こいつにちょっと待てば出てくるかも・・と言われて、少し待っていれば・・なるほど。姿が見えなくなる力を持っているのか・・」
黒フードがニタニタしてこっちを見ている。
魔法か何かで、捕まえているのだろうか・・、くそ、あの黒フードを触れば、キラさんの守護魔法で気を失わせる事ができるかもしれないのに、絶妙な距離で私を捕まえて動かせないようにしてる。
「あの方に、お前の魂だけ持って行けばいいか」
そう言って、空いていた手から剣が出てくる。
え、待って、それで切るとか?!
「ちょっと、それ絶対痛いと思うけど?!」
「当たり前だ。殺すんだからな・・」
剣が大きく振られて、またスローモーションになる。
うん、スローモーションになっても、私は何もできない!!!
狼の時と同様、私はぼんやりと見ていた。




